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TCFDから卒業しIFRS S2/SSBJへ|SIA

TCFDは2023年10月に解散済みで、後継のIFRS S1/S2(2023年6月公表)とSSBJ基準(2025年3月確定、2027年3月期から段階適用)が気候開示の主軸になります。Scope3原則必須化、業種別指標、移行計画ガイダンスなど、IFRS S2で「増えた」要件を担当者向けに取り上げる。

TCFDから卒業しIFRS S2/SSBJへ|S
FIG. 01 / TCFDから卒業しIFRS S2/SSBJへ|SPHOTOGRAPHY / ARCHIVE

TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)は、2017年6月の最終提言公表以来、気候関連開示の事実上のグローバル標準として、多くの企業で採用されてきました。

そのTCFD自体は、2023年10月にすでに解散しています。役割は、IFRS財団傘下のISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が公表したIFRS S1(一般要求事項)/S2(気候関連開示)に引き継がれました。

つまり2026年時点で、「TCFD対応」と書く時代は、厳密には終わっています。日本では、SSBJ基準(IFRS S1/S2に整合)が2025年3月に確定し(SSBJ)、5年平均時価総額3兆円以上のプライム上場企業で2027年3月期、1兆円以上で2028年3月期からの義務化が確定しています(金融庁)。5,000億円以上の層(2029年3月期が目途)やそれ以下は継続検討で、段階的に対象が広がる見通しです。

ご支援先からも、有報や統合報告書に「TCFDに基づく開示」と書き続けていいのか、IFRS S2/SSBJへ切り替えるときTCFDの開示資産はそのまま使えるのか、新しい基準で何が増え、足りない部分をどう補うのか——こうした相談が増えています。

TCFDからIFRS S2への「継承」と「進化」

ISSB自身が公式に説明しているように、IFRS S2はTCFDを基礎としつつ、さらに踏み込んだ要件を加えた基準です。

TCFDからそのまま引き継がれた骨格は、以下の四本柱の構造です。

  • ガバナンス:気候関連の機会・リスクに対する取締役会・経営層の役割
  • 戦略:気候関連の機会・リスクが事業・戦略・財務計画に与える影響
  • リスク管理:気候関連リスクの特定・評価・管理プロセス
  • 指標と目標:温室効果ガス排出量、関連目標の進捗

この四本柱は、IFRS S2でも同じです。つまり、TCFDで構築してきた開示資産(ガバナンス体制、シナリオ分析、Scope1+2+3の算定など)は、IFRS S2のベースとして、ほぼそのまま活かせます。

ただし、IFRS S2では、TCFDより踏み込んだ要件がいくつか追加されています。

IFRS S2で「増える」要件

IFRS S2で新たに、または明確化された主要な要件は、以下の通りです。

  • 気候関連の機会・リスクが、財務に与える影響の「金額」での開示。当期および将来のキャッシュフロー、財務状態、財務パフォーマンスへの影響を、可能な範囲で定量化する
  • Scope3排出量の開示が、原則必須化(条件付き経過措置あり)。TCFDでは推奨レベルだったScope3が、基準上の要件として位置づけられた
  • ビジネスモデルの強靱性(resilience)の開示。気候シナリオ下での自社事業の継続可能性を、より具体的に語ることが求められる
  • 業種別開示要件(Industry-based requirements)。SASB Standardsをベースとした、業種ごとに異なる指標が指定されている
  • 気候関連の移行計画(Climate-related Transition Plan)に関する開示。2025年6月にIFRS財団が公表したガイダンス(IFRS財団)に沿った、計画の前提・依存関係の明示が期待される

これらは、TCFD時代から「あった方が良い」開示でしたが、基準上の要件として位置づけられたことで、実質的な対応が問われるようになっています。

「TCFDのままの開示」を続けるリスク

ISSB/SSBJが公表されてもなお、「TCFDに基づく開示」と書き続けている企業をよく見かけます。これには、いくつかのリスクがあります。

第一に、開示の見劣り。投資家・評価機関は、IFRS S2/SSBJを前提にした分析を進めており、TCFDレベルのままだと「準備が遅れている企業」と映ります。

第二に、適用開始時の負荷集中。SSBJ基準が2027年3月期から段階適用されることを考えると、ギリギリで切り替えると一気に作業負荷が集中します。並行して、金融審議会WGの中間論点整理(2025年7月)では、サステナビリティー情報の第三者保証について、当初2年間は限定的保証とし、保証範囲をScope1+2・ガバナンス・リスク管理に限定する方向が示されており(金融審議会WG中間論点整理)、保証対応も段階的な負荷管理が要ります。

第三に、Scope3対応の遅れ。IFRS S2でScope3が基準上の要件になった以上、Scope3算定の精度・カバレッジを早めに上げておく必要があります。

第四に、業種別指標への対応の遅れ。SASBベースの業種別指標は、業種ごとに具体的な数値が指定されているため、データ収集に時間がかかります。

これらは、いずれも「ある日突然対応する」では間に合わない論点です。

移行のための実務ステップ

TCFDからIFRS S2/SSBJへの移行を、実務として進めるためのステップを、次に示す。

まず、ギャップ分析。現在の自社のTCFD開示を、IFRS S2/SSBJの要件と段落単位で突き合わせ、新規・追加要件、定量化の必要性、業種別指標の網羅性を点検します。

次に、データ・インベントリの整備。気候関連データのソースを棚卸しし、特にScope3、財務影響の定量化、業種別指標について、ギャップを埋める作業を始めます。

さらに、移行計画(Transition Plan)の策定。ISSBが2025年6月に公表したガイダンスに沿って、自社の脱炭素計画の前提・依存関係・主要マイルストーンを言語化します。

そして、開示書類の章構成の見直し。「TCFDに基づく開示」の章を、IFRS S2/SSBJの構成に沿って組み直し、当面はSSBJ/IFRS S2/TCFDの参照関係を併記する移行期間を設けます。

ある上場企業のご支援では、早めに移行プロセスへ着手し、有報・統合報告書の章タイトルを「気候関連財務情報開示」(IFRS S2/SSBJ整合)へ変更しました。並走してScope3カバレッジの拡張、ICPの水準見直し、シナリオ分析のアップデートも進めています。

「気候開示の卒業」を機会に変える

TCFDからの卒業は、単なる基準切り替えではなく、自社の気候開示の質と運用を見直す機会になります。

担当者にできる手当ては、現在の開示がTCFD時代のままで止まっていないかを点検すること、SSBJ/IFRS S2への切り替え時期と社内体制を2026〜27年でロードマップ化すること、Scope3対応・財務影響の定量化・業種別指標の整備を優先度の高い順に進めること、そして移行計画(Transition Plan)の策定を、単なる開示作業ではなく戦略を見直す機会として位置づけることです。「IFRS S2準拠」とラベルを貼り替えるだけで終えるか、開示の質を一段上げる契機にするかで、その後の数年のアウトプットは変わってきます。


【ご相談窓口】 弊社(株式会社KI Strategy)では、TCFDからIFRS S2/SSBJへの移行支援と、気候開示・移行計画の策定を伴走支援しています(専門家プラットフォームSasla経由のご相談も可)。気候開示の見直しや移行計画づくりで悩まれている方は、お気軽にご相談ください。

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