コーポレートガバナンスコードが2026年中に改訂される見込みです。プリンシプルベースへの揺り戻し、サステナビリティーと多様性の高位原則化、資本配分の規律強化など、「順守すれば良い」発想からの卒業が問われます。担当者向けに改訂対応の考え方を取り上げる。
コーポレートガバナンス・コードは、2015年の策定、2018年・2021年の改訂を経て、2026年に4度目の改訂を迎えます。金融庁と東京証券取引所は2026年4月10日に改訂案を公表し、パブリックコメント(5月15日まで)を経て2026年6月の確定が見込まれています(金融庁)。今回は「成長投資の促進」を旗印に、コード策定時のプリンシプルベースの精神へ立ち返る「コードの実質化」が狙いとされています。
改訂は発行体だけの話では終わりません。コードが求める対話や開示の質が変われば、機関投資家の議決権行使方針やエンゲージメントの姿勢にも波及します。発行体側も、改訂後に自社がどう「読まれる」かを織り込んでおく必要があります。
2026年4月に公表された改訂案は、「成長投資の促進」を旗印に、おおむね次の四点を柱としています。
第一に、コードのプリンシプル化・スリム化。2018年・2021年の改訂で細分化されてきた個別原則を高位の原則に絞り込み、序文を復活させたうえで、コンプライ・オア・エクスプレインの実効性をあらためて強調する方向です。
第二に、有価証券報告書の株主総会前開示。投資家が議決権を行使する前に有報を読める順序へと、開示のタイミングを前倒しする論点です。
第三に、経営資源(資本)配分への踏み込み。現金や政策保有株式を含む資源配分の考え方を、取締役会が合理的に説明することが、より強く求められます。東証の「資本コストや株価を意識した経営」要請の延長線上にあります。
第四に、取締役会事務局の機能強化。形式的な議事運営ではなく、取締役会の実質的な議論を支える機能が問われます。
サステナビリティーや多様性が、独立した新原則として大きく前面に出るわけではありません。むしろプリンシプル化の流れのなかで、各社が自社の状況に即して原則の趣旨をどう実践するか——その質が問われる構図です。
これまでのコーポレートガバナンスコード対応では、多くの企業で、
というパターンが見られてきました。
2026年改訂で問われるのは、こうした順守ベースの発想からの卒業です。「コードに従っている」ことが目的化すると、結局、企業価値向上にはつながりません。むしろ、自社の戦略・状況に照らして「Comply」と「Explain」を意識的に選び分け、Explainの場合はその理由を投資家との対話の場で誠実に語る、という姿勢が求められていきます。
これは「稼ぐガバナンス」と呼べる発想です。ガバナンスを株主・投資家との形式的なやりとりから、企業価値創出の実質的な仕組みに引き戻す動き、と言い換えられます(「稼ぐガバナンス」自体は造語的な表現で、伊藤レポート以降の「稼ぐ力」「攻めのガバナンス」の議論の延長線上にあるものとお考えください)。
ただし、この「稼ぐ」は短期の利益最大化ではありません。中長期の企業価値創出のことです。サステナビリティーへの取り組みは、人材獲得力、ブランド、サプライチェーンの強靭性、規制リスクの低減、資本コストの低下――こうした経路を通じて、中長期の企業価値に還元されます。
CGコード改訂は、サステナビリティーを「義務だから取り組むテーマ」から、「企業価値創出の根幹に組み込むテーマ」へと位置づけ直す機会、と捉えることができます。
担当者にできる手当ては、いくつかあります。自社の「Comply / Explain」を回答の形式ではなく中身で点検し直すこと。原則のスリム化に合わせて社内の運用ルールを見直すこと。サステナビリティー・人的資本・政策保有株式・資本配分を、別々にではなく横串で議論する場を設けること。そして統合報告書・有報・コーポレートサイトの三層を、改訂対応と同じ動線で並べて見直すこと。改訂を「Complyの体裁を整える作業」で終えるか、企業価値創出の足場として使うかで、その後の数年は変わってきます。
ここまで述べてきた「稼ぐガバナンス」への転換は、サステナビリティー部門の業務にも、複数の波及効果をもたらします。
サステナビリティー・トピックが原則レベルに上がることで、取締役会・経営会議でのアジェンダ化が制度的に求められるようになります。これは、当メディアの過去記事「サステナビリティ委員会の実効性は『5つの問い』で見抜ける」で扱った委員会改革の議論と直結します。
また、役員報酬とESG連動KPI、人的資本開示、政策保有株式とサステナビリティー・エンゲージメントなど、複数の論点が同時に動くため、サステナビリティー部門・人事部・IR部門・経営企画部門の協働体制が、これまで以上に問われます。
ある上場企業のご支援では、CGコード改訂を見据えて、改訂対応・統合報告書の章立て見直し・取締役会スキルマトリックスの更新を、別々にではなく一つの動線でまとめて進めています。論点ごとにばらばらに動いていた頃と比べ、開示の整合性も社内の議論のかみ合い方も変わってきます。
「稼ぐガバナンス」を絵に描いた餅にしないためには、こうした横串の協働体制こそが、最も地味で効く打ち手です。
【ご相談窓口】 弊社(株式会社KI Strategy)では、CGコード改訂対応とサステナビリティー・ガバナンス統合の伴走支援を実施しています(専門家プラットフォームSasla経由のご相談も可)。改訂対応をどう設計すべきか悩まれている方は、論点の棚卸しからご一緒します。
定額制 / サステナビリティ専門家プラットフォーム
最初の一歩でつまずく論点に、現役の専門家が定額で並走します。チャットで日次、月次セッションで構造化し、社内に持ち帰れる整理メモまで一緒に作成します。
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