Ellen MacArthur FoundationのMCI(Material Circularity Indicator)、WBCSDのCTI(Circular Transition Indicators)、ISO 59000シリーズと、Scope3カテゴリ1・5・12をひとつの動線で管理する設計を、消費財・繊維・家電業種の事例とともに取り上げる。
サーキュラーエコノミーの戦略を組むときに、必ず立ち上がる論点が「KPIをどう設計するか」です。気候領域はScope1+2+3、SBTi、ICPなど指標体系がそれなりに整っていますが、サーキュラー領域は、まだ業界横断で共通言語が固まり切っていません。
ご相談を頂く中堅企業・大企業の担当者の方からも、サーキュラーの目標を立てたいが何を測ればいいか分からない、リサイクル素材含有率以外のKPIが薄い、サーキュラーとScope3の議論が社内で別々に動いている、グローバルの取引先からサーキュラーKPIの提出を求められたが何を出せばいいか、といった声が、徐々に上がってきています。
弊社過去記事「サーキュラーエコノミー実装~プラ条約・PPWR・ESPR・国内プラ法を、ひとつの戦略として束ね直す」では、規制動向と戦略フレームを整理しました。以下では、その実装段階で必要になる「サーキュラーKPI」を、Scope3と接続する形で挙げます。
サーキュラーエコノミーのKPIで、業界横断で参照される指標体系が、ここ数年でいくつか出揃いました。代表的な三派閥を取り上げます。
派閥①:MCI(Material Circularity Indicator、Ellen MacArthur Foundation)。 Ellen MacArthur Foundationが整備する指標で、製品単位・企業単位の物質循環度を0(完全リニア)から1(完全サーキュラー)の連続値で評価します。投入物質の循環性(再生材含有率、再生可能資源比率)、出力の循環性(リサイクル可能性、リユース可能性)、使用期間(製品寿命、修理可能性)の三軸で算定し、製品単位のサーキュラー設計の評価に強みがあります。
派閥②:CTI(Circular Transition Indicators、WBCSD)。 WBCSDが整備する指標で、企業全体・事業単位のサーキュラー転換度合いを評価します。投入資源の循環性(Inflow)、出力の循環性(Outflow)、水循環性(Water)、再生可能エネルギー比率(Energy)、重要鉱物の循環性(Critical materials)の多軸で算定し、事業単位・企業単位の管理に強みがあり、Scope3指標との接続もしやすい構造です。
派閥③:ISO 59000シリーズ(2024年〜順次発行)。 ISOが整備中のサーキュラーエコノミー関連規格です。
これは、企業のサーキュラーマネジメントシステムを、ISO 14001(環境マネジメントシステム)類似の枠組みで整備する規格群です。第三者認証可能な形で整理されつつあり、保証提供者・規制当局からの参照が今後増える見込みです。
MCIとCTIは、用途が違います。
MCIは、製品単位の評価に強い。新製品の設計段階でMCIを算定し、既存品との比較で「どれくらいサーキュラー設計に近づいたか」を測る、というユースケースが典型です。製品設計部門・R&D部門が、設計判断の物差しとして使います。
CTIは、企業単位・事業単位の評価に強い。年次の経営報告で、自社全体のサーキュラー転換度合いを、複数軸で示すユースケースが典型です。経営企画・サステナビリティー部門が、戦略管理の物差しとして使います。
担当者の方は、自社のどのレベル(製品、事業、全社)でサーキュラーKPIを管理したいかで、MCIとCTIを使い分ける、というのが現実解です。両方を組み合わせている企業もあります。
サーキュラー指標とScope3カテゴリは、構造的に重なります。Scope3カテゴリと、サーキュラー指標との対応は、次のとおりです。
つまり、サーキュラー戦略を進めると、Scope3が下がる方向に効きます(特にカテゴリ1、5、11、12)。逆に、Scope3削減を進めると、サーキュラー指標が上がる方向に効きます。
これは、戦略上、サーキュラーと脱炭素を別々に管理する必要がない、という意味です。むしろ、ひとつの動線で管理する方が、社内の議論・データ収集・KPI管理が効率化します。
サーキュラー指標と、Scope3/脱炭素を統合的に管理するときに、ハブになるのがLCA(Life Cycle Assessment、ライフサイクルアセスメント)です。
LCAは、製品の原材料採掘・製造・流通・使用・廃棄の各段階の環境負荷(CO2、水、土地、毒性、富栄養化等)を、定量的に評価する手法です。ISO 14040/14044が国際規格として整備されています。
LCA結果を起点に、各段階のCO2排出量(Scope3カテゴリ別の算定根拠)、各段階の水使用量(CTI Water指標)、各段階の資源使用量(MCI/CTI Inflow指標)、各段階の廃棄物発生量(CTI Outflow、Scope3カテゴリ5・12)、製品単位のCFP(カーボンフットプリント、ISO 14067)を、統合的に算定できます。これが、サーキュラー指標とScope3の共通基盤になります。
EPD(Environmental Product Declaration、ISO 14025)の取得は、LCAをベースにした業界横断の開示として、欧州市場で標準化が進んでおり、CBAM対象セクターを中心に取得が広がっています。
業種別に、サーキュラーKPIの論点を見ていきます。
