GRIスタンダードは、サステナビリティ報告の世界で最も広く参照される国際基準。2021年改訂で再編されたGRI 1(基礎)/GRI 2(一般開示)/GRI 3(マテリアル項目)の構造、セクター別基準(GRI 11〜14)、UNGP統合と二重重要性の導入、ISSB・ESRSとの関係を整理する。
GRIスタンダード(GRI Standards)は、企業や組織がサステナビリティ報告を行う際の世界で最も広く参照される国際基準である。GRI(Global Reporting Initiative) が策定・維持しており、日本を含む世界 100 か国以上で数千社が採用している。2021年に Universal Standards が大幅改訂され、2023年1月以降の報告で適用必須となった現行体系の基礎と、2024年から続くセクター別基準・トピック基準の拡充までを、実務観点で整理する。
GRIスタンダードは、企業や組織が経済・環境・社会に与えるインパクトを報告するためのモジュール式の国際基準である。1997年に米ボストンの非営利団体 Ceres と UNEP の協働で発足した GRI が策定・維持しており、報告における共通言語を提供することで、ステークホルダーへの説明責任を支える役割を担ってきた。
GRI の歴史を簡単に整理すると次の通り。
2021年改訂は、2016年の「ガイドラインから基準への移行」以来、最大規模の改訂となった。最大の変更は次の3点に集約される。
GRI 101(基礎)→ GRI 1(基礎)、GRI 102(一般開示)→ GRI 2(一般開示)、GRI 103(マテリアルな項目のマネジメント)→ GRI 3(マテリアル項目)へと簡素化された。Topic Standards(200/300/400)は構造を保ったまま継続。
ビジネスと人権に関する国連指導原則(UNGPs, John Ruggie ほか)への対応が、Universal Standards に正式に組み込まれた。これにより、企業はサプライチェーン全体での人権デューデリジェンス(HRDD)の実施プロセスを GRI 2 で開示する必要がある。
GRI 3 では、組織が経済・環境・人々(人権を含む)に対して与えるインパクトを起点に重要項目を特定するアプローチが明示された。これはいわゆる「インパクト・マテリアリティ」を中核に据えるもので、財務的影響に着目するシングル・マテリアリティと、両方を見るダブル・マテリアリティ(EU の CSRD)の議論を後押しした。
GRI 自身は「ステークホルダーへのインパクト」を起点とする立場をとっており、ISSB(IFRS Sustainability Disclosure Standards)の「企業価値への影響」起点のアプローチと相補的に位置づけられる構造になっている。
2021年改訂以降の GRI Universal Standards は次の3つで構成される。
| 基準 | 役割 |
|---|---|
| GRI 1: Foundation 2021 | GRIスタンダードを使用する際の出発点。基本概念、報告原則、要求事項を定める |
| GRI 2: General Disclosures 2021 | 組織の活動、ガバナンス、戦略、ステークホルダー・エンゲージメントなど、組織に関する一般的な開示事項 |
| GRI 3: Material Topics 2021 | マテリアルな項目(重要項目)の特定方法と、各項目に関するマネジメント手法の開示要件 |
特に GRI 2 ではセクション3「ガバナンス」が大幅に強化され、最高ガバナンス機関の構成・選任プロセス・役割・報酬に関する開示が追加されている(13の新規開示項目)。
組織が GRI 3 で特定した「マテリアルな項目」を報告する際に、項目別に参照するのが Topic Standards(200/300/400 シリーズ) である。
| シリーズ | 領域 | 主な項目 |
|---|---|---|
| GRI 200 | 経済 | 経済パフォーマンス、市場での存在感、間接的な経済的インパクト、調達慣行、腐敗防止、反競争的行為、税金 |
| GRI 300 | 環境 | 原材料、エネルギー、水、生物多様性、排出物、廃棄物、サプライヤーの環境評価 |
| GRI 400 | 社会 | 雇用、労使関係、安全衛生、研修、ダイバーシティ、ハラスメント、人権、地域コミュニティ、サプライヤーの社会評価、顧客の安全・プライバシー |
これらは「マテリアル項目」として組織が選定したものだけを報告すれば足りる。すべての企業が全項目を開示する必要はない。
近年は Topic Standards 自体の改訂も進んでいる。GRI 101: Biodiversity 2024(生物多様性、2024年改訂)、GRI 102: Climate Change 2025(気候変動)、GRI 103: Energy 2025(エネルギー)の改訂版が公表されており、TNFD(自然関連財務情報開示)や IFRS S2 など他の基準との整合が進められている。
