Scope3 カテゴリ15(投資)は、金融機関の投融資ポートフォリオに紐づくCO2排出量(ファイナンスドエミッション)の算定領域。GHGプロトコル・PCAF・NZBA・SBTi Financial Institutions・PRB・PRI のフレーム整理、業種別(銀行・運用・保険・PE)の論点、邦銀大手の開示状況、2026年現在のNZBA崩壊と再建論まで、経営・IR・金融担当向けに俯瞰する。
Scope3 カテゴリ15(投資)は、企業のサプライチェーン排出量を 15 区分に分けた最後のカテゴリで、自社が保有する投融資ポートフォリオに紐づく温室効果ガス排出量を算定する領域である。金融機関にとっては自社の Scope1〜2 をはるかに上回る最大の排出源であり、近年は「ファイナンスドエミッション(financed emissions)」という名称で、ESG・気候関連開示の中心論点となった。本稿は、Scope3 全体の構造から、カテゴリ15 の算定方法、PCAF・SBTi・NZBA・PRB・PRI の主要フレーム、業種別(銀行・運用・保険・PE)の論点、邦銀大手の 2026 年開示状況、そして 2025-26 年に起きた NZBA 崩壊と再建論までを、経営・IR・金融担当向けに俯瞰する。
GHG プロトコル「Corporate Value Chain (Scope 3) Accounting and Reporting Standard」(2011 年初版)では、企業のサプライチェーン排出量を 15 カテゴリに分類する。詳細は Scope1・2・3 とは を参照。
| カテゴリ | 内容 | 業種代表 |
|---|---|---|
| 1 | 購入した製品・サービス | 製造、小売 |
| 2 | 資本財 | 設備産業 |
| 3 | Scope1/2 以外の燃料・エネルギー | 電力、ガス |
| 4 | 輸送・配送(上流) | 物流 |
| 5 | 事業廃棄物 | 製造 |
| 6 | 出張 | サービス全般 |
| 7 | 雇用者の通勤 | サービス全般 |
| 8 | リース資産(上流) | 不動産 |
| 9 | 輸送・配送(下流) | 物流、小売 |
| 10 | 販売した製品の加工 | 素材、化学 |
| 11 | 販売した製品の使用 | 自動車、電機 |
| 12 | 販売した製品の廃棄 | 製造 |
| 13 | リース資産(下流) | 不動産 |
| 14 | フランチャイズ | 飲食、小売 |
| 15 | 投資(株式・債券・PF・住宅ローン等の運用) | 金融、PE、保険 |
ほとんどの非金融企業にとって、最大の Scope3 排出はカテゴリ 1(調達)かカテゴリ 11(製品使用時)になるが、銀行・保険・資産運用といった金融機関ではカテゴリ 15 が圧倒的に支配的となる。投融資先企業の事業活動そのものに紐づく排出を自社の責任範囲として算定する構造のためである。
詳細は Scope3 カテゴリ1 ── 製品サービス調達 も参照(非金融側の最大カテゴリ)。
Scope3 カテゴリ15 の算定は、原則として「投融資先企業の Scope1〜2 排出量 × 出資比率(または与信比率)」で計算する。ただし、対象資産クラス(上場株式、未上場株式、企業融資、プロジェクトファイナンス、住宅ローン、商業不動産融資、自動車ローン、ソブリン債など)ごとに、算定式と要求精度が異なる。
業界横断で広く参照される方法論が、PCAF(Partnership for Carbon Accounting Financials) が策定した『The Global GHG Accounting and Reporting Standard for the Financial Industry』である。
| 年 | 版 | 範囲 |
|---|---|---|
| 2020 | Part A | 投融資(lending and investments) |
| 2022 | Part B | 保険引受(insurance underwriting) |
| 2023 | Part C | 資本市場 facilitation(債券引受、シ団組成) |
| 2024 | Sovereign Bonds | ソブリン債、SSA |
| 2026 | 改訂中 | アシュアランス対応の精度高度化 |
資産クラスごとの代表例:
PCAF は5段階の Data Quality Score を設けている。
| Score | データ精度 |
|---|---|
| 1 | 検証済み実測値(CDP A スコア企業の公開データ) |
| 2 | 投融資先の自社開示データ |
| 3 | 業種平均原単位での推計(精度中) |
| 4 | 物理量からの推計 |
| 5 | 業種平均原単位の推計(精度低) |
開示時には各資産クラスの加重平均スコアの併記を求めている。先進金融機関は DQS の経年改善を IR 資料で示すのが標準。
CDP の調査によれば、金融機関のファイナンスドエミッションは、自社オペレーション排出量(Scope1+2)の数百倍に達するケースが一般的。三井住友信託銀行、三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループの 2024 年 TCFD / IFRS S2 報告書を見ると、自社 Scope1+2 が数十万 t-CO2 規模なのに対し、ファイナンスドエミッションは数千万〜数億 t-CO2 規模で開示されている(電力・鉄鋼・化学・運輸セクター集中)。
