24/7CFE(24/7 Carbon-Free Energy)は、Google・Microsoftが先導し、時間単位での再エネ整合を求める新しい標準です。GHGプロトコルScope2 Guidance改訂議論、Granular Certificates、PPA設計の精緻化を、担当者向けに取り扱う。
弊社過去記事「コーポレートPPAの選び方」でも触れましたが、再エネ電力調達の議論は、ここ数年でもう一段先に進んでいます。RE100が掲げてきた「年間総量での再エネ100%」のアプローチに対して、より精緻な「24時間×365日(8,760時間)の各時間で再エネ電力を調達する」というアプローチ――24/7カーボンフリー・エネルギー(24/7 Carbon-Free Energy、以下24/7CFE)――が、新しい標準として浮上しています。
Google(2030年までに24/7CFE達成)、Microsoftが先導し、その他のハイパースケーラー、欧州系大手企業、データセンター・運営者が追随する形で、業界の標準が動いています。
論点の入口は、たいてい同じところにあります。年間の総量ではRE100を達成した。では次に何をするのか、という問いです。
そこから、GHGプロトコルScope2 Guidanceの改訂で何が変わるのか、時間単位の再エネ証書(Granular Certificates)をどう調達するのか、PPA契約の時間粒度をどう設計するのか、と話が具体化していきます。最終的に問われているのは一つで、自社のScope2は「実質的に」どこまで脱炭素できているのかです。
ここでは、24/7CFEの概念、GHGプロトコル改訂議論、実装の現実、企業の戦略を取り扱います。
再エネ電力調達のマッチング方式は、大きく2つに分かれます。
**年間総量マッチ(Annual Volumetric Matching)**は、年間の総電力消費量と総再エネ調達量を一致させるRE100の標準的なアプローチで、GHGプロトコルScope2 Guidance(2015年版)のマーケットベース算定の前提となり、年間ベースで100%再エネと言える方式です。**時間単位マッチ(Time-Matching、24/7CFE)**は、24時間×365日(8,760時間)の各時間で同一電力グリッド上で発電された再エネを使用するもので、夜間・無風時の供給確保のため蓄電・地理的多様化・需要応答を要し、Time-stamped EAC(Energy Attribute Certificate)やGranular Certificatesを活用します。
両者の違いは極端に言えば、年間総量マッチが「年に4,380時間ぶんの太陽光を契約しておけば、夜間に石炭火力電力を使っても再エネ100%」とするのに対し、時間単位マッチは「夜間に石炭火力電力を使ったら、その時間は再エネではない」とする、構造的な差です。
時間単位マッチは、再エネの実際の発電タイミングと、自社の消費タイミングの整合を要求するため、はるかに高い精度の調達設計を要求します。
24/7CFEの議論を加速しているのが、GHGプロトコルScope2 Guidanceの改訂議論です。
現行(2015年版)は、Scope2の算定にロケーションベースとマーケットベースの両方を要求し、マーケットベースは年間総量マッチを前提とし、地理的境界(北米、欧州、アジア等)を緩く認識していました。改訂議論(2024〜2025年、2026年公表見込み)の主要論点は、時間単位マッチへの移行、同一電力グリッド・同一国地域への地理的境界の厳格化、新規再エネ設備からの調達かを問う追加性(Additionality)の評価、物理電力と紐付いたBundled証書と単独のUnbundled証書の区別、そしてREC・GO・I-REC・非化石証書等の既存証書市場の扱いです。
GHGプロトコル改訂が時間単位マッチに振れると、現行のRE100調達でカウントしていた多くのケースが、Scope2マーケットベースで「再エネ」とカウントできなくなる可能性があります。
これは、企業のScope2排出量算定・公表値が、改訂後に「悪化」する企業が多数出ることを意味します。担当者の方は、この変化を見越した調達戦略の見直しが必要です。
24/7CFEの先行事例として、Googleの取り組みを扱います。
Googleは、2017年に世界で初めて年間総量100%再エネ電力を達成し、2020年9月に2030年までの24/7CFE達成を発表しました。主要施策は、風力+太陽光+地熱の組み合わせ、蓄電池の大量導入、既存再エネPPAの時間単位マッチングの精緻化、新規地熱PPA(Fervo Energy)・新規SMR PPA(Kairos Power)、そしてAI需要を踏まえた電力消費パターンの最適化(特定時間帯への需要シフト)です。
Googleは、自社の電力消費の時間単位プロファイル、グリッド別の再エネ供給プロファイル、PPAポートフォリオの組み合わせを、データセンター毎に詳細に管理しています。これは、データセンター業界の標準を作っていく動きです。