2021年以降に導入された新しいレイヤーが、Sector Standards(業種別基準) である。茶色のカバーで識別され、業種特有のサステナビリティインパクトとマテリアル項目候補を提示する。
| 基準 | 対象セクター | 公表 | 適用開始 |
|---|---|---|---|
| GRI 11 | 石油・ガス | 2021年10月 | 2023年1月 |
| GRI 12 | 石炭 | 2022年3月 | 2024年1月 |
| GRI 13 | 農業・水産養殖・漁業 | 2022年6月 | 2024年1月 |
| GRI 14 | 鉱業(石油・ガス・石炭を除く) | 2024年2月 | 2026年1月 |
Sector Standards 自体は新たな開示項目を直接定義しているわけではなく、その業種でマテリアルになりやすい項目を整理して提示する。報告者は、自社のマテリアル項目を選定する際に Sector Standard を参照することで、業界水準と比較しやすい開示を実現できる。
今後はテキスタイル、金融、保険、農薬・肥料、医療・製薬など、追加の Sector Standards の開発が継続的に進められている。
GRI で繰り返し登場する用語を整理しておく。
| 用語 | 定義 |
|---|---|
| インパクト(Impact) | 経済・環境・人々(人権を含む)に対して組織が与える影響。プラスとマイナスの両方を含む |
| 項目(Topic) | 経済・環境・社会に関係する主題 |
| マテリアル項目(Material topic) | 組織が経済・環境・人々に対して与える著しいインパクトを反映する項目。GRI 3 でこの特定プロセスを開示 |
| デューデリジェンス(Due diligence) | 組織が顕在的・潜在的なマイナスのインパクトを識別・防止・軽減・対処するプロセス |
| ステークホルダー(Stakeholder) | 組織の活動・製品・サービスから影響を受ける、または組織の目的達成能力に影響を与える個人・組織 |
| マネジメント手法の開示(Management approach disclosure) | マテリアル項目とそれに関するインパクトを、組織がどのようにマネジメントしているかの記述 |
なお「項目の該当範囲(topic Boundary)」は2021年改訂で扱いが変わり、現在は GRI 3 のマテリアル項目特定プロセスの中で、インパクトが生じる場所・主体を記述する形に整理されている。
GRI は世界中のサステナビリティ報告基準のなかで「インパクト・マテリアリティ」を起点とする立場をとる。これに対し、ISSB の IFRS S1/S2(2024年から各国で適用開始)は「企業価値・投資家への財務的影響」を起点とする。両者は対立ではなく補完関係にある。
EU の CSRD(企業サステナビリティ報告指令)/ESRS(欧州サステナビリティ報告基準) は両方を統合した「ダブル・マテリアリティ」を要求する設計となっており、その意味で GRI と ISSB の両アプローチを参照する形になっている。GRI は ESRS との相互運用性を維持するための共同声明を欧州委員会・EFRAG と発出している。
実務での整理は次のようになる。
日本企業は、ISSB の動向を踏まえて SSBJ(サステナビリティ基準委員会)が国内基準を策定中であり、2025年以降に確定基準が出る予定。GRI と SSBJ/ISSB の併用を前提とした開示設計が当面の実務になる。
サステナビリティ報告書を GRI 準拠で発表している日本企業は、東証プライム上場企業を中心に多い。実務で押さえるべき論点を整理する。
GRI スタンダードは英語版が原本だが、日本語版も世界で最も早く公開された言語の一つで、グローバル・リポーティング・イニシアチブの公式サイトからダウンロード可能である。
GRI スタンダード日本語版ダウンロード(GRI 公式サイト)
GRI スタンダードは「ガイドラインから基準へ」(2016)、「Universal Standards 改訂」(2021)、「Sector Standards の段階導入」(2021〜2026)と段階的な進化を続けており、サステナビリティ報告の世界共通言語として現在も中核的な位置を占めている。
ISSB IFRS S1/S2、EU ESRS、TCFD、SASB、CDP、TNFD など隣接基準が乱立する中で、GRI は「ステークホルダーへのインパクト」起点という独自の立ち位置を維持しており、その意味で財務報告寄りの ISSB と相補的に機能している。両者を併用する設計が、日本企業の今後のサステナビリティ開示の主流になる。
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本記事は2026年5月時点で再構成した。GRI スタンダード、ISSB、ESRS、SSBJ いずれも進展の早い領域なので、GRI 公式サイト、IFRS Foundation、EFRAG、SSBJ の最新リリースで都度確認することを推奨する。
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