CDPは、投資家や取引先の要請を受けて企業が環境情報を開示し、スコアが付く仕組みである。回答要請が届いたとき、担当者が最初に決めるのは「誰からの要請か」「どのテーマに、どの版で答えるか」「いつまでに何を揃えるか」の3点だ。事務費用の要否、スコアの4段階、IFRS S2・SSBJ開示との使い回しまで、判断の順序で整理する。
取引先の調達部門から、あるいは CDP の事務局から、一通のメールが届く。「貴社に CDP への回答を要請します」。受け取った担当者がまず困るのは、制度の全体像ではない。これは断れるのか、費用はかかるのか、いつまでに何を出せばよいのか、という目の前の判断である。
CDP の解説は、設立経緯やスコアの意味といった制度の説明から始まるものが多い。ただ、要請を受けた側が最初に決めるべきことは、実は3つに絞れる。誰からの要請か。どのテーマに、どの版の質問書で答えるか。締切から逆算して何をいつまでに揃えるか。この順に決めていけば、初回の回答で迷う場面はかなり減る。
本稿は、CDP の回答要請を受けた、あるいは受けそうなサステナビリティー推進・IR・調達の担当者の方に向けて、その判断の順序を整理する。
CDP は、2000 年に英国で設立された非営利組織が運営する環境情報開示の仕組みである。設立時の名称は Carbon Disclosure Project だったが、対象が水や森林に広がり、2013 年に正式名称を CDP のみとした。
構造は単純で、投資家や取引先(要請元)が企業に回答を要請し、企業が質問書に回答し、CDP がそれを採点して要請元に届ける。企業向けの質問書は気候変動・フォレスト・水セキュリティなどを一本にまとめた形式になっており、ISSB・ESRS・TNFD といった開示基準と整合するよう設計されている。規模の小さい企業向けには簡易な SME 版も用意されている。
日本企業の存在感は大きい。2026 年 1 月に発表された 2025 年の A リスト(最高評価の企業)は世界で 877 社、うち日本企業は 240 社を超え、気候変動・フォレスト・水の 3 分野すべてで A を得た「トリプル A」は世界で 23 社だった(オルタナ、2026年1月)。取引先や競合が既に回答している、という状況は珍しくない。
回答要請を受けたら、まず要請元を確認する。ここで、費用がかかるかどうかと、回答の重みが変わる。
CDP の要請元は大きく分けて、資本市場の署名機関(機関投資家など)と、サプライチェーンメンバー(自社の顧客である大手企業)、そして銀行などがある。CDP のヘルプセンターによれば、回答事務費用(admin fee)が必要になるのは、資本市場の署名機関から要請された企業と、要請なしに自主的に回答する企業などである。サプライチェーンメンバーや銀行などからの要請のみであれば、原則として免除される。費用にはいくつかの区分があり、2026 年は全体として約 5% 引き上げられた。金額と自社が選べる区分は回答ポータルで確認する必要がある。なお、免除の場合もポータル上で免除を選択する手続きは必要で、支払いか免除の選択を済ませないと回答を提出できない。
回答は法的な義務ではない。とはいえ、要請しているのは自社の株主か顧客である。断るかどうかは制度の問題というより、その相手との関係をどう扱うかの問題になる。サプライチェーン経由の要請であれば、取引先からカーボンニュートラル・ESG対応を求められたときの考え方と同じ枠組みで考えたほうが、判断がぶれない。
次に決めるのは回答の範囲である。CDP の質問書は一本化されているが、回答するテーマは設定段階で選ぶ形になっている。
2026 年時点でスコアが付くのは、気候変動・フォレスト・水セキュリティの 3 テーマである。プラスチック・生物多様性・海洋は質問には含まれるが、採点の対象外とされている。要請元が求めているテーマはどれか、自社の事業にとって重要なテーマはどれかを突き合わせ、初年度は範囲を欲張らないほうがよい。森林リスクのある原材料を扱わない会社がフォレストに手を広げても、得るものは少ない。
版の選択も実務上は大きい。完全版の質問書は設問が多く、初回の負荷が重い。SME 版に該当する規模であれば、そちらを使うのが現実的である。SME 版は 2026 年から気候変動で A スコアが導入され、簡易版だから評価が頭打ちになる、という制約は緩んでいる。
CDP の回答には締切が 2 つある。2026 年の場合、スコアの対象となる提出期限が 9 月 16 日、最終の提出期限が 10 月 26 日の週に設定されている。前者を過ぎても回答自体は出せるが、スコアは付かない。2026 年のスコアは 11 月 30 日の週に企業へ通知され、その後公表される予定である。
日付は年度ごとに変わるので、毎年 CDP の公式ページで確かめる必要がある。2026 年の並びを前提に逆算すると、排出量などの前年度データは春のうちに固めておきたい。決算の確定を待ってから集め始めると、回答期間の大半をデータ収集に使うことになり、設問の意図を読んで回答を磨く時間が残らない。初回の回答が低いスコアに終わる会社は、能力ではなく、この時間配分でつまずいていることが多い、というのが実感である。
CDP のスコアは 4 段階のレベルに分かれる(CDP ヘルプセンター)。
| レベル | スコア | CDP が見ているもの |
|---|---|---|
| リーダーシップ | A/A- | ベストプラクティスに沿った取り組みと高い透明性 |
| マネジメント | B/B- | 環境課題を管理するための具体的な行動やプロセス |
| 認識 | C/C- | 環境課題と自社事業との関連性の理解 |
| 情報開示 | D/D- | 回答の完全性 |
