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SBTi認定の取得・更新の実務|SIA

SBTi認定の取得プロセス(Commit/Develop/Submit/Communicate/Disclose)、near-term目標とNet-Zero目標の違い、FLAG(Forest, Land and Agriculture)対応、2025年Net-Zero Standard改訂動向を、上場製造業の事例と共に取り扱う。

SBTI認定の取得・更新の実務|SIA
FIG. 01 / SBTI認定の取得・更新の実務|SIAPHOTOGRAPHY / ARCHIVE

SBTi(Science Based Targets initiative)の認定取得を進める日本企業が、ここ2〜3年で急増しました。2026年時点で、SBTiにコミット中・認定取得済を合わせた日本企業は1,000社規模に達しており、上場プライム企業を中心に、認定取得が「事実上の標準」と化しつつあります。

ご支援先からも、経営からSBTi認定取得を指示されたものの何から着手すべきか、near-term目標とNet-Zero目標のどちらを先に取るべきか、自社にFLAG(Forest, Land and Agriculture)対応が要るのか、2025年のNet-Zero Standard改訂にどう備えるか——といったご相談を頂きます。

SBTi認定取得の5ステップ

SBTiの認定取得は、大きく5つの段階(Commit/Develop/Submit/Communicate/Disclose)で進みます。出発点のCommitは、今後24ヶ月以内に科学に基づく目標を策定する旨をSBTiに表明する任意ステップで、ここを飛ばして直接申請することもできます。実質的な作業はDevelopから始まり、自社のScope1/2/3排出量を算定したうえで、SBTi基準に整合する削減目標を設計します。設計した目標案を提出して検証手数料を払うのがSubmitで、ここでSBTi側が科学的整合性を審査します(通常、提出から数ヶ月)。認定が下りたらCommunicateで自社のIR資料・開示書類に公表し、以降はDiscloseとして年次の進捗をCDP等で継続的に開示していきます。

このうち審査の山場はSubmitで、検証フェーズで差し戻しが入ることも珍しくありません。「提出すれば自動的に認定される」とは考えない方が安全です。

near-term目標とNet-Zero目標の違い

SBTiの目標体系は、二つの層からなります。一つはnear-term目標で、基準年から5〜10年後を目標年とする短期〜中期の削減目標です。Scope1+2は1.5℃シナリオに整合させ、Scope3は総排出量の67%以上をカバーする削減目標を設定します。もう一つのNet-Zero目標は、遅くとも2050年までを目標年とする長期目標で、Scope1+2+3の絶対排出量を基準年比90%以上削減し、残る排出はニュートラリゼーション(除去)で中和します。Scope3カバレッジも90%以上の担保が必要です。

この二つは並列ではなく、順序があります。near-term目標は単独でも認定できますが、Net-Zero目標の取得にはnear-term目標の認定が前提です。つまり、まずnear-termを取得し、その後Net-Zeroへ進むのが実務的な順序になります。

ご支援した売上数千億円規模の上場製造業では、2023年にnear-term目標を認定取得し、2025年にNet-Zero目標を追加で認定取得しました。Net-Zero取得時には、Scope3カバレッジを67%から90%に拡張する作業が一番の負担で、サプライヤー側の一次データ取得を強化するエンゲージメント設計に半年以上かけています。

FLAG(Forest, Land and Agriculture)対応

食品・農業・林業・パルプ・繊維・小売など、土地利用や生物起源材料に依存度の高い業種では、FLAG基準への対応が必要になります。

FLAG基準は、土地利用変化由来の排出(森林伐採、土地転換)と、土地ベースの除去(再生農業、植林、土壌固定など)を、独立した目標として扱う仕組みです。一般的なエネルギー起源排出(FLAG以外、いわゆる「non-FLAG」)の目標とは別建てで、目標設定・進捗報告が求められます。

該当業種の判定基準は、自社のGHG排出量のうちFLAG関連(土地利用・農林業由来)が20%以上を占める場合(SBTi FLAG Guidanceによる判定)です。判定の段階で、自社が対象になるかどうかを早めに見極めることが重要です。

FLAG対応では、土地ベースの除去(リムーバル)の取り扱い、生物多様性とのトレードオフ、サプライチェーン上の森林破壊防止(Deforestation-Free要件)など、エネルギー系と異なる論点が多く、専門的な検討が必要になります。

2025年Net-Zero Standard V2改訂動向

SBTiは、Corporate Net-Zero Standard V2の改訂を、2025年に二度の公開協議に分けて進めてきました。2025年3月18日に初回ドラフト(V2 Initial Consultation Draft)を公表して6月1日まで第1回パブリックコメントを募り、11月6日には第2回ドラフト(V2 Second Consultation Draft)を公表して12月12日まで第2回パブリックコメントを実施しました。最終版V2.0は2026年中の公表が予定されています。

改訂の主な論点としては、次のような点が議論されています。

  • Scope3対応の強化(業界別ガイダンス、サプライヤー対応の明確化、Scope3カテゴリ別の合理的な絞り込み)
  • 残余排出量・除去(リムーバル)の取り扱い、ベイヨンド・バリューチェーン緩和(BVCM)の位置づけ
  • カーボンクレジット活用範囲の見直し(V1では原則認めていなかった範囲をどこまで開放するか)
  • 短期目標の頻度・更新ルールの厳格化、進捗評価の精緻化
  • 新興国・中堅中小企業向けの簡略化された認定経路(カテゴリA/Bの分け方)
  • Scope2のロケーションベース/マーケットベースの取扱いの明確化

既に認定取得済みの企業も、V2.0適用開始後は、移行期間内に新基準に整合した目標再設定・再認定が求められる可能性があります。near-term目標を2024〜2025年に取得した企業は、移行期間と再評価のタイミングを、社内ロードマップに織り込んでおく必要があります。

「認定取得して終わり」を避ける運用

SBTiの認定は、取得が目的ではなく、目標達成に向けた経営行動を組織に根付かせるための手段です。

担当者の方に取り組んでいただきたいのは、

  • 年次の進捗開示(CDP、統合報告書、有報)と、SBTi目標との整合性チェック
  • 脱炭素ロードマップの進捗を、経営会議で四半期ごとにレビューする運用
  • サプライヤー対応(Scope3カテゴリ1)と、SBTi目標カバレッジの整合
  • SBTi目標と、SLB/SLLのSPT、ICPの価格水準、役員報酬KPIなどとの連動設計
  • SBTiの基準改訂への継続的な対応体制

認定そのものよりも、認定後の運用が、企業価値向上につながるかどうかを分けます。「認定取得して終わり」にせず、組織の脱炭素行動を駆動する道具として育てていくこと。これが、SBTi対応の本質的な使い方です。


【ご相談窓口】 弊社(株式会社KI Strategy)では、SBTi認定取得・更新と脱炭素戦略の伴走支援を実施しています(専門家プラットフォームSasla経由のご相談も可)。near-termからNet-Zeroへの拡張、FLAG対応、2025年改訂への準備でお悩みの方は、現状の診断からお手伝いできます。

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