INSIGHTS· ESG & IR

BVCMの設計|Climate Contributionsの位置づけ

SBTiのBVCM(Beyond Value Chain Mitigation、バリューチェーン外緩和)は、自社削減と並走する第三の経路として位置づけが上がっています。Climate Contributions、Microsoft・Boston Consultingの実装、企業の戦略設計を担当者向けに取り上げる。

BVCMの設計|CLIMATE CONTRIBU
FIG. 01 / BVCMの設計|CLIMATE CONTRIBUPHOTOGRAPHY / ARCHIVE

ネットゼロ戦略の議論で、ここ1〜2年で急速に存在感を増しているのが、BVCM(Beyond Value Chain Mitigation、バリューチェーン外緩和)という考え方です。

SBTi(Science Based Targets initiative)が2024年6月に「Beyond Value Chain Mitigation」のディスカッション・ペーパー、2025年に追加のガイダンスを公表し(SBTi)、企業のネットゼロ戦略の中で、自社削減(Scope1+2+3のリダクション)、リムーバル(残余排出量の中和)に加えて、「自社のバリューチェーン外への緩和への貢献」を、第三の経路として位置づける議論が進んでいます。

ここ半年で急に増えたのが、この領域の相談です。SBTi V2.0でBVCMがどう扱われるのか。自社のネットゼロ戦略のどこに置くべきなのか。Microsoft・Boston Consulting・Stripeがやっていることを、自社の規模で参考にできるのか。

なかでも繰り返し聞かれるのが、「Climate Contributions」と従来の「カーボンオフセット」は何が違うのか、という問いです。ここが曖昧なまま発信すると、かえって批判を招きます。

以下では、BVCMの考え方、Climate Contributionsアプローチ、主要事例、企業の戦略設計を取り上げます。

BVCMとは何か:「義務」ではなく「貢献」

BVCMは、企業が自社のバリューチェーン外(Scope1+2+3の対象範囲外)の気候緩和に、追加的に貢献する活動を指します。

具体的には、自社のサプライチェーン外の森林保全(REDD+プロジェクト)への投資、自国・他国の再エネ普及プロジェクトへの資金提供、小規模生産者・農業コミュニティへのレジリエンス・脱炭素支援、DAC・海洋アルカリ化・岩石風化等の新興技術の研究開発・実証、気候適応・Loss & Damage関連の地域支援が、典型例です。

BVCMは、SBTi目標達成の「義務」ではありません。SBTiのリダクション目標、リムーバル要件は、自社のScope1+2+3に対するもので、BVCMはその外側で、追加的な気候貢献を行う、という位置づけです。

ただし、SBTi V2.0改訂(2026年公表予定)では、BVCMが企業のネットゼロ戦略の中で、より明確に位置づけられる方向です。「ネットゼロ戦略の3本柱」として、リダクション、リムーバル、BVCMが並列に並ぶ構造です。

「Climate Contributions」と「カーボンオフセット」の違い

BVCMと併せて議論されるのが、Climate Contributionsアプローチです。

**カーボンオフセット(古典的)**は、自社の排出を他者の削減・除去で「相殺」(オフセット)し、購入クレジットの量で自社排出を打ち消す論理で、カーボンニュートラル主張の根拠となる一方、グリーンウォッシュ訴訟リスクの中心(弊社過去記事「カーボンクレジット品質規律:ICVCM・VCMI・Article 6」参照)でした。**Climate Contributions(新しいアプローチ)**は、自社の排出を打ち消すという論理ではなく追加的な気候貢献として位置づけるもので、「我々は気候解決に貢献する」という主張に論理が変わり、購入クレジット・投資の量と自社の絶対削減進捗を別建てで開示します。Microsoft、Stripe、Boston Consulting Group等が先行採用しています。

Climate Contributionsの強みは、相殺主張を避けることで訴訟・批判リスクが低いこと、自社の絶対削減の進捗を独立して透明に語れること、気候貢献の規模・質を自社の規模・利益・パーパスに応じて設定できること、ステークホルダー(顧客、従業員、投資家、社会)への説明がより誠実になることです。

