EU CSDDDはオムニバスIで対象が従業員5,000人超・売上15億ユーロ超へ絞られ、適用は2029年7月に一本化。それでも直接適用のない日本企業に、対象企業のチェーン・オブ・アクティビティ経由で要請は来ます。契約カスケードへの備えを、繊維関連企業の事例とともに整理します。
EUの企業サステナビリティー・デューデリジェンス指令(CSDDD:Corporate Sustainability Due Diligence Directive)が、2024年7月にEU公報掲載で発効しました。
その後、2025年4月17日に「Stop the Clock指令」が発効し、CSDDDの加盟国国内法化期限と適用開始がそれぞれ1年後ろ倒しされました。さらに2025年12月のtrilogue(欧州議会・理事会・委員会の3者交渉)で実体的な簡素化を含むOmnibus Iパッケージが合意され、指令(EU)2026/470として2026年2月26日に官報掲載、同年3月18日に発効しています。
ここで押さえるべきは、適用範囲が当初案から大幅に絞り込まれたことです。最終的な対象は従業員5,000人超かつ全世界純売上高15億ユーロ超のEU企業、およびEU域内売上高15億ユーロ超の域外企業に限られます。当初のCSDDDが想定していた「従業員1,000人超・純売上4億5,000万ユーロ超」から、一段も二段も上の規模に引き上げられた形です。段階適用の波(ウェーブ)も廃止され、加盟国の国内法化期限は2028年7月26日、企業への適用は2029年7月26日からの一本化となりました。制裁金の上限も、全世界売上高の5%以上から3%以下へ引き下げられています。
ご支援先からは、
というご相談が、ここ半年で急増しています。
CSDDDは、対象企業に対して、「チェーン・オブ・アクティビティ」全体での人権・環境への悪影響の特定、防止、是正、報告を義務付けます。
「チェーン・オブ・アクティビティ」はCSDDDの独自用語で、上流の調達・製造に加え、下流は製品の流通・輸送・保管までに限定される点が特徴です(製品の使用・廃棄段階は含まれず、CSRDの「バリューチェーン」より範囲は狭い)。
つまり、対象企業のサプライヤーである日本企業は、対象企業から、
を求められる立場になります。
これは、適用範囲外であっても、サプライチェーン経由で要請が降りてくる構造です。
CSDDDの影響を強く受けやすい日本企業の業種は、以下が代表的です。
たとえば、欧州の大手アパレルと取引のある中堅の繊維関連企業をご支援したときは、2024年後半から欧州側の顧客より人権DDの質問票が届くようになりました。数十問規模のものが、複数の取引先から別々の様式で来ます。なかには、原材料の調達国まで遡って現地監査を受け入れてほしい、という要請を出してくる顧客もありました。自社はCSDDDの適用対象ではないのに、です。
つまり、自社が直接適用の対象でなくとも、業種・取引先構造によっては避けようがない要請がすでに来ている、ということです。だからこそ、「ある程度の準備」を社内で決めておく必要があります。
直接適用がないことを理由に、何もしないのはリスクです。一方で、欧州大手と同じレベルの体制を作るのは、過剰投資になります。
担当者の方には、現実的な「ある程度の準備」を決めておくことをおすすめしています。
具体的には、
これらは、欧州大手と同レベルの完全な体制ではなく、「合理的な範囲で対応している」という説明ができる準備、というイメージです。
2025年4月のStop the Clock指令、2025年12月のOmnibus I合意、そして2026年2月の官報掲載――これらにより、CSDDDの適用範囲縮小と時期延期は確定しました。「確定途上」ではなく、すでに条文として固まった話です。
ただし、対象企業が確実に存在し、その企業のチェーン・オブ・アクティビティ上に自社がいる以上、要請そのものは来ます。Omnibus Iが手を入れたのは「誰が義務を負うか」であって、「何を求められるか」の中身ではありません。義務主体が減っても、その義務主体が取引先に投げる質問票は減らない――むしろ対象が絞られたぶん、残った大企業は自社の説明責任をサプライチェーンに転嫁する動機が強まります。ここを取り違えて「範囲が縮小したから様子見でよい」と社内に説明すると、半年後に届く質問票の前で立ち往生することになります。
また、CSDDDが緩和されても、CSRD/ESRS、IFRS S1/S2、SSBJ、SBTi、CDP、UNGP(ビジネスと人権に関する指導原則)、OECD多国籍企業行動指針、ドイツのサプライチェーン法(LkSG、すでに施行中)、ノルウェーの透明性法、フランスの注意義務法、英国現代奴隷法、米国のUFLPA(ウイグル強制労働防止法)、日本の人権DDガイドライン――これらの個別法・ガイドラインから類似の情報要請が来るため、結局、人権・環境のサプライチェーンDDは、避けて通れない潮流です。
CSDDDだけを「対応する/しない」で考えるのではなく、人権・環境のサプライチェーンマネジメントを、自社のサステナビリティー戦略の一部として位置づけ直すこと。これが、振り回されないための、最も地味で本質的な打ち手だと思います。
【ご相談窓口】 弊社(株式会社KI Strategy)では、CSDDD対応とサプライチェーンDDの伴走支援を実施しています(専門家プラットフォームSasla経由のご相談も可)。EU取引先からの要請にどう対応すべきか悩まれている方は、お話を聞かせていただければと思います。
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