Social Impact Act

2020年8月17日

【第四話】社会的インパクトマネジメントとリーンな評価

社会的インパクト評価に関する連載の第四弾です。
 

 
案の定、長期化している本連載ですが、すべての連載を読み終えたことには、インパクト評価の概要や、主な論点や具体的な実施のイメージがつくところまでは続けていきたいなと思っています。
 

 
そうした前提事項の上で、各社でカスタマイズしたり工夫したりすることは無限に可能ですので。
 

 
さて、さっとく前回の続きからですが、もしも、第三話までの内容を見ていない方は、是非、そちらもチェックしてみてくださいね。
 
【第一話】企業の社会的インパクトを如何に測定し公開していくべきか?
 
【第二話】社会的インパクト評価と実施するための重要概念
 
【第三話】社会的インパクト測定における対象範囲と波及効果の論点は?
 

 
前回、主要なポイントとして、
 
・社会的インパクト評価を実施する際には、対象にしている社会的インパクト評価における波及効果の対象をどこまで含めるか?を明確にする
 
・また、波及効果を勘案しようとした場合、どの程度の時系列を想定するかが重要な論点になる
 
・そして、波及効果については、割引価値を考慮して、(係数をかけて)算出する必要がある
 
ということを上げました。
 

 
その上で、第三話で、対象の影響や、時系列についての割引価値の概念が登場しましたので、その補足を入れたいと思います。

まず、前回の振り返りとして、社会的インパクト評価を実施する際は、その対象範囲を明確にする必要があるという話をしました。そして、その対象というのは、一見単純なようで実は、奥が深いテーマであることを紹介しました。
 

 
つまり、単に、教育サービスの社会的インパクトといっても、教育サービスを受ける人だけでなく、その教育サービスを受けた子どもなどにも波及する可能性があるからです。
 

 
そうした際には、インパクト評価を実施する際に、単に教育サービスを受けた人だけでなく、波及する人にも、一定の係数をかけて算出するという手法を紹介しました。
 

 
⇒どの程度の係数をかけるべきですか?という質問が飛んできそうです。
 

 
例えば、教育サービスの例でいうならば、何をKPIにするかにもよりますが、例えば、「大学進学」としたとしましょう。そうした際に、大学進学している親と、高卒までの親でどの程度、子どもの大学進学率が違うかなどを係数にすることも出来そうです。
 

 
ただ、この係数がけについての持論としては、
 
・まず、波及効果があること、そしてその波及効果が及ぼしているであろう範囲を明確にすること
 
・その上で、インパクト評価の前提として(先ほどの例のように)一定のロジックのもと、係数がけをする
 

 
ということで、十分だと考えています。
 
つまり、係数の厳密性をそこまで求めてもしょうがないという考え方です。
 

 
これは、別の回でも紹介しようと思っていたのですが(「インパクト評価」のための「インパクト評価」は避けましょうという議論にも繋がります)、つまりインパクト評価をなぜ行うのか? という原点や目的意識をしっかりと認識することが重要だと考えています。
 

 
もしも、「社会的インパクト評価を実施することで、社会的活動をより効果的」にしたり、または「ステークホルダーにしっかり説明する」ことがゴールなどするならばどうでしょう。
 

 
係数が固定されていれば、次回以降の活動でも同じ視点で評価でき、学習が進みそうですよね。また、ステークホルダーが、どこまで厳密な指標を求めているかは、しっかりコミュニケーションを取りながら、進めていくようにすべきでしょう。
 

 
つまり、社会的インパクトの厳密性と投資額は(当たり前ですが)トレードオフの関係にあります。

厳密にやろうとすればするほど、コストがかかるわけですから。
 

 
そうした意味で、海外などの機関などでも、リーン(筋肉質)は一つのキーワードです。
 
どうすれば、インパクト評価のためのインパクト評価ではなく、目的に沿った効率的なインパクト評価が出来るか?ということを追い求めていく流れです。
 

 
これは、本来素晴らしいビジョンや目的を持って活動する社会企業家などが、その事業自体をアクセラレートするための活動ではなく、単にステークホルダーに説明するためだけの、インパクト評価にリソースの多くを取らせるべきとはいえないという考え方も、根底にはあります。
 

 
例えば、そうした社会的事業に投資している投資家も、その事業が及ぼす経済的リターンとともに、社会的リターンを追求していたとしても、その評価に投資しているというケースは稀でしょうから。
 

 
その一方で、この係数付けの部分は、厳密に考えていくと面白い領域でもあるので、効果測定の部分などとセットにして、紹介していきたいと考えています。
 

 
ただ、リーンであったとしても、もしも「時系列を通じた対象人数に対する波及効果」を考慮するのであれば、最低限考慮すべきポイントとして、下記があります。
 

 
時系列を通じて、対象人数の波及効果は、正の波及効果か、それとも負の波及効果があるか?という論点です。
 

 
何を言っているか分からないですよね笑
 
解説します。
 

 
あくまでもサンプルなので、実際のインパクト評価ではやる必要はないですが、
 
例えば教育を考えてみると、教育を受けた人⇒その子ども⇒その子どもの子ども というように、年数ごとに逓増していくことが予想されます(波及効果を〇〇年と限定してしまえばいいだけの話ですが、理論的には)。
 

 
逆に、犯罪者の再犯防止を考えてみましょう。もしも、そのサービスが行きわたって、そのサービスにより、再犯率が低下していくのであれば、これもあくまでも理論的な話ですが、犯罪者数は逓減していはずです。
 

 
具体的なモデルやサンプルの時に改めて触れますが、インパクト評価を実施していく際に、インパクト評価の対象が、逓増していくものなのか?それとも、逓減していくモデルなのか?は重要な論点になるのです。

今回出てきた重要な論点をまとめると下記です。
 

 
・インパクト評価をなぜ行うのか?という原点や目的意識をしっかりと認識することが重要
 
・インパクト評価のためのインパクト評価ではなく、目的意識にあったリーン(筋肉質)なインパクト評価が主流
 
・時系列を通じた波及効果を考慮するのであれば、インパクト評価の対象が、逓増していくものなのか?それとも、逓減していくモデルなのか?は、要確認