押さえておきたいのは、必須基準(Essential Criteria)が設けられている点だ。これを満たしていないと、ほかの設問で得点していても下のレベルに据え置かれる。点数を積み上げる発想だけでは上がらない構造になっている。狙うレベルを決めたら、まずそのレベルの必須基準を満たしているかを確認するのが順序である。
初年度の目標は、背伸びしないほうがよい。開示できる情報を漏れなく出して情報開示・認識レベルを確保し、2 年目以降に目標設定や検証といった実装を積んで上のレベルを狙う、という段階の踏み方が現実的だろう。上のレベルを狙う段階では、科学的根拠にもとづく削減目標や排出量の第三者検証といった実装の整備が論点になってくるので、スコア目標はそれらの計画と連動させて置くことになる。なお、CDP の採点は回答に書かれた内容にもとづいて行われ、回答以外の外部情報のうち考慮されるのは SBTi のデータベースにある検証済みの目標のみとされている(CDP コーポレート完全版質問書スコアリングイントロダクション 2026)。ウェブサイトや統合報告書に書いてあっても、回答に書かなければ評価されない。スコアそのものとの付き合い方は、ESG評価機関スコアに振り回されない実務で詳しく扱った。
CDP 対応を単独の作業として抱えると、負荷だけが増える。質問書が ISSB 基準と整合する形で設計されているということは、CDP 回答のために整えたガバナンス、リスク管理、排出量のデータを、IFRS S2 や SSBJ 基準にもとづく開示にも流用できるということである。
時価総額の大きい企業から順に、有価証券報告書でのサステナビリティー開示が義務化されていく(対象と時期は SSBJ の適用判定で整理した)。法定開示の準備と CDP 回答を別々のチームが別々のデータで進めている例を見かけるが、同じ排出量を二度集計し、数字が食い違って説明に追われることになりかねない。データの原本を一つにし、CDP・有報・統合報告書はそこからの出力と位置づける設計にしておくと、年を追うごとに楽になる。自然関連のテーマに広げる場合は、TNFD への着手範囲の決め方と合わせて考えたい。
サプライヤー評価の文脈では、CDP とは別に EcoVadis への回答を求められることもある。両者は評価の対象も方法も違うので、要請元がどちらを見ているかを確認し、外部評価全体の中での優先順位を決めておくとよい。
最後に、初回の回答でよく見かけるつまずきを挙げておく。以下は編集部が現場で見てきた範囲の話である。
一つは、環境部門だけで抱え込むことである。質問書はガバナンス、戦略、リスク管理、調達に及ぶため、経営企画・財務・調達・IR の協力がなければ埋まらない設問が多い。回答期間に入ってから他部門に依頼すると、相手の繁忙期と重なって止まる。要請を受けた段階で、どの設問をどの部門が持つかを割り振っておきたい。
もう一つは、Scope3 の扱いで止まることである。完璧な算定を目指して回答が遅れるより、算定できる範囲から始めて手法を移行していくほうが、スコアの面でも実務の面でも前に進む。
そして、回答すること自体が目的になってしまうパターンである。形だけ埋めた回答は、翌年もう一度同じ苦労を繰り返すだけになる。CDP の設問は、取締役会が気候リスクをどう監督しているか、移行計画があるか、といった経営の問いに及ぶ。回答作業を、それらを社内で議論するきっかけとして使えるかどうかで、数年後の差がつく。
Q. CDP とは何の略ですか。 設立時の名称は「Carbon Disclosure Project」でしたが、対象が水や森林に広がったため、2013 年に正式名称を「CDP」のみに変更しました。2000 年に英国で設立された、投資家や取引先の要請にもとづいて企業が環境情報を開示する仕組みです。
Q. CDP への回答は義務ですか。 法的な義務ではなく任意です。ただし要請しているのは自社の株主や取引先なので、回答するかどうかは、その相手との関係をどう考えるかの判断になります。
Q. CDP の回答に費用はかかりますか。 要請元によって変わります。CDP のヘルプセンターによれば、資本市場の署名機関から要請された企業と自主的に回答する企業は回答事務費用が必要で、サプライチェーンメンバーや銀行などからの要請のみであれば原則として免除されます。金額と区分は年度ごとに改定されるため、CDP の回答ポータルで確認してください。
Q. CDP と IFRS S2(ISSB)・SSBJ 開示の関係は。 CDP の企業向け質問書は ISSB 基準と整合する形で設計されています。CDP 回答のために整えたガバナンス・リスク管理・排出量のデータは、SSBJ 基準にもとづく有価証券報告書の開示準備に流用できる部分が多くあります。
CDP は、投資家や取引先の要請にもとづいて企業が環境情報を開示し、スコアが付く仕組みである。回答要請を受けたら、制度を隅々まで理解する前に、3 つを決める。誰からの要請か(費用の要否と回答の重みが決まる)。どのテーマに、どの版で答えるか(初年度は欲張らない)。締切から逆算して、データをいつまでに固めるか。
そのうえで、スコアは必須基準を軸に段階的に上げ、回答のために整えたデータは IFRS S2・SSBJ 開示にも使い回す。CDP を年に一度の作業として片付けるか、開示データの基盤づくりと経営の議論のきっかけにするかは、初回の設計でほぼ決まる。
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本記事は 2026 年 10 月時点の CDP 公式情報をもとに全面改稿した。締切・費用・スコアリング基準は年度ごとに改定されるため、回答にあたっては CDP 公式と回答ポータルで最新の内容を確認してほしい。
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