担当者の方は、従来のカーボンオフセット主張をしていた企業ほど、Climate Contributionsへの語り直しを、3〜5年計画で組み立てる必要があります。

先行事例:Microsoft、Boston Consulting、Patagonia

BVCMとClimate Contributionsの先行実装事例を、いくつか順に追います。

Microsoftは、自社の絶対削減目標(Scope1+2+3)として2030年カーボンネガティブ、2050年までに創業以来の全排出の中和を掲げ、1ビリオンドルのClimate Innovation FundやDAC・生物炭・岩石風化・海洋アルカリ化等のリムーバル・クレジットの大型購入というBVCM的な追加投資を行い、「カーボンネガティブ」「気候解決にコミット」とオフセット主張を控えめに発信しています。Boston Consulting Groupは、2018年のカーボンニュートラル達成後にClimate Contributions路線へ転換し、自社の絶対削減進捗を継続開示しつつ気候プロジェクト(リムーバル、再エネ、研究)へ追加投資し、「Net Zero by 2030, with continuous Climate Contributions」と主張しています。Stripe/Frontierは、自社のScope1+2+3削減と並走してリムーバル・クレジットを先行購入しています。Frontierは9億2,500万ドル規模・10年の事前買取コミットメント(Advance Market Commitment)として設計されており、発信も「オフセットした」ではなく「リムーバル市場の創出に貢献」という立て付けです。既存クレジットを買うのではなく、まだ存在しない供給を金で呼び込む——この構図がBVCMの典型例として参照されます。Patagoniaは、1% for the Planet(売上の1%を環境団体に拠出する業界横断のイニシアチブ)を通じて、自社の絶対削減目標と並走する地域・環境団体支援を行っています。

これらの事例に共通するのは、自社の絶対削減(リダクション)を主軸として明確に語り、BVCM・Climate Contributionsをその「外」の追加的貢献として位置づけ、「カーボンニュートラル」のオフセット主張を避けてより明確な論理で発信し、気候貢献の規模を自社の利益・規模・パーパスに応じて適切に設定する、という点です。

BVCMの規模:「どれくらい」が適切か

BVCMの規模設計には、いくつかの参照基準があります。

参照①:自社の残余排出量×内部炭素価格。 自社の残余排出量に、自社のICP(インターナルカーボンプライシング)または社会的炭素費用(Social Cost of Carbon、米EPA推計で約190ドル/tCO2)を乗じた金額を、BVCMに割り当てるアプローチです。参照②:売上または利益の一定割合。 自社の売上・利益の一定割合(例:1%、5%)を割り当てるアプローチで、Patagoniaの「1% for the Planet」が古典的事例です。参照③:自社の総排出量に応じたコミット。 Scope1+2+3総排出量に応じて追加的な気候貢献の規模を設定するもので、Microsoftが事例です。参照④:気候緊急事態の科学的なエクスポージャー基準。 WBA(World Benchmarking Alliance)等が議論する、企業の規模・利益に応じた「公正な貢献分」の基準です。

これらは、業界標準ではありませんが、企業が自社のBVCM規模を決定する際の参照点になります。担当者の方は、自社のパーパス、利益、規模、ステークホルダー期待に応じて、現実的な規模を設計することをおすすめします。

BVCMの活用先:どこに資金を流すか

BVCMで貢献する先は、複数の選択肢があります。

  • 選択肢① リムーバル技術(DAC、生物炭、岩石風化、海洋アルカリ化等):新興技術の市場形成への貢献、自社規模に応じたリムーバル・クレジットの先行購入
  • 選択肢② 途上国・新興国の再エネ・脱炭素プロジェクト:GCF・Adaptation Fund・Climate Investment Funds等への拠出、現地パートナーシップ、JCMでの二国間プロジェクト
  • 選択肢③ 気候適応・Loss & Damage関連:サプライチェーン上の脆弱地域への投資、FRLD(Loss & Damage Fund)への拠出、Adaptation Bond・Resilience Bondへの投資
  • 選択肢④ 自然ベース・ソリューション:森林保全・再生、湿地保全、サンゴ礁保全、再生農業
  • 選択肢⑤ 気候研究・イノベーション:大学・研究機関への研究助成、気候技術スタートアップへの投資(コーポレートVC)、業界共同研究

担当者の方は、自社のパーパス、事業特性、サプライチェーン、コミュニティ関係に応じて、活用先を戦略的に選定することをおすすめします。

BVCMの統合報告書での開示

BVCMを統合報告書・サステナビリティーレポートで開示する際は、自社のリダクション戦略(Scope1+2+3)と進捗、自社のリムーバル戦略(残余排出量の中和)、BVCM・Climate Contributions(規模・活用先・進捗・効果)、VCMI Claims Codeに整合した主張の構造、第三者検証を、別々の章として整理することで、それぞれの論理を明確にできます。

