WBCSD Guidance on Avoided Emissions(v2.0)と、GHGプロトコルのBeyond Value Chain Mitigation議論を踏まえ、自社製品の環境貢献を語る正しい方法を解説。GHG Inventoryと別枠で開示する原則、ベースライン設定の落とし穴、「Scope4」呼称の注意点の要点を扱う。
「自社の製品やサービスが、顧客側でどれだけのCO2削減に貢献したか」――この概念は、近年Avoided Emissions(回避排出量)と呼ばれ、企業のサステナビリティー発信で急速に注目を集めています。一部では「Scope4」という呼び方も広がっていますが、これはGHGプロトコルの正式な分類ではなく、議論の便宜上の名称です。
WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)が2023年9月に「Guidance on Avoided Emissions」初版を公表し、2025年7月24日にv2.0を公表しました(WBCSD)。v2.0は、2年間にわたる加盟企業との構造化テストと、約60日間のパブリックコンサルテーションを経た改訂版です。並行して、WBCSDは業種別の補足ガイダンス(建設環境向け、農業・食品向け、エネルギー向け、Transport & Mobility向け)の整備を順次進めています。GHGプロトコルでも、2024年前後にBeyond Value Chain Mitigation(BVCM、バリューチェーン外緩和)に関するコンサルテーション・議論が進められ、関連する議論が深まっています。
ご支援先からも、自社製品の環境貢献を統合報告書で訴求したいが書き方が分からない、「自社製品が顧客側で年間○トンのCO2削減に貢献」と語って大丈夫か、「Scope4」と呼んでいいのか・どこまで第三者検証に耐えるのか——こうした相談を頂くようになっています。
Avoided Emissionsとは、「自社の製品・サービスを使用することで、ベースライン(その製品・サービスがなかった場合の代替シナリオ)と比較して、顧客側で削減された排出量」を指す概念です。
具体例を挙げると、
などです。
自社の事業活動が、社会全体の脱炭素にどう寄与しているかを、定量的に示すための概念、と位置づけられます。
ここで、最も重要なのが、Avoided EmissionsはGHG Inventory(Scope1+2+3の自社排出量)とは別枠で報告する、という原則です。
理由は明確で、
両者は性質が異なるため、合算して相殺すると、自社の排出量を誤って小さく見せることになり、グリーンウォッシュ判定リスクが極めて高くなります。
WBCSDのGuidance v2.0でも、「Avoided Emissionsは、自社のGHGインベントリーとは独立した、補完的な情報として開示すること」が明確に定められています。
「自社のScope1+2+3はX、それと別に、自社製品が顧客側で削減に貢献したのはY」という、二段の開示が原則です。
Avoided Emissionsを「Scope4」と呼ぶ表現が、特に企業のIR資料やプレスリリースで散見されますが、この呼称には注意が必要です。
GHGプロトコルが正式に定めるScopeは、Scope1(直接排出)、Scope2(電力・熱の間接排出)、Scope3(バリューチェーンの間接排出)の3つだけです。Avoided Emissionsを「Scope4」と呼ぶのは、業界内の一部で広がった通称であり、第三者検証や開示基準の枠組みでは、この呼称は確立されていません。
「Scope1〜3と並列の第4のScope」という印象を与える呼称は、本来の概念(GHG Inventoryとは別枠)と矛盾します。むしろ、
といった呼称の方が、概念の正確性を保てます。
担当者の方には、社内外のコミュニケーションで「Scope4」という言葉を使うか使わないかを、慎重に判断されることをおすすめします。
Avoided Emissionsの算定で、最もリスクが高いのが、ベースライン(代替シナリオ)の設定です。
たとえば、自社の高効率モーターのAvoided Emissionsを算定する場合、ベースラインを、
のどれにするかで、削減量の数字が大きく変わります。
WBCSDのGuidanceでは、ベースラインの設定について、
といった原則が示されています。
楽観的なベースライン設定で大きな削減量を打ち出すと、機関投資家や評価機関から「グリーンウォッシュ」と判定されるリスクが高まります。派手な数字を打ち出すより、保守的なベースラインで検証可能な範囲に絞った算定の方が、長期的な信頼を得やすい構図です。検証に耐える開示へ進むことが、結局は近道になります。
WBCSDは、業種ごとのAvoided Emissionsガイダンスの整備も進めています。エネルギー、建設環境(Built Environment)、農業・食品(Agriculture & Food)が公表済み、Transport & Mobility、ICT、化学などの業種別ガイダンスが順次展開予定です。
業種別のガイダンスは、ベースラインの設定基準、算定範囲、報告フォーマットなど、業界横断で比較可能な開示を可能にする狙いです。担当者の方は、自社の業種に該当するガイダンスがある場合、その枠組みに沿った算定・開示を検討されると、第三者検証の対応もスムーズになります。なお、近年では金融機関がポートフォリオ単位でAvoided Emissionsを語る「Climate Investing Guide」もWBCSDから公表されており、投資家側の評価にも組み込まれ始めています。
Avoided Emissionsは、適切に使えば、自社の本業を社会全体の脱炭素にどう接続するかを、定量的に語る強力な道具になります。
実務としては、自社のGHG Inventory(Scope1+2+3)とAvoided Emissionsを明確に分けて開示すること、ベースラインの設定根拠を保守的かつ透明に説明すること、WBCSD Guidance v2.0や業種別ガイダンスに沿った算定方法を採ること、第三者検証を視野にデータの追跡可能性を設計すること、そして「Scope4」という呼称の使用は社内外で慎重に判断すること——この五点を押さえておきたいところです。
「自社製品で社会に貢献している」という抽象的なメッセージから、検証可能な定量データに基づくストーリーへ。Avoided Emissionsは、その移行を支える道具です。
【ご相談窓口】 弊社(株式会社KI Strategy)では、Avoided Emissions算定とサステナビリティー戦略の伴走支援を実施しています(専門家プラットフォームSasla経由のご相談も可)。製品の環境貢献をどう適切に語るかで悩まれている方は、お気軽にご相談ください。
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