INSIGHTS· ESG & IR

生成AIでESG担当者の業務を約4割削減|評価機関対応・開示ドラフトの使い分け|SIA

評価機関対応・統合報告書ドラフト・社内資料作成――生成AIの活用領域は広いものの、機密情報の取扱、AIガバナンスとの整合、出力検証の運用設計が効果を分けます。Enterprise契約の選び方と、上場企業での約4割工数削減の実例を、ESG担当者向けに取り扱う。

生成AIでESG担当者の業務を約4割削減|評価機
FIG. 01 / 生成AIでESG担当者の業務を約4割削減|評価機PHOTOGRAPHY / ARCHIVE

ESG・サステナビリティーの担当者の業務時間は、年々増えています。

  • 評価機関のアンケート対応
  • 有報・統合報告書のドラフト作成
  • 社内研修資料・経営層への報告資料
  • サプライヤーとのコミュニケーション
  • 新しい開示基準への対応準備

そこに、2024〜2025年で実務に浸透した生成AIが、業務効率化の有力な選択肢として浮上しています。

ただ、「生成AIを使えば仕事が一気に半減する」と単純に言える話ではありません。本稿は、ご支援先で実証した「約4割削減」という現実的な数字を出発点に、使う場面と使わない場面、そして社内ガバナンスの設計を扱います。

「使うと効く」場面と「使ってはいけない」場面

ご支援先での実体験から、生成AIが効く/効かない場面を取り上げます。

使うと効く場面:

  • 評価機関アンケートの回答作成(前年回答を読み込ませた上で、差分更新を支援)
  • 統合報告書・有報のサステナビリティー章のドラフト作成(自社の過去開示・基準文書を読ませて骨子作り)
  • 社内研修資料・社内向け説明資料の作成
  • サプライヤー対応のFAQ・テンプレート作成
  • 最新動向のリサーチ(ISSB/SSBJ/TNFD等の改訂内容把握)
  • 他社開示の比較分析(公開情報のサマリーづくり、利用規約・著作権上の留意は要確認)

使ってはいけない、または注意が必要な場面:

  • 機密情報・個人情報を含む案件の処理(消費者向けSaaSは原則不可。Enterprise契約でデータ非学習・リージョン制御・SOC 2 Type II/ISO 27001相当の認証が担保されたサービス、または社内VPC環境を使い、利用規程と監査ログを併設する前提)
  • 未公開のM&A・財務情報(インサイダー情報該当の可能性、社外プラットフォーム経由は厳禁)
  • 最終的な経営判断材料(生成AIの出力を鵜呑みにせず、必ず一次データに当たる)
  • 第三者検証が前提の数値の最終チェック(KPI、Scope3排出量など)
  • 投資家・規制当局への正式コミュニケーション(生成AIで書いた文面をそのまま出さない)
  • 人事評価・採用判断(経産省「AI事業者ガイドライン」、NIST AI RMF、EU AI Actのハイリスク用途規制等の整合観点から特に慎重に)

評価機関対応の効率化:実例

ご支援した時価総額1兆円規模の上場製造業では、CDP気候変動・水・森林の3つに加え、MSCI・Sustainalytics・FTSE・S&P CSA・ISS ESGへの対応に、サステナビリティー部3名で年間延べ900時間(評価機関対応のみ。社内向け説明・経営報告は除く)が消えていました。同規模企業としてはむしろ少ない部類の負荷感です。

ここに、Enterprise契約でデータ非学習設定を担保した生成AI環境を導入し、

  • 前年回答のデータベース化
  • 各評価機関の質問項目とのマッピング
  • 差分のみを担当者が更新する運用

に切り替えたところ、約9ヶ月後には、評価機関対応の総工数が約4割削減できました(同社内ヒアリングベース。スコア改善との因果関係は別途検証中)。

ポイントは、生成AIに任せきりにせず、最終的な