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自社が生み出す本質的な価値は何か|IR戦略が最初に答える問い

ロジックモデルもインパクト測定も、その前段が空いていると機能しません。「自社が生み出している本質的な価値は何か」――この一文に答えられるかどうかが、KPIの選び方も投資家との対話も決めます。シンプルな問いから始める順序を整理します。

自社が生み出す本質的価値は何かという問い
FIG. 01 / 自社が生み出す本質的価値は何かという問いPHOTOGRAPHY / ARCHIVE

非財務価値の可視化、インパクト測定、ロジックモデル、統合報告書。この領域の道具立ては、この数年でずいぶん揃いました。

それでも、投資家との対話がかみ合わない企業があります。指標は並んでいる、フレームワークにも準拠している、それなのに「で、御社は何の会社なんですか」という問いに詰まる。

原因は、たいてい手前にあります。自社が生み出している本質的な価値は何か。 この一文に答えられないまま、測定の話を先に始めているのです。

複雑な道具の前に、シンプルな問いを

インパクトの可視化には、いくつもの手法があります。指標を置く、ロジックモデルを組む、RCT(ランダム化比較試験)で効果を測る。手法の整理はインパクト測定と価値の可視化で扱いました。

ただ、これらはいずれも「何を測るか」が決まった後の道具です。測る対象が決まっていない段階で精緻な測定手法から入ると、測りやすいものを測る、という結果になります。

だから順序としては、シンプルな問いから始めるほうがいい。複雑な問いに答えられるようになるのは、単純な問いに答えられるようになった後です。

その最初の問いが、「この会社は、何の価値を生んでいるのか」です。

試しに、他社で考えてみる

抽象的に思えるので、他社で試すと感覚がつかめます。

トヨタが生み出している本質的な価値は何でしょうか。自動車の販売台数でしょうか。移動そのものでしょうか。それとも、モノづくりの方法論を世界に広げたことでしょうか。

ソニーではどうか。武田薬品では。

答えは一つに定まりません。定まらないこと自体が重要で、どう答えるかにその会社の戦略観が出ます。移動と答える会社と、車両と答える会社では、その後の投資判断も、置くべきKPIも変わってきます。

自社について同じ問いを立ててみる。すんなり答えが出るなら、次の段階に進めます。

答えられたら、変数に落とす

価値を言語化できたら、次の問いはこうなります。

その価値が生まれていることを、どの変数で示せるか。

たとえば「移動の自由を広げること」が価値だと定義したなら、示す変数は販売台数ではないかもしれません。地方部での稼働率か、高齢層の利用率か、あるいは移動できなかった人が移動できるようになった数か。

ここまで来て初めて、KPIの候補が出てきます。逆に言えば、価値の定義を飛ばしてKPIを選ぶと、業界で使われている指標を並べるだけになります。他社と同じ指標が並んだ開示は、他社との違いを説明できません。

そして、この変数の議論は財務の議論と切れていません。ここで置いた指標が、いずれ資本コストや将来キャッシュフローの説明と接続していきます。その接続の設計はPBR1倍経営とサステナビリティーの接続で扱っています。

答えられない場合は、遡る

実務でよくあるのは、「自社の本質的な価値」に簡単に答えられないケースです。私の実感では、こちらのほうが多いくらいです。

この場合、無理に答えをひねり出さないほうがいい。むしろ、答えられないという事実を持って遡るべきです。

なぜなら、ここが定まらないまま先に進むと、その後の議論がすべて噛み合わなくなるからです。マテリアリティの議論は他社比較に流れ、KPIは業界標準の借り物になり、統合報告書は各章が縦割りのまま並びます。マテリアリティが形骸化する典型パターン(マテリアリティ形骸化の三つの典型)の多くは、この上流の空白に由来しています。

遡るときの手がかりは、たとえばこうです。

  • 自社がなくなったとき、誰が最も困るのか
  • 顧客が競合ではなく自社を選ぶ理由を、価格以外で説明できるか
  • 創業から今日まで、変えなかったものは何か

これらは経営の問いであって、IR担当が一人で答えられるものではありません。だからこそ、経営層を巻き込む口実としても機能します。

統合報告書の前に

統合報告書の構成をどう組むか、価値創造プロセスの図をどう描くかは、統合報告書の進化と価値創造ストーリーで整理しました。

ただ、あの図(いわゆるオクトパスモデル)が抽象的な絵で終わってしまう企業と、そうでない企業の差は、図の描き方の巧拙ではありません。図の中心に置くべき「自社の価値」が、先に言語化されているかどうかです。

中心が空いたまま外周だけ埋めると、どこかで見たことのある図になります。逆に中心が決まっていれば、6資本も価値創造プロセスも、その説明として自然に配置できます。

金融機関の側でも、企業が生み出す社会的なインパクトを可視化しようという動きが、また一巡して戻ってきています。手法は年々精緻になっていますが、問われていることはさほど変わっていません。この会社は何を生んでいるのか。そこに自分の言葉で答えられるかどうかが、結局のところ対話の質を決めているように思います。


【ご相談窓口】 弊社(株式会社KI Strategy)では、価値創造ストーリーの言語化からKPI設計、投資家対話の設計までを伴走支援しています(専門家プラットフォームSasla経由のご相談も可)。指標は並んだが物語が繋がらないと感じておられる方は、お話を聞かせていただければと思います。

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KI STRATEGY / 編集部

KI Strategy 編集部所属。ESG・サステナビリティを軸に、開示と意思決定を貫くロジックを編む。

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