SBTi認定の取得プロセス(Commit/Develop/Submit/Communicate/Disclose)、near-term目標とNet-Zero目標の違い、FLAG(Forest, Land and Agriculture)対応、2025年Net-Zero Standard改訂動向を、上場製造業の事例と共に取り扱う。
SBTi(Science Based Targets initiative)の認定取得を進める日本企業が、ここ2〜3年で急増しました。SBTiのダッシュボードでは、目標認定済みとコミット中を合わせた企業が世界で1万3,000社を超えており、日本はそのなかでも参加数の多い国のひとつです。上場プライム企業を中心に、認定取得は「事実上の標準」と化しつつあります。
典型的な始まり方は、経営からの「SBTi認定を取るように」という指示です。取得すること自体は決まっていて、何から着手するかだけが決まっていない。
そこから、near-term目標とNet-Zero目標のどちらを先に取るのか、自社にFLAG(Forest, Land and Agriculture)対応が要るのか、Net-Zero Standardの改訂にどう備えるか、という順で論点が出てきます。
SBTiの認定取得は、大きく5つの段階(Commit/Develop/Submit/Communicate/Disclose)で進みます。出発点のCommitは、今後24ヶ月以内に科学に基づく目標を策定する旨をSBTiに表明する任意ステップで、ここを飛ばして直接申請することもできます。実質的な作業はDevelopから始まり、自社のScope1/2/3排出量を算定したうえで、SBTi基準に整合する削減目標を設計します。設計した目標案を提出して検証手数料を払うのがSubmitで、ここでSBTi側が科学的整合性を審査します(通常、提出から数ヶ月)。認定が下りたらCommunicateで自社のIR資料・開示書類に公表し、以降はDiscloseとして年次の進捗をCDP等で継続的に開示していきます。
このうち審査の山場はSubmitで、検証フェーズで差し戻しが入ることも珍しくありません。「提出すれば自動的に認定される」とは考えない方が安全です。
SBTiの目標体系は、二つの層からなります(SBTi 基準・ガイダンス)。一つはnear-term目標で、基準年から5〜10年後を目標年とする短期〜中期の削減目標です。Scope1+2は1.5℃シナリオに整合させ、Scope3は総排出量の67%以上をカバーする削減目標を設定します。もう一つのNet-Zero目標は、遅くとも2050年までを目標年とする長期目標で、Scope1+2+3の絶対排出量を基準年比90%以上削減し、残る排出はニュートラリゼーション(除去)で中和します。Scope3カバレッジも90%以上の担保が必要です。
この67%と90%という数字は、いずれも排出量ベースである点に注意してください。調達金額の67%ではありません。金額の大きい取引先と排出量の大きい取引先は一致しないことが多く、ここを取り違えると、エンゲージメントの対象選定そのものが的を外します。
この二つは並列ではなく、順序があります。near-term目標は単独でも認定できますが、Net-Zero目標の取得にはnear-term目標の認定が前提です。つまり、まずnear-termを取得し、その後Net-Zeroへ進むのが実務的な順序になります。
ご支援した上場製造業では、先にnear-term目標を認定取得し、その2年ほど後にNet-Zero目標を追加で取りにいきました。負担が集中したのはNet-Zero取得のほうです。Scope3カバレッジを67%から90%へ引き上げる作業がボトルネックになり、サプライヤー側の一次データ取得を強化するエンゲージメント設計だけで半年以上を要しました。near-term目標のときに「67%で足りる」と割り切って対象外にしたカテゴリが、そのまま宿題として返ってきた形です。順番として先にnear-termを取るのは定石ですが、そのときにどのカテゴリを外したかは、記録に残しておいたほうがよいと思います。
食品・農業・林業・パルプ・繊維・小売など、土地利用や生物起源材料に依存度の高い業種では、FLAG基準への対応が必要になります。
FLAG基準は、土地利用変化由来の排出(森林伐採、土地転換)と、土地ベースの除去(再生農業、植林、土壌固定など)を、独立した目標として扱う仕組みです。一般的なエネルギー起源排出(FLAG以外、いわゆる「non-FLAG」)の目標とは別建てで、目標設定・進捗報告が求められます。
該当業種の判定基準は、自社のGHG排出量のうちFLAG関連(土地利用・農林業由来)が20%以上を占める場合です(SBTi FLAG Guidance)。判定の段階で、自社が対象になるかどうかを早めに見極めることが重要です。ここを見落としたまま通常の目標だけで申請を進めると、FLAG目標の不足を理由に差し戻され、数か月単位で認定が遅れます。
FLAG対応では、土地ベースの除去(リムーバル)の取り扱い、生物多様性とのトレードオフ、サプライチェーン上の森林破壊防止(Deforestation-Free要件)など、エネルギー系と異なる論点が多く、専門的な検討が必要になります。
SBTiは、Corporate Net-Zero Standard V2の改訂を、2025年に二度の公開協議に分けて進めてきました。2025年3月18日に初回ドラフト(V2 Initial Consultation Draft)を公表して6月1日まで第1回パブリックコメントを募り、11月6日には第2回ドラフト(V2 Second Consultation Draft)を公表して12月12日まで第2回パブリックコメントを実施しました。最終版V2.0は2026年中の公表が予定されています。
改訂の主な論点としては、次のような点が議論されています。
既に認定取得済みの企業も、V2.0適用開始後は、移行期間内に新基準に整合した目標再設定・再認定が求められる可能性があります。near-term目標を2024〜2025年に取得した企業は、移行期間と再評価のタイミングを、社内ロードマップに織り込んでおく必要があります。
SBTiの認定は、取得が目的ではなく、目標達成に向けた経営行動を組織に根付かせるための手段です。
担当者の方に取り組んでいただきたいのは、
認定そのものよりも、認定後の運用が、企業価値向上につながるかどうかを分けます。「認定取得して終わり」にせず、組織の脱炭素行動を駆動する道具として育てていくこと。これが、SBTi対応の本質的な使い方です。
【ご相談窓口】 弊社(株式会社KI Strategy)では、SBTi認定取得・更新と脱炭素戦略の伴走支援を実施しています(専門家プラットフォームSasla経由のご相談も可)。near-termからNet-Zeroへの拡張、FLAG対応、2025年改訂への準備でお悩みの方は、現状の診断からお手伝いできます。
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