EU電池規則は2027年2月18日からEV・産業用2kWh超電池にBattery Passport(デジタルプロダクトパスポート)を義務化、Due Diligenceは2027年8月適用。リサイクル素材率・再生材含有・回収率まで一気に管理するインフラを、自動車・素材・商社向けに取り扱う。
EUの電池規則(Regulation (EU) 2023/1542、Battery Regulation)は、2023年8月発効、2024年2月から段階適用が始まり、2027年2月18日からBattery Passport(電池デジタルパスポート)の義務化、2027年8月18日からはDue Diligence義務が施行される予定です(EUR-Lex)。
これは、ESPR(持続可能な製品エコデザイン規則、2024年7月発効)が導入するデジタルプロダクトパスポート(DPP)の、最初の本格実装ケースです。電池業界が、サーキュラー・サプライチェーン・人権DDの統合運用を、業界横断で動かす最初の実例になります。
自動車、電池、素材、商社のサステナビリティー担当者の方からも、2027年2月18日にBattery Passportは本当に間に合うのか、Battery Passportに何を書く必要があるのか、サプライチェーン上流(鉱物採掘)の情報をどこまで遡るか、リサイクル素材含有率(recycled content)の要件はどう変わるか、Due Diligence義務(2027年8月)への準備が間に合わない、といったご相談が、ここ半年で急増しています。
ここでは、EU電池規則の全体像、Battery Passportの中身、Due Diligence義務、業種別の論点を取り扱います。
EU電池規則は、電池のライフサイクル全体を対象とした包括規則です。主要な規制軸は、次の4つです。
これらの要件は、電池の種類(携帯用、軽輸送用LMT、産業用、EV用、SLI用)ごとに異なり、対象市場に投入する事業者(製造業者、輸入業者、流通業者)が責任を負います。
EU市場で電池を販売する日本企業(自動車メーカー、電池メーカー、電子機器メーカー、素材メーカー、商社)は、規制対象に該当します。
2027年2月18日から、EV用電池(2kWh超)と産業用電池(2kWh超)、軽輸送用(LMT)電池について、Battery Passportの提供が義務化されます。
Battery Passportは、QRコード経由でアクセスできる電子的な記録(Electronic Record)として整備され、電池モデル単位の情報と個別電池単位の情報の二層構造、そして公開情報・政府機関アクセス情報・正当な利益を持つ者へのアクセス情報という三層の可視性を持つ設計になっています。
初期(2027年2月)に必須となるのは、電池の基本識別情報(モデル、製造業者、製造国、製造日)、電池タイプ・サブタイプ、容量・電圧・エネルギー密度といった主要な技術特性です。その後、カーボンフットプリント、リサイクル素材含有率(recycled content)、性能・耐久性データ、電気化学的パフォーマンス、有害物質情報、原材料の出所やDue Diligence実施状況といったサプライチェーン情報が、段階的に拡張されます。
完全な情報整備までには複数年を要する想定で、業界全体での標準化(thebatterypass.eu等のコンソーシアムの動き)が進行中です。
電池規則のDue Diligence義務は、当初2025年8月18日適用予定でしたが、Regulation (EU) 2025/1561により2027年8月18日に延期されました。
対象原材料はコバルト・リチウム・ニッケル・天然黒鉛の4種で、対象事業者は年間40百万ユーロ超の純売上を持つ電池の販売・流通事業者です。Due Diligence要件としては、サプライチェーン上の人権・環境影響(強制労働、児童労働、武力紛争、汚染、生物多様性)の特定、OECD Due Diligence Guidance for Responsible Supply Chains of Minerals from Conflict-Affected and High-Risk Areasに整合した管理方針、サプライチェーンのトレーサビリティ、第三者による監査・検証、政府への報告が求められます。
これは、コバルト(コンゴ民主共和国の児童労働)、リチウム(南米の水資源・先住民影響)、ニッケル(インドネシア・フィリピンの環境影響)、天然黒鉛(中国生産集中)など、原材料サプライチェーンの構造的なリスクへの対応を、業界全体で進める制度設計です。
弊社過去記事「CSDDD後の人権DD実装」「サプライヤーにカーボンニュートラル要請を出す側になる時の落とし穴」とも、論点として直結します。
