MSCI・Sustainalytics・CDPなどの「商業評価」とは別に、Net Zero Tracker・InfluenceMap・Climate Action Tracker・TPI・WBA・BHRRC等の独立系評価が、機関投資家・NGO・メディアで参照されています。受け身でなく能動的に使い分ける方法を、担当者向けに扱う。
ESG・サステナビリティーの外部評価と聞いて、まず思い浮かぶのは、MSCI、Sustainalytics、CDP、FTSE、S&P CSA、ISS ESGあたりではないでしょうか。これらは商業評価機関と呼ばれる枠組みで、機関投資家への有償提供・ポートフォリオ判断への組み込み・ESGインデックス組成といった用途で広く使われています。
弊社過去記事「ESG評価機関のスコアを目的化していませんか」でも整理した通り、商業評価機関のスコアに振り回されると、本来の戦略議論が見えなくなる、という落とし穴があります。
ただ、最近ご支援先で議論する機会が増えているのが、商業評価機関とは別系統の「独立系評価機関」の動きです。次のような顔ぶれです。
これらは、商業評価機関のように「企業がフィー(手数料)を払って評価を受ける」のではなく、独立系シンクタンク・NGOが、公開情報をベースに評価する仕組みです。機関投資家・規制当局・NGO・メディアが、商業評価とは別の角度で、企業の本気度を点検するために、参照する頻度が増えています。
ここでは、こうした独立系評価機関を、企業側として「受け身ではなく能動的にどう使うか」を扱います。
ふたつの評価系統の違いを、整理しておきます。
商業評価機関(MSCI、Sustainalytics、CDP、FTSE、S&P CSA、ISS ESG等)は、機関投資家への提供や企業向けデータポータルといった有償サービスで、幅広い業種・地域カバレッジを持ち、ポートフォリオ構築・インデックス組成に組み込まれ、企業との対話チャネル(フィードバックの機会)があります。
独立系評価機関(Net Zero Tracker、InfluenceMap、CAT、TPI、WBA、BHRRC、KnowTheChain等)は、無償または機関会員制で、特定論点・特定業種に集中し、科学・規範ベースの厳しい評価軸を持ち、機関投資家・NGO・メディア・規制当局に参照される一方、企業との対話チャネルは質問書ベースや公開情報ベースに限定的です。
両者は補完関係にあり、企業側としては「商業評価のスコアを上げる活動」と「独立系評価で本気度を示す活動」の両方を、戦略的に組み合わせる必要があります。
Net Zero Tracker(NZT)は、各国政府・地方自治体・主要企業のネットゼロ宣言を、品質基準で独立評価するイニシアチブです。NewClimate Institute、Oxford Net Zero、Energy & Climate Intelligence Unit、Data-Driven EnviroLabが共同運営しています。
評価軸は、宣言の対象範囲(Scope1+2のみか、Scope3を含むか)、タイムラインの明確さ(2050年か、それより早いか)、中間目標(near-term targets)の設定、カーボンクレジット・オフセットの位置づけ、トランジション計画の有無と具体性、SBTi等への整合という科学的根拠、取締役会の関与や第三者検証といったガバナンス、進捗開示の頻度・透明性、といった項目です。
機関投資家・NGO・メディアが、企業のネットゼロ宣言の「真剣度」を点検する道具として、NZTのデータを参照する場面が増えてきました。「ネットゼロ宣言を出した」だけでは評価されず、宣言の中身の品質が問われる時代に入っています。
担当者の方には、自社のネットゼロ宣言を、NZTの評価軸で自己点検し、品質を上げる方向に整備することをおすすめします。SBTi認定取得(弊社過去記事「SBTi認定の取得・更新の実務」もご参照ください)、トランジション・プラン策定(弊社過去記事「クライメート・トランジション・プランの実装」もご参照ください)と並走させると、整合的な品質向上が組めます。
CATは、各国政府の気候政策を、パリ協定整合性で評価するイニシアチブです。Climate Analytics、NewClimate Instituteが運営しています。
CATは、各国を「Critically Insufficient」「Highly Insufficient」「Insufficient」「Almost sufficient」「1.5°C compatible」のレベルで分類し、主要国の政策動向・NDCs(国別貢献)・実施状況を継続評価し、国別の脱炭素経路の妥当性を独立科学者の視点で検証しています。
CATは政府向けの評価ですが、企業にも間接的に効きます。自社の事業展開国が「Highly Insufficient」評価を受けていればその国の規制動向の遅れが長期戦略に影響し、主要市場のCAT評価が変動すれば自社のシナリオ分析・物理リスク評価の前提が変わり、CATの評価軸は機関投資家が国別ポートフォリオ判断で参照することもあります。
担当者の方は、自社のシナリオ分析・移行計画の前提を更新する際に、CATの最新評価をチェックする習慣をつけておくと、議論の解像度が上がります。
InfluenceMapは、企業の気候・自然関連政策へのロビイング活動と、業界団体メンバーシップを評価するシンクタンクです。
