Social Impact Act

2018年7月15日

社会的インパクト測定におけるBefore AfterとWith Without、RCTと産業連関表について

最終更新: 2020年8月6日

Social Impact Actの今井です。

Social Impactは日本語訳すると社会的インパクトとなる訳ですが、ソーシャルインパクトとは何でしょうか?

色々な見方ができますが、今回は、社会性を帯びた事業や取り組みの効果の「測定」にフォーカスをあてて紹介します。

Before AfterとWith Without

まず、基本概念として、Before AfterとWith Withoutという考え方があります。

Before Afterはイメージしやすいですよね。リフォームやお化粧などもそうかもしれませんが、施策の「前」と「後」で効果を測定するという方法です。

ただ、例えば、途上国の教育支援を考えた際に、ある教育サービスを実施する「前」と「後」で学力等の測定を実施しても、その教育サービスが本当に寄与しているかは、微妙な問題です。

たとえ、サービスを提供した後で、学力が上がったり、◯◯大学に合格者が出たのとしても、もしかすると、その地域の経済自体が上がっており、その事が、学力向上や◯◯大学への合格に寄与しているかもしれません。(当然その他の要因が働いているかもしれません)

その為、BOPなどを対象にした論文などの多くは、With Withoutという考えに基づいて効果測定を実施している例が多いです。

With Withoutは、Before Afterとは違い、ある教育サービスを享受する対象者と、教育サービスを享受しない対象者に分けて、実際に教育サービスが効果があるかを測定する方法です。

無作為に、ある教育サービスを享受する対象者と、教育サービスを享受しない対象者を抽出する事で、例えば先の例でいうと、たとえその地域の経済自体が上がっていたとしても、ある教育サービスを享受する対象者だけが効果が出ているのであれば、そこに一定の教育サービスの効果が認められるというものです。

RCTとは?

With Withoutの考え方を基本として、無作為に、対象を切り分けて効果を測定する方法が、ランダム化比較試験(RCT) randomized controlled trialと呼ばれるものです。

一定のエビデンスレベルが担保され、繰り返しになりますが、BOPなどを対象にした論文などの多くはRCTなどに基づくものが多いです。

ただ当然、RCTも完璧ではありません。

例えば、先の教育サービスがRCTに基づき、効果が実証されたとしても、それが他の地域でも効果を発生するかは微妙なところです。

教育サービスを例に考えると、ある絵本がアフリカの子供にRCTで分析した結果、効果が出たとします。ただ、それをアメリカや他のアフリカ地域に持っていって効果があるかどうかは微妙な問題です。

時系列もあるかと思いますが、そのサービスなりが効果を発生する「前提条件」のようなものが変わってしまうと効果は変わってきてしまいます。

当たり前ですが、ある画期的な、スマートフォン教育サービスがあったとしても、そもそもスマフォがなかったり、それを操作するなどの、「前提状況」が整っていない地域に持ち込んでも、効果はないのです。(「交絡バイアス」や交絡因子(第三の因子)と呼ばれることもあります)

これは、統計的に考えると、サンプル数のボラティリティーをどこまで広げるか?という議論にいきつく訳ですが、そうした、複数のRCTに基づく、研究を束ねたものがメタアナリシスと呼ばれるもので、よりエビデンスレベルは高いとされています。

サンプル数が十分でなかったり、RCTの設計をうまく行わないと、例えば、犯罪抑止の為に電灯や図書館を作ったとしても、その地域からは犯罪が減って、他の地域で増えてました、ということが発生し得ます(ディスプレースメントと呼ばれるものです)

産業連関表と社会的インパクト

社会的インパクトにおける基礎概念から少し外れますが、産業関連表を聞いたことがあるでしょうか?

こちらは、よくシンクタンクやメディアなどでも、経済効果◯◯億円!などにも使われたりする表です。(産業関連表は更新頻度も低いので、各社でDBを保持しているケースも多いかとは思いますが、基本的な考え方は同じことが多いです)

基本的な概念は、一つの産業活動は、様々な産業や経済活動によって成り立ち、また影響を及ぼしているということです。

一次産業で野菜の生産があるから、スーパーの利益にもなる訳ですし、電力供給があるからから、製造業が運営できるというものです。

それぞれの活動には、それぞれの係数をかけた波及効果が存在するというものです。

産業連関表は、1936年アメリカの経済学者W.W.レオンチェフ博士によって考案され、のちにノーベル経済学賞を受賞しましたが、社会的インパクトの測定についても、ある活動を実施した際には、様々な波及効果が存在する訳です。

民間企業の社会的価値の可視化や促進などのプロジェクトに関わっていると、社会的インパクト領域の産業連関表のようなものがあると大変ありがたいという実感を持っています。

(ただ、実際には、ある社会的活動が、どれほど他の領域に波及効果があるかという、係数の設定などで合意を取ることは難航するだろうとは予想されますが)

今回は、少し長くなりましたが、社会性を帯びた事業や取り組みの効果の「測定」にフォーカスをあてて紹介しました。

引き続き、ソーシャルインパクトを意図した取り組みや測定領域についても、トピックを紹介していきます。

#RCT #社会的インパクト測定 #社会的インパクト評価 #社会的インパクトマネジメント