**消費財(B2C、食品・飲料・化粧品・洗剤等)**では、パッケージのリサイクル素材含有率(PPWRでは使い捨てプラスチック飲料ボトルで2030年に平均30%、2040年に65%)、リユース可能パッケージ率、主要原材料の再生可能資源比率、販売後の回収プログラムでの回収率が論点で、MCI/CTI Inflow指標が主要KPIになります。繊維・アパレルでは、リサイクルポリエステル・リサイクルコットン等の再生繊維比率、有機栽培素材比率、染色・仕上げ工程の水・化学物質使用効率、販売後の回収・修理プログラム、耐久性・修理可能性の設計が中心です。家電・電子機器では、修理可能性指数(Repairability Index、フランスで義務化、EUでも導入予定)、部品供給期間のコミットメント、プラスチック・希少金属のリサイクル素材含有率、eウェイスト回収率、EPR(生産者拡大責任)スキームへの参画が論点です。自動車では、車両の解体可能性・リサイクル可能性(ELV指令)、電池の回収・リユース・リサイクル(EU電池規則、2027年から段階適用)、部品の再生品(リマニュファクチャ)比率、鋼材・アルミ・プラスチックの再生材比率、走行段階のエネルギー効率(電動化)が論点になります。
業種ごとに、優先するKPIと管理する粒度が異なります。汎用フレーム(MCI、CTI)を起点に、自社業種の特性に合わせて、独自KPIを追加する設計が、現実解です。
あるB2C消費財メーカー(欧州市場に展開)のご支援を例に、サーキュラーKPI設計の流れを紹介します。
ステップ1:マテリアリティと業種特性の整理。 自社のマテリアリティ(パッケージ、原材料、製品ライフサイクル)と業種別フレーム(SASB Household & Personal Products、ESRS E5資源利用と循環経済)を突き合わせ、優先KPIを5項目に絞り込みました。ステップ2:MCI/CTIフレームでのKPI構造化。 主要製品ライン(10ライン)でMCIを算定し、企業全体ではCTI Inflow/Outflow/Water/Energyの4軸で管理しました。ステップ3:Scope3との統合。 Scope3カテゴリ1・5・12の算定をCTI/MCIと整合的に設計し、データ管理プラットフォーム(弊社過去記事「ESGデータ管理プラットフォームの選び方」もご参照ください)でサーキュラーKPIとScope3を一元管理しました。ステップ4:LCAでの製品単位検証。 主要製品10ラインのLCAをISO 14040/14044準拠で実施し、EPD取得を進めて欧州市場での開示基盤としました。ステップ5:年次目標とロードマップ。 5項目のKPIに対し2030年・2040年の目標値を設定し、中期経営計画と連動した投資計画を組みました。
この設計により、サーキュラー戦略・脱炭素戦略・サプライヤーエンゲージメントが、ひとつの動線で動くようになりました。社内の議論密度も、開示の説得力も、地味に変わっていきます。
EUのESPRが導入するデジタルプロダクトパスポート(DPP)は、製品のサプライチェーン全体に関する情報をデジタルで管理・開示する仕組みです(弊社過去記事「サーキュラーエコノミー実装」もご参照ください)。
DPPで開示が想定される情報は、原材料の出所(産地、サプライヤー、トレーサビリティ)、リサイクル素材含有率、修理可能性・耐久性・リユース可能性、解体・分別情報、REACH・SVHC等の化学物質情報、カーボンフットプリント・エネルギー効率、サプライチェーンの労働環境で、これらをQRコード・データベースで消費者・規制当局・廃棄処理事業者がアクセスできる仕組みになります。
サーキュラーKPI(MCI、CTI、Scope3)の管理データが、そのままDPPの情報源になる構造です。DPP対応を見据えると、サーキュラーKPIの管理体制をいま整備しておくことが、将来の負荷を大きく減らします。
最後に、サーキュラーKPI設計で、避けたいパターンを一つ。
「気候戦略の中で、サーキュラーは脇役」という位置づけのまま、サーキュラーKPIを薄く管理する企業が、まだ多くあります。リサイクル素材含有率だけ、廃棄物発生量だけ、というように、項目を絞りすぎている、というパターンです。
PPWR、ESPR、DPP、ISO 59000シリーズの整備が進む中で、サーキュラーは「気候の脇役」ではなく、「気候・自然・人権と並ぶ独立の柱」に上がってきています。
担当者の方には、
このあたりを、サーキュラー戦略の柱として組み立て直すことをおすすめします。
「形だけサーキュラー」から、「気候・自然・人権と並ぶ独立柱としてのサーキュラー」へ。担当者の方の意識付けで、戦略の幅と深さが、確実に変わります。
【ご相談窓口】 弊社(株式会社KI Strategy)では、サーキュラー戦略・KPI設計、MCI/CTI実装、Scope3との統合管理、LCA運用、EPD取得・DPP対応の伴走支援を実施しています(専門家プラットフォームSasla経由のご相談も可)。サーキュラー戦略の体系化でお悩みの方は、論点の棚卸しからご一緒します。
定額制 / サステナビリティ専門家プラットフォーム
最初の一歩でつまずく論点に、現役の専門家が定額で並走します。チャットで日次、月次セッションで構造化し、社内に持ち帰れる整理メモまで一緒に作成します。
個別契約 / ESG・サステナビリティ伴走支援
本稿で扱った論点を、組織の規律として実装するための個別支援。マテリアリティ更新、開示設計、社内浸透まで、編集主幹がプロジェクトを率いてご一緒します。
隔週金曜の朝、編集部が選んだ1本と、サステナビリティ業界動向の3行サマリーをお届けします。広告なし、退会はワンクリック。
30分の問診で、御社の論点を編集部が言語化します。 Saslaの定額相談、または KI Strategy の伴走支援へお繋ぎします。
30分の問診を申し込む →