EU電池規則のサステナビリティー要件で、企業に直接効くのが、CO2フットプリント開示と、リサイクル素材含有率です。CO2フットプリントは、次のスケジュールで義務化されます。
リサイクル素材含有率は、次のとおり段階的に強化されます。
ここで見落とされやすいのが、開示義務が含有率義務より3年早く来る点です。2031年の数値を満たせるかどうかの前に、2028年の時点で「自社の電池にリサイクル材が何%入っているか」を計算して出せる状態が要ります。調達データを遡れる体制の構築が、実質的な最初の締め切りになります。
これらは、電池産業のサーキュラー転換を、世界で最も厳しい速度で要求する規制です。原材料調達、リサイクル原料の確保、製造プロセスの脱炭素を、3〜5年単位で同時に動かす必要があります。
電池規則では、エンドオブライフの回収率・リサイクル率も、段階的な目標が設定されています。回収率(生産者拡大責任、EPR)は、次のとおりです。
材料リサイクル率(回収された廃電池からの素材回収率)は、次のとおりです。
これらの目標を達成するには、回収インフラ(小売店経由・メーカー回収・自治体経由)、リサイクル施設の処理能力増強、電池グレードのリサイクル素材の品質確保、そして電池リユース(セカンドライフ)市場の整備を、業界全体で進める必要があります。
EU電池規則の影響は、業種ごとに異なります。
自動車メーカーは、EV用電池の供給契約にBattery Passport対応・Due Diligence義務適合・リサイクル素材含有率を組み込み、複数の電池サプライヤーとの調達ポートフォリオを管理し、販売後の回収・セカンドライフ・リサイクルの責任体制を整え、EV戦略全体(EV比率、電池技術選択、生産地)と規制対応を統合する必要があります。
電池メーカーは、Battery Passport対応のシステム整備(電池ID管理、製造データ管理、原材料データ管理)、鉱物採掘まで遡るDue Diligence体制、製造プロセス・再エネ電力使用比率を踏まえたCO2フットプリント算定の精緻化、リサイクル素材調達網の確保、EU市場向けとその他市場向けの製品仕様の整理が論点です。
**素材メーカー(コバルト、リチウム、ニッケル、黒鉛、銅、アルミ等)**は、電池メーカー・自動車メーカーからのDue Diligence要請への対応、原材料のトレーサビリティ確保、採掘・精錬プロセスのCO2フットプリント開示、リサイクル原料の生産・供給体制が求められます。
商社は、取扱う電池・原材料のEU電池規則対応の取りまとめ、主要顧客への規制対応支援、上流の鉱物資源会社とのDue Diligence対話、新興リサイクル事業への投資が論点になります。
ある中堅の電池関連商社(EU取引あり)のご支援では、「EU電池規則対応プロジェクト」を立ち上げ、上記4業種の取引先への規制情報共有・対応支援を、商社の付加価値として組み立て直しました。「規制を運ぶ商社」ではなく、「規制対応を一緒に解く商社」へのポジション転換、と位置づけられています。
EU Battery Passportは、ESPRが導入するDPP(デジタルプロダクトパスポート)の、最初の本格実装ケースです。電池の後には、テキスタイル(2027〜2028年実装予定)、家具(2028年予定)、鉄鋼・アルミ・化学品(2029年以降)、家電・電子機器、建材など、対象製品が順次拡張されていきます。
電池業界の経験は、後発の業界にとって、貴重な参照ケースになります。データ管理基盤、サプライチェーン情報の遡及、認証・検証、業界間連携――これらの仕組みづくりが、電池業界で先行して進む姿は、他業種が学ぶべきモデルになります。
EU電池規則は、規制対応の負荷が大きい一方で、自社のサーキュラー戦略を一段進める機会、と捉えることもできます。
担当者の方には、
このあたりを、3〜5年のロードマップで整理することをおすすめします。
形だけEU規制対応、でその場しのぎを続けるか、自社の電池・サーキュラー戦略の機会として位置づけ直すか。担当者の方の意識付けで、その後の数年の事業構造への影響が、確実に変わります。
【ご相談窓口】 弊社(株式会社KI Strategy)では、EU電池規則対応、Battery Passport設計、サプライチェーンDue Diligence、リサイクル素材調達戦略、サーキュラー転換の伴走支援を実施しています(専門家プラットフォームSasla経由のご相談も可)。電池規則対応をどこから始めるかでお悩みの方は、一度ご相談いただければ幸いです。
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