弊社過去記事「責任あるロビイング(Climate Lobbying)と政治献金の開示」でも触れましたが、InfluenceMapのスコア(A+〜F)は、政府・規制機関への直接的なロビイング活動、業界団体経由の間接的なロビイング活動、業界団体の政策ポジションと自社の表向きのサステナビリティー戦略との整合性、そしてパブリックコメント・ステートメント・SNS等の公開ポジションを、多角的に評価して算出されます。
機関投資家・NGO・メディアからの引用頻度が高く、特に「自社のネットゼロ宣言と、業界団体のロビイング活動が矛盾している」ケースが、InfluenceMap経由で指摘される事例が増えています。
担当者の方には、自社のInfluenceMapスコアの定期チェック、業界団体メンバーシップの年次の全面レビュー、整合性ギャップへの対応方針の社内協議、サステナビリティー報告書での開示をおすすめします。
TPIは、機関投資家主導で、主要排出セクター(電力、自動車、石油ガス、セメント、鉄鋼、食品等)の企業の低炭素移行を評価するイニシアチブです。LSE Granthamがリサーチ・パートナー。
TPIの評価軸は、気候関連ガバナンス・戦略・リスク管理の成熟度を測るManagement Quality(Level 0〜4)と、1.5℃/2℃/NDCsとの整合を測るCarbon Performanceの2つです。
これは、Climate Action 100+のNet Zero Company Benchmarkと連動しており、機関投資家エンゲージメントの主要参照データの一つです。
主要排出セクターの企業担当者の方は、TPIスコアの定期チェックと、CA100+との連携を意識した戦略運用が、機関投資家対話の質を分けます。
WBAは、SDGs達成に向けた企業の貢献を、業種別ベンチマークで評価するイニシアチブです。主なベンチマークは、次のとおりです。
WBAの強みは、業種特化の深い評価軸と、定期的なベンチマーク報告書による「他社との相対位置」の見える化です。機関投資家・NGO・メディアからの引用も増えています。
担当者の方には、自社の業種に該当するWBAベンチマークの結果を、年次の社内点検に組み込むことをおすすめします。
人権領域では、BHRRCとKnowTheChainが、独立評価の中核を担っています。
**BHRRC(Business & Human Rights Resource Centre)**は、企業の人権関連動向・侵害事例・対応事例をグローバルにデータベース化し、特定企業の人権侵害事例がメディア・NGO・機関投資家から参照される際の主要ソースとなり、各企業へのallegations(告発)を追跡しています。KnowTheChainは、強制労働リスクの高い業種(ICT、衣料品、食品・飲料)の企業を評価し、サプライチェーン上の労働環境管理を業種別にベンチマークするもので、機関投資家・規制当局からの参照頻度が高い評価です。
人権DD(弊社過去記事「CSDDD後の人権DD実装」もご参照ください)の対象業種の担当者の方は、これらのデータベースに自社事例がどう掲載されているかを、定期的にチェックすることをおすすめします。
独立系評価機関は、商業評価機関と違って、企業側との対話チャネルが限定的なことが多いです。それでも、能動的な関わり方は可能です。
独立系評価は公開情報ベースが多いため公開情報の質を上げること、年次ベンチマーク調査の質問書に丁寧に回答すること、サステナビリティー報告書・統合報告書で独立系評価の評価軸に整合した情報を開示すること、必要に応じて評価機関に直接連絡しデータの誤りや業種特性を説明すること、ベンチマーク結果の改善計画を社内で議論することが、能動的な関わり方になります。
これらは派手な業務ではありませんが、機関投資家・NGO・メディアからの問い合わせが来てから慌てる、という事態を避けるための、地味な準備です。
商業評価機関と独立系評価機関、それぞれの主要な評価軸を、自社のサステナビリティー領域別に俯瞰するマップを作っておくと、戦略運用に効きます。
例:気候領域のマップ
例:自然関連領域のマップ
例:人権・労働領域のマップ
このマップを社内で共有しておくと、「この領域は、どの評価で何を見られているか」が、担当者・経営層に一気に伝わります。
最後に、独立系評価機関への対応で、避けたいパターンを一つ。
新しい評価が出るたびに、自社のスコア向上策に振り回される、という対応を続けると、結局は商業評価機関対応と同じ消耗構造に陥ります。
担当者の方には、
この姿勢で、評価機関と対峙することを、おすすめします。
評価機関は、自社の鏡として使うのは有益ですが、目的にすると消耗します。商業評価と独立系評価の両方を、戦略的に位置づけ直すこと。これが、振り回されない外部評価対応の、本質的な設計だと思います。
【ご相談窓口】 弊社(株式会社KI Strategy)では、外部評価機関対応の戦略設計、独立系評価への能動的な関わり方、社内の評価軸統合の伴走支援を実施しています(専門家プラットフォームSasla経由のご相談も可)。複数の評価機関対応に振り回されている方は、現状の診断からお手伝いできます。
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