Microsoft、Iron Mountain、その他のハイパースケーラー・データセンター運営者も、Googleに続く形で24/7CFE路線を採用しています。
24/7CFE実装の道具として、Granular Certificates(時間単位再エネ証書、Time-stamped EAC)の整備が進んでいます。主要な動きには、次のものがあります。
Granular Certificatesは、1時間単位(または15分単位)で発行され、発電所・発電時間・グリッドゾーンが記録され、購入企業の消費時間と購入証書の発電時間が一致する場合のみ「マッチ」とカウントされます。
実装の課題は、年間ベースの既存証書システムとの並走、証書市場の流動性、時間粒度(1時間か15分か5分か)の標準化、電力市場規制との整合です。担当者の方は、自社の主要市場(日本、北米、欧州、アジア)の証書制度を、時間単位対応の進展度合いで評価しておくことをおすすめします。
24/7CFE実装には、いくつかの構造的な課題があります。
課題①:コスト。 24/7CFE調達は、年間総量マッチと比べて電力単価ベースで2〜3倍のコストになるという推計があります。夜間・無風時のクリーン電力供給に蓄電池・調整電源が必要なこと、再エネ供給の地理的多様化が必要なこと、複数PPAや需給調整契約で契約構造が複雑になることが理由で、データセンター・大規模製造業以外では現実的に難しい場合があります。
課題②:技術的な制約。 完全達成には、蓄電池の大量導入(短期蓄電は技術成熟、中長期蓄電は発展中)、水素・アンモニア等の長期貯蔵、ピーク時に消費を抑える需要応答、地熱・原子力といった24時間ベースロード電源、スマートグリッド・需給予測といった複合的な技術が必要です。
課題③:データ管理。 拠点別・設備別の電力消費の時間単位データ、再エネPPA・証書の時間単位プロファイル、グリッド全体の電力構成の時間単位データ、マッチング率の継続計算と開示など、データ管理の負荷が大きくなります。ESGデータ管理プラットフォーム(弊社過去記事「ESGデータ管理プラットフォームの選び方」もご参照ください)の選定で、24/7CFE対応機能を比較軸に入れる必要があります。
24/7CFEを実装するには、PPA契約の設計が、年間総量マッチ時代より精緻になります。
時間プロファイル整合PPAの設計では、発電所の時間単位出力プロファイルと自社消費プロファイルを照合し、太陽光・風力・地熱・蓄電付きなど複数PPAの組み合わせで24時間カバレッジを設計し、需要応答契約と組み合わせ、新規再エネ設備からの調達という追加性を優先します。
あるデータセンター大量利用ユーザーのご支援では、24/7CFE路線への段階的移行を計画しています。当初の年間総量100%再エネ調達から、データセンター毎の時間単位電力プロファイル分析、複数の再エネPPAの時間プロファイル組み合わせ最適化、蓄電付きPPA・地熱PPA・需要応答契約の追加導入、市場が整備された地域からのGranular Certificatesの段階的導入、という段階で5〜7年計画を組み立てています。
24/7CFEの実装難度は、業種によって大きく異なります。
データセンターは、24時間ベースの電力消費(ベースロード型)と大規模なPPA調達能力、安定的な消費プロファイルから、24/7CFE実装の業界標準になっています。製造業は、昼夜・休日・季節で変動する電力消費プロファイルを持ち、コージェネレーションや太陽光屋根設置といった自家発電を活用しつつ、化学・鉄鋼・セメントでは熱の比重が大きいため、24/7CFEは段階的に実装します。**ビル・ファシリティ(オフィス、商業、ホテル)**は、営業時間に偏った消費プロファイル、賃貸ビルでのテナント協働、小規模分散調達が論点です。
業種ごとに、24/7CFE実装のロードマップを設計する必要があります。
最後に、24/7CFE戦略で、避けたい思考パターンを一つ。
「年間100%再エネを達成したから、もう脱炭素は完了」という発想は、24/7CFE時代には通用しません。年間100%再エネ達成企業が、時間単位で見ると実際には50〜70%程度のマッチングしかしていない、という構造が、データ分析で明らかになってきています。
担当者の方には、
このあたりを、3〜5年計画で組み立てることをおすすめします。
形だけ「再エネ100%」を発信するか、24/7CFE時代の本物の脱炭素を目指すか。担当者の方の意識付けで、Scope2戦略の質と信頼性は、確実に変わります。
【ご相談窓口】 弊社(株式会社KI Strategy)では、24/7CFE戦略、PPA契約の精緻化、Scope2マッチング高度化、GHGプロトコル改訂対応の伴走支援を実施しています(専門家プラットフォームSasla経由のご相談も可)。再エネ調達戦略の次の段階でお悩みの方は、論点の棚卸しからご一緒します。
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