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統合報告書の進化と価値創造ストーリー|投資家に効く構成の作り方

統合報告書は、IIRCのIR Framework・IFRS Foundationの統合に伴い、PBR1倍経営・無形資産・サステナビリティーをひとつのストーリーで語る道具に進化しています。価値創造プロセス、6資本、語り直しの実装ポイントを、IR・サステナ担当向けに見ていく。

統合報告書の進化と価値創造ストーリー|投資家に効
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日本企業の統合報告書は、ここ10〜15年で発行企業数が急増しました。宝印刷D&IR研究所の調査では、2024年の発行企業数は1,150社に達し、前年から131社増えています。2019年時点の536社から5年で倍増した計算です。もはや「先進企業が出すもの」ではなく、出していないことのほうが説明を求められる水準に来ています。一方、その「統合」という言葉の意味については、企業によって解釈・実装にかなりの差があります。

ご支援先のIR・サステナビリティー部・経営企画担当の方からも、統合報告書を毎年作っているが各章が縦割りで「統合」できていない、経営戦略章とESG章が別物として並んでいる、PBR1倍経営・人的資本・サステナビリティー・無形資産がひとつのストーリーになっていない、機関投資家から「中身が薄い」「他社と似ている」と言われる、価値創造プロセスの図表(オクトパスモデル)が抽象的な絵に留まっている、といったご相談を頂くようになっています。

ここでは、統合報告書の本質、IR Framework・IFRS Foundationの動向、価値創造ストーリーの設計、ESG章と財務章の融合、開示設計の精緻化を見ていきます。

統合報告書の本質:「統合」の意味

「統合報告書」(Integrated Report)の概念は、IIRC(International Integrated Reporting Council)が2013年に公表したInternational <IR> Frameworkを起点に、世界に広がりました。

「統合」の本質的な意味は、財務情報と非財務情報を「並べる」のではなく長期の価値創造ストーリーとして「織り込む」こと、短期の業績と中長期の事業継続性・サステナビリティーをひとつの戦略として語ること、財務・製造・知的・人的・社会関係・自然という複数の資本の相互作用で価値が創造されると捉えること、そして経営層の視点で自社が長期に価値を生み出す論理をステークホルダーに伝えることにあります。

IIRCは、2021年にValue Reporting Foundation(VRF)として、SASBと統合し、2022年にはIFRS Foundationに吸収されました。現在、ISSB(International Sustainability Standards Board)が、財務報告(IFRS会計基準)とサステナビリティー報告(IFRS S1、S2)を、ひとつのIFRS Foundation下で運用する構造になっています。

つまり、「統合」の制度的基盤は、ここ数年で大きく前進しました。企業の統合報告書は、この制度進化を踏まえて、設計を一段進化させる時期にあります。

「統合」と「合体」の違い

実務でよくあるパターンは、「統合報告書」と銘打ちながら、前半に経営トップメッセージ・経営戦略・財務情報、中盤に事業セグメント別の事業内容、後半にESGの章(環境・社会・ガバナンス)、そして財務・非財務データのデータセクションが並ぶ、構造的に「合体本」になっている統合報告書です。

これは、経営戦略章ではESGの位置づけが薄く、ESG章では財務・経営戦略との接続が薄く、両者がそれぞれ独立した論理で語られて「統合」されていない、という構造的な問題をしばしば抱えます。

本物の統合報告書は、経営戦略章の中にサステナビリティー・気候・人的資本・自然関連の論点が織り込まれ、ESG章は独立して存在せず各章のテーマに応じてサステナビリティー論点が分散して扱われ、価値創造ストーリーが6資本の相互作用として描かれ、財務KPIと非財務KPIが論理的に繋がっている、という設計です。

6資本と価値創造プロセス

IIRCのIR Framework が提示する「6資本」(6 Capitals)は、価値創造プロセスを構造化する道具として、いまだ有効です。6資本は、次のとおりです。

  • 財務資本(Financial Capital):自己資本、負債、キャッシュフロー
  • 製造資本(Manufactured Capital):生産設備、インフラ、不動産
  • 知的資本(Intellectual Capital):特許、ブランド、ノウハウ、組織能力
  • 人的資本(Human Capital):人材、スキル、組織文化
  • 社会・関係資本(Social and Relationship Capital):顧客、サプライヤー、コミュニティとの関係
  • 自然資本(Natural Capital):生態系サービス、水、土地、生物多様性

価値創造プロセスは、6資本の現状と投入(インプット)、6資本を組み合わせた価値創造活動(事業活動)、製品・サービス(アウトプット)、6資本への影響=増減(アウトカム)、そして短期・中期・長期の価値創造、という流れで構造化できます。

これを、抽象的な「オクトパスモデル」の図表で終わらせず、自社固有の戦略・KPI・進捗で具体化することが、本物の統合報告書の核心です。

PBR1倍経営との接続

弊社過去記事「PBR1倍経営とサステナビリティーの接続」でも触れましたが、東証要請(2023年3月)による「資本コストや株価を意識した経営」の議論は、統合報告書の構造を変える要因です。

統合報告書での接続としては、自社のWACC・ROIC・ROE・PBRの認識、無形資産経営・人的資本投資・サステナビリティー投資の財務影響、成長投資・株主還元・サステナビリティー投資・財務改善といった資本配分の方針、そしてPBR向上に向けた中期計画とサステナビリティー戦略の整合が挙げられます。

