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GRIスタンダードとは|2021改訂のGRI 1/2/3と最新セクター基準の解説

GRIスタンダードは、サステナビリティ報告の世界で最も広く参照される国際基準。2021年改訂で再編されたGRI 1(基礎)/GRI 2(一般開示)/GRI 3(マテリアル項目)の構造、セクター別基準(GRI 11〜14)、UNGP統合と二重重要性の導入、ISSB・ESRSとの関係を整理する。

GRIスタンダード 2021改訂 セクター別基準
FIG. 01 / GRIスタンダード 2021改訂 セクター別基準PHOTOGRAPHY / ARCHIVE

GRIスタンダード(GRI Standards)は、企業や組織がサステナビリティ報告を行う際の世界で最も広く参照される国際基準である。GRI(Global Reporting Initiative) が策定・維持しており、日本を含む世界 100 か国以上で数千社が採用している。2021年に Universal Standards が大幅改訂され、2023年1月以降の報告で適用必須となった現行体系の基礎と、2024年から続くセクター別基準・トピック基準の拡充までを、実務観点で整理する。

GRIスタンダードとは

GRIスタンダードは、企業や組織が経済・環境・社会に与えるインパクトを報告するためのモジュール式の国際基準である。1997年に米ボストンの非営利団体 Ceres と UNEP の協働で発足した GRI が策定・維持しており、報告における共通言語を提供することで、ステークホルダーへの説明責任を支える役割を担ってきた。

GRI の歴史を簡単に整理すると次の通り。

  • 2000年:GRI 初版ガイドライン(G1)公表
  • 2002年:G2
  • 2006年:G3 リリース
  • 2013年:G4 リリース(マテリアリティ重視へ大きく舵を切る)
  • 2016年:従来のガイドラインを「Standards」(基準)に格上げ。共通スタンダード(101/102/103)と項目別スタンダード(200/300/400)の構造
  • 2021年10月Universal Standards の大幅改訂。GRI 1/2/3 の番号体系へ再編、UNGP(国連ビジネスと人権に関する指導原則)を統合、二重重要性の考え方を導入
  • 2023年1月:改訂版 Universal Standards の適用が義務化

2021年改訂で何が変わったか

2021年改訂は、2016年の「ガイドラインから基準への移行」以来、最大規模の改訂となった。最大の変更は次の3点に集約される。

① 番号体系の再編

GRI 101(基礎)→ GRI 1(基礎)、GRI 102(一般開示)→ GRI 2(一般開示)、GRI 103(マテリアルな項目のマネジメント)→ GRI 3(マテリアル項目)へと簡素化された。Topic Standards(200/300/400)は構造を保ったまま継続。

② UNGP(人権)の統合

ビジネスと人権に関する国連指導原則(UNGPs, John Ruggie ほか)への対応が、Universal Standards に正式に組み込まれた。これにより、企業はサプライチェーン全体での人権デューデリジェンス(HRDD)の実施プロセスを GRI 2 で開示する必要がある。

③ マテリアリティ概念の刷新

GRI 3 では、組織が経済・環境・人々(人権を含む)に対して与えるインパクトを起点に重要項目を特定するアプローチが明示された。これはいわゆる「インパクト・マテリアリティ」を中核に据えるもので、財務的影響に着目するシングル・マテリアリティと、両方を見るダブル・マテリアリティ(EU の CSRD)の議論を後押しした。

GRI 自身は「ステークホルダーへのインパクト」を起点とする立場をとっており、ISSB(IFRS Sustainability Disclosure Standards)の「企業価値への影響」起点のアプローチと相補的に位置づけられる構造になっている。

Universal Standards の3層構造

2021年改訂以降の GRI Universal Standards は次の3つで構成される。

基準役割
GRI 1: Foundation 2021GRIスタンダードを使用する際の出発点。基本概念、報告原則、要求事項を定める
GRI 2: General Disclosures 2021組織の活動、ガバナンス、戦略、ステークホルダー・エンゲージメントなど、組織に関する一般的な開示事項
GRI 3: Material Topics 2021マテリアルな項目(重要項目)の特定方法と、各項目に関するマネジメント手法の開示要件

特に GRI 2 ではセクション3「ガバナンス」が大幅に強化され、最高ガバナンス機関の構成・選任プロセス・役割・報酬に関する開示が追加されている(13の新規開示項目)。

Topic Standards:200 / 300 / 400

組織が GRI 3 で特定した「マテリアルな項目」を報告する際に、項目別に参照するのが Topic Standards(200/300/400 シリーズ) である。

シリーズ領域主な項目
GRI 200経済経済パフォーマンス、市場での存在感、間接的な経済的インパクト、調達慣行、腐敗防止、反競争的行為、税金
GRI 300環境原材料、エネルギー、水、生物多様性、排出物、廃棄物、サプライヤーの環境評価
GRI 400社会雇用、労使関係、安全衛生、研修、ダイバーシティ、ハラスメント、人権、地域コミュニティ、サプライヤーの社会評価、顧客の安全・プライバシー

これらは「マテリアル項目」として組織が選定したものだけを報告すれば足りる。すべての企業が全項目を開示する必要はない。

近年は Topic Standards 自体の改訂も進んでいる。GRI 101: Biodiversity 2024(生物多様性、2024年改訂)、GRI 102: Climate Change 2025(気候変動)、GRI 103: Energy 2025(エネルギー)の改訂版が公表されており、TNFD(自然関連財務情報開示)や IFRS S2 など他の基準との整合が進められている。

Sector Standards:業種特化基準(GRI 11〜14)