機関投資家・規制当局・取引先・市民社会からの問い合わせに対して、自社のリダクション・リムーバル・BVCMをそれぞれ独立して語れることが、信頼性の前提です。

業界・業種別の論点

BVCMの位置づけは、業種によっても変わります。

化石燃料セクターでは絶対削減と事業構造転換が最優先でBVCMは補完、自社の事業活動由来排出の責任が重くなります。製造業ではサプライチェーン上のScope3削減が中心でBVCMは追加貢献、原材料調達地域への投資がBVCMとサプライチェーン強靭化の交差点になります。金融機関ではファイナンスドエミッション削減(Scope3カテゴリ15)が主軸で、気候投資ファンドやAdaptation Financeへの参画が論点です。ハイテクではScope2の脱炭素(再エネ電力)が中心で、BVCMはMicrosoft型の大規模リムーバル投資が中心になります。消費財ではサーキュラー・サプライチェーン人権DD・原材料の自然関連に加え、1% for the Planet型の地域・環境団体支援が見られます。

業種特性に応じた、BVCM戦略の設計が、本質的な価値を作ります。

「BVCMで、削減を緩める」を避ける

最後に、BVCM戦略で、避けたいパターンを一つ。

BVCMの存在を理由に、自社のリダクション(絶対削減)を緩める、というアプローチは、SBTi・機関投資家・規制当局・市民社会から、強く批判される構造です。

BVCMはあくまで「自社のバリューチェーン外」への追加貢献で、自社のScope1+2+3削減目標を補完するものではありません。

担当者の方には、

  • 自社のScope1+2+3削減(リダクション)を主軸とする
  • 残余排出量の中和に、品質の高いリムーバルを使う
  • BVCMは、リダクション・リムーバルの「外」の追加貢献として、独立した戦略として組み立てる
  • 主張の構造を、VCMI Claims Code、SBTi V2.0に整合させる
  • 統合報告書で、3本柱(リダクション、リムーバル、BVCM)を独立して開示
  • SBTi V2.0改訂後の位置づけ変化を、戦略に反映

このあたりを、年次の運用に組み込むことをおすすめします。

形だけBVCMを語ってリダクションから逃げるか、3本柱の本物の戦略を作るか。担当者の方の意識付けで、ネットゼロ戦略の信頼性と射程は、確実に変わります。


【ご相談窓口】 弊社(株式会社KI Strategy)では、BVCM・Climate Contributions戦略、ネットゼロ3本柱の設計、統合報告書での開示、SBTi V2.0対応の伴走支援を実施しています(専門家プラットフォームSasla経由のご相談も可)。BVCMを自社戦略にどう取り込むかでお悩みの方は、一度ご相談いただければ幸いです。

CONTINUE / 次の一歩
FOR READERS OF THIS ESSAY

この記事の論点を、ご自身の組織に当てはめて進められない方へ。
2つの並走ルートをご用意しています。

ROUTE A / ON-DEMANDFROM ¥300,000 / MONTH

Saslaサスラ

定額制 / サステナビリティ専門家プラットフォーム

最初の一歩でつまずく論点に、現役の専門家が定額で並走します。チャットで日次、月次セッションで構造化し、社内に持ち帰れる整理メモまで一緒に作成します。

ESG開示
DISCLOSURE
Scope3 算定
GHG
人的資本
HUMAN CAPITAL
サプライチェーン
SUPPLY CHAIN
Saslaで定額相談する
ROUTE B / ONGOING3〜12 MONTH ENGAGEMENT

KI Strategy 伴走

個別契約 / ESG・サステナビリティ伴走支援

本稿で扱った論点を、組織の規律として実装するための個別支援。マテリアリティ更新、開示設計、社内浸透まで、編集主幹がプロジェクトを率いてご一緒します。

マテリアリティ
MATERIALITY
開示設計
DISCLOSURE
社内浸透
ENGAGEMENT
経営伴走
ADVISORY
30分の問診を申し込む
まずは読み続けたい方へ ── 次の記事を、隔週金曜にメールでお届けします。SUBSCRIBE THE NEWSLETTER →
編集部
ABOUT THE AUTHOR

編集部

KI STRATEGY / 編集部

KI Strategy 編集部所属。ESG・サステナビリティを軸に、開示と意思決定を貫くロジックを編む。

SECTION 05 / NEWSLETTER

週末に届く、
経営の編集。

隔週金曜の朝、編集部が選んだ1本と、サステナビリティ業界動向の3行サマリーをお届けします。広告なし、退会はワンクリック。

経営企画・ESG・IR 担当者へ隔週でお届けNO ADS · UNSUBSCRIBE 1-CLICK
CONSULTATION

個別の論点で進められない方へ

30分の問診で、御社の論点を編集部が言語化します。 Saslaの定額相談、または KI Strategy の伴走支援へお繋ぎします。

30分の問診を申し込む →
FOR ONGOING SUPPORT
KI Strategy 伴走
FOR ON-DEMAND Q&A
Sasla 定額相談