これら論点が、経営戦略章で正面から議論され、ESG章とも論理的に接続される構造が、これからの統合報告書の標準です。

サステナビリティーの章立て:「並列」から「織り込み」へ

サステナビリティー論点を、統合報告書にどう織り込むかは、本物の統合の試金石です。

避けたいのは、ESG章(環境・社会・ガバナンス)を独立で並べて各論点を網羅的に書き、経営戦略章ではESGに軽く触れる程度に留め、財務KPIと非財務KPIを別建てで提示する構造です。

理想的なのは、経営戦略章の中で気候・自然・人的資本・人権・ガバナンスの論点が戦略の不可分の要素として織り込まれ、各事業セグメントの説明でその事業特有のサステナビリティー論点が扱われ、価値創造プロセスの中で6資本(特に人的・社会関係・自然)の議論が中心に据えられ、KPIセクションで財務・非財務KPIが論理的に繋がっている構造です。

こうした構造への進化には、IR・サステナビリティー・経営企画・人事・財務・各事業部の横串プロジェクトが必要です。サステナビリティー部単独でも、IR部単独でも、本物の統合は組み立てられません。

ISSB/SSBJ・CSRDとの接続

統合報告書の制度的基盤としては、次のものがあります。

  • IFRS S1(一般要求事項)、IFRS S2(気候関連開示):ISSB
  • SSBJ:日本国内のIFRS S1/S2整合基準
  • CSRD/ESRS:EUの企業サステナビリティー報告指令、影響マテリアリティを含むダブルマテリアリティ
  • 有報のサステナビリティー記載(2023年3月期から義務化)

これらの開示要件と、統合報告書の関係をどう整理するかが、論点です。

主要な設計パターンは3つあります。**パターンA(有報+統合報告書の二段構え)**は、有報で法令・基準ベースの開示(SSBJ整合等)を、統合報告書で自由度の高い価値創造ストーリーを担い、両者の整合性確保が論点になります。**パターンB(統合報告書の一部にSSBJ整合の章を組み込み)**は、統合報告書全体を価値創造ストーリーとしつつ、特定の章でSSBJ・CSRD整合の詳細データを提供し、QRコード・URLでデータセクションや有報へ誘導します。**パターンC(複数文書の組み合わせ)**は、統合報告書(ストーリー中心)、サステナビリティー・データブック(詳細データ)、有報(法令対応)、コーポレートサイト(最新情報)を役割分担させます。

担当者の方は、自社の読者層・目的に応じて、設計パターンを選択する必要があります。

機関投資家との対話の道具として

統合報告書は、自社の自己紹介ではなく、機関投資家・規制当局・取引先・従業員・採用候補者への戦略コミュニケーションの道具です。

機関投資家視点での評価ポイントは、長期戦略と3〜5年の中期計画の論理的整合、PBR・ROE・WACC・ROICの認識と改善計画、気候・自然・人的資本・ガバナンスの論点が戦略の本筋に組み込まれているか、KPIの選択・設定・進捗の論理性、株主還元・資本配分の方針、取締役会・委員会の機能性、そして経営層自身の言葉で自社固有の物語が語られているか、です。

担当者の方は、自社の統合報告書を機関投資家視点で読み返し、他社と差別化された自社固有の物語があるか、財務・非財務が論理的に繋がっているか、経営層自身の言葉で語られているか、3〜5年の継続的な物語の進化があるかを点検することをおすすめします。

「読まれる統合報告書」の運用

統合報告書を「読まれる」ものにするには、IR・サステナ・経営企画・人事・財務・各事業部の横串による年次の編集委員会、CEO・CFO・CSO・CHROをはじめとする経営層・取締役会の主体的な関与、前年の機関投資家フィードバックを反映する継続的なループ、複数の機関投資家・アナリストへの事前レビュー、グローバル展開企業での日本語・英語版の整合性、アナリストが読み込む前提のデザイン・読みやすさ、データの透明性・第三者検証といった運用設計が鍵になります。

あるプライム上場企業のご支援では、年次のCEO・CFOメッセージ、3〜5年の継続的な戦略物語、財務・非財務KPIの論理的な統合、サステナビリティー戦略を各事業セグメントに織り込む構造で統合報告書を再設計しました。再設計後は、機関投資家からのフィードバックも前向きに変わってきています。

「立派な統合報告書」を超える

最後に、統合報告書の運用で、避けたいパターンを一つ。

統合報告書を、デザイン・厚さ・写真の質で勝負する「カタログ化」したアプローチは、機関投資家に響きません。

担当者の方には、

  • 自社固有の長期戦略物語を、CEO・CFOの言葉で語る
  • 財務・非財務KPIを論理的に繋ぐ
  • PBR1倍経営とサステナビリティーをひとつのストーリーで
  • 6資本と価値創造プロセスを、抽象論ではなく具体KPIで構造化
  • SSBJ・CSRD・有報・コーポレートサイトとの役割分担を明確に
  • 機関投資家対話の前提として、年次編集を運用化
  • 経営層・取締役会の主体的な関与
  • 3〜5年の継続的な物語の進化

このあたりを、年次運営の本筋として組み立てることをおすすめします。

形だけ厚くて立派な統合報告書を作るか、本物の戦略コミュニケーションの道具として使うか。担当者の方の意識付けで、企業価値の語り方は確実に変わります。


【ご相談窓口】 弊社(株式会社KI Strategy)では、統合報告書の編集・戦略物語の設計、IR・サステナビリティー・経営企画の横串プロジェクト運営の伴走支援を実施しています(専門家プラットフォームSasla経由のご相談も可)。統合報告書の進化でお悩みの方は、現状の診断からお手伝いできます。

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KI Strategy 編集部所属。ESG・サステナビリティを軸に、開示と意思決定を貫くロジックを編む。

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