NZBA(Net-Zero Banking Alliance)、NZAM(Net Zero Asset Managers initiative)、NZAOA(Net-Zero Asset Owner Alliance)、NZIA(Net-Zero Insurance Alliance) などの自主的イニシアチブに参加する金融機関は、2050 年ネットゼロおよび中間目標(2030 年に基準年比 30〜50% 削減など)を公約。これらの目標は Scope3 カテゴリ15 を含めた全排出量に対する目標である。
SBTi(Science Based Targets initiative) は、金融機関向け『SBTi Financial Institutions Net-Zero Standard』(2024 年正式版)を提供。Paris Agreement と整合する 1.5℃ 目標の科学的妥当性を第三者検証する。
2024 年末から 2025 年にかけて、金融セクターの脱炭素連合は構造的な動揺に見舞われた。詳細は NZBA 崩壊と再建 を参照。
ここが企業の IR・ESG 担当が最も注意すべき点である。NZBA 脱退があっても、個別の脱炭素エンゲージメントは消えていない。
非金融企業の経営・IR の現場では、特に 2 のエンゲージメントが急速に強まっている。
ファイナンスドエミッション圧力を起点に企業の Scope3 算定・開示の精度向上が一気に求められるフェーズに入っている。
カテゴリ15 の算定をめぐっては、依然として大きな論点が残る。
各社最新の TCFD / IFRS S2 / 統合報告書ベースでの位置取り(2026 年初時点):
最後に、非金融企業の経営・IR 担当者が、自社の金融機関対応で押さえておくべき観点を整理する。
金融機関の Scope3 カテゴリ15 をめぐる潮流は、企業の脱炭素を「ボランタリーな取り組み」から「取引継続・調達コストに直結する経営アジェンダ」へと押し上げる構造を作り出している。
2025 年の米系大手 NZBA 脱退は、自主的イニシアチブの一部退潮を示したが、規制(CSRD、IFRS S2、SSBJ、CSDDD)と市場(機関投資家エンゲージメント、格付け)の二重圧力はむしろ強まっている。Scope3 を理解することは、もはや ESG 部門だけの問題ではなく、財務戦略・経営企画の中核論点となっている。
非金融企業にとっての要点は、**「金融機関の脱炭素目標を、自社の脱炭素戦略の追い風として使う」**こと。金融機関のエンゲージメントを「面倒な質問対応」と捉えるのではなく、取締役会・経営会議で気候戦略を加速する外圧として活用することで、長期競争力につながる。
Scope3 カテゴリ15(投資)は、GHG プロトコル全 15 カテゴリの最後で、金融機関の投融資ポートフォリオに紐づくファイナンスドエミッションの算定領域。PCAF が業界デファクトとなり、SBTi Financial Institutions、NZBA / NZAM / NZIA など複数フレームが連動する構造である。2025 年の米系大手 NZBA 脱退は自主規律の退潮を示したが、CSRD・IFRS S2 / SSBJ・CSDDD の規制圧力は強まり、金融機関から非金融企業へのエンゲージメント圧力は維持されている。
ファイナンスドエミッションの算定・開示、PCAF 準拠データ整備、SBTi Financial Sector 認証取得、トランジションプラン策定、機関投資家・取引銀行とのエンゲージメント戦略について外部専門家の知見が必要な場面では、当サイト運営元の株式会社KI Strategy、Saslaサブスク、およびサステナビリティ専門家マッチングサービスSasla もご活用いただける。
本記事は2026年5月時点の公開情報、PCAF / SBTi / GHG プロトコル / TCFD・ISSB の最新基準書、および邦銀大手の 2024-25 開示資料をもとに再構成した。各基準・各社開示は年次で改訂が入るため、最新版で動向確認を推奨する。
#ESG #Scope3 #カーボンニュートラル #金融 #PCAF #SBTi #NZBA #ファイナンスドエミッション #サステナビリティー
定額制 / サステナビリティ専門家プラットフォーム
「翻訳」の最初の壁に、現役の専門家が定額で並走。チャットで日次、月次セッションで構造化。社内に持ち帰れる “翻訳レポート” まで一緒に作成します。
個別契約 / ESG・サステナビリティ伴走支援
本稿の「4つの意」を組織の規律として実装するための個別支援。マテリアリティ更新、開示設計、社内浸透まで、編集主幹がプロジェクトを率いてご一緒します。
隔週金曜の朝、編集部が選んだ1本と、サステナビリティ業界動向の3行サマリーをお届けします。広告なし、退会はワンクリック。
30分の問診で、御社の論点を編集部が言語化します。 Saslaの定額相談、または KI Strategy の伴走支援へお繋ぎします。
30分の問診を予約する →