2021年以降に導入された新しいレイヤーが、Sector Standards(業種別基準) である。茶色のカバーで識別され、業種特有のサステナビリティインパクトとマテリアル項目候補を提示する。

基準対象セクター公表適用開始
GRI 11石油・ガス2021年10月2023年1月
GRI 12石炭2022年3月2024年1月
GRI 13農業・水産養殖・漁業2022年6月2024年1月
GRI 14鉱業(石油・ガス・石炭を除く)2024年2月2026年1月

Sector Standards 自体は新たな開示項目を直接定義しているわけではなく、その業種でマテリアルになりやすい項目を整理して提示する。報告者は、自社のマテリアル項目を選定する際に Sector Standard を参照することで、業界水準と比較しやすい開示を実現できる。

今後はテキスタイル、金融、保険、農薬・肥料、医療・製薬など、追加の Sector Standards の開発が継続的に進められている。

主要用語の定義

GRI で繰り返し登場する用語を整理しておく。

用語定義
インパクト(Impact)経済・環境・人々(人権を含む)に対して組織が与える影響。プラスとマイナスの両方を含む
項目(Topic)経済・環境・社会に関係する主題
マテリアル項目(Material topic)組織が経済・環境・人々に対して与える著しいインパクトを反映する項目。GRI 3 でこの特定プロセスを開示
デューデリジェンス(Due diligence)組織が顕在的・潜在的なマイナスのインパクトを識別・防止・軽減・対処するプロセス
ステークホルダー(Stakeholder)組織の活動・製品・サービスから影響を受ける、または組織の目的達成能力に影響を与える個人・組織
マネジメント手法の開示(Management approach disclosure)マテリアル項目とそれに関するインパクトを、組織がどのようにマネジメントしているかの記述

なお「項目の該当範囲(topic Boundary)」は2021年改訂で扱いが変わり、現在は GRI 3 のマテリアル項目特定プロセスの中で、インパクトが生じる場所・主体を記述する形に整理されている。

ISSB(IFRS S1/S2)・ESRS との関係

GRI は世界中のサステナビリティ報告基準のなかで「インパクト・マテリアリティ」を起点とする立場をとる。これに対し、ISSB の IFRS S1/S2(2024年から各国で適用開始)は「企業価値・投資家への財務的影響」を起点とする。両者は対立ではなく補完関係にある。

EU の CSRD(企業サステナビリティ報告指令)/ESRS(欧州サステナビリティ報告基準) は両方を統合した「ダブル・マテリアリティ」を要求する設計となっており、その意味で GRI と ISSB の両アプローチを参照する形になっている。GRI は ESRS との相互運用性を維持するための共同声明を欧州委員会・EFRAG と発出している。

実務での整理は次のようになる。

  • GRI:ステークホルダー全般向け、インパクト起点、報告の歴史が最も長く、業界別 Sector Standards も整備
  • ISSB(IFRS S1/S2):投資家・金融市場向け、財務影響起点、IOSCO 推奨
  • ESRS:EU 域内事業者向け(域外大企業も対象)、ダブル・マテリアリティ起点
  • TCFD:気候関連財務情報開示、ISSB IFRS S2 に統合・継承された

日本企業は、ISSB の動向を踏まえて SSBJ(サステナビリティ基準委員会)が国内基準を策定中であり、2025年以降に確定基準が出る予定。GRI と SSBJ/ISSB の併用を前提とした開示設計が当面の実務になる。

日本企業の対応実務で押さえる論点

サステナビリティ報告書を GRI 準拠で発表している日本企業は、東証プライム上場企業を中心に多い。実務で押さえるべき論点を整理する。

  1. 適用バージョンの明示:2021年改訂以降の Universal Standards に基づく場合、「in accordance with the GRI Standards」もしくは「with reference to」のいずれを宣言するかを選ぶ
  2. マテリアル項目の特定プロセスの開示:GRI 3 で、ステークホルダー・エンゲージメント、インパクト評価、優先順位付けのプロセスを文書化
  3. Sector Standards の参照:自社業種に該当する GRI 11〜14 を参照し、業種固有のマテリアル項目候補をマテリアリティ評価の入力として利用
  4. ガバナンス開示の強化:GRI 2 の追加項目に対応するため、取締役会レベルでのサステナビリティ オーバーサイトの仕組みを文書化
  5. GRI と ISSB の併用設計:両者を別物として運用するのではなく、ステークホルダー価値と企業価値の両軸で報告コンテンツを設計する

GRI スタンダードは英語版が原本だが、日本語版も世界で最も早く公開された言語の一つで、グローバル・リポーティング・イニシアチブの公式サイトからダウンロード可能である。

GRI スタンダード日本語版ダウンロード(GRI 公式サイト)

まとめ

GRI スタンダードは「ガイドラインから基準へ」(2016)、「Universal Standards 改訂」(2021)、「Sector Standards の段階導入」(2021〜2026)と段階的な進化を続けており、サステナビリティ報告の世界共通言語として現在も中核的な位置を占めている。

ISSB IFRS S1/S2、EU ESRS、TCFD、SASB、CDP、TNFD など隣接基準が乱立する中で、GRI は「ステークホルダーへのインパクト」起点という独自の立ち位置を維持しており、その意味で財務報告寄りの ISSB と相補的に機能している。両者を併用する設計が、日本企業の今後のサステナビリティ開示の主流になる。

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本記事は2026年5月時点で再構成した。GRI スタンダード、ISSB、ESRS、SSBJ いずれも進展の早い領域なので、GRI 公式サイト、IFRS Foundation、EFRAG、SSBJ の最新リリースで都度確認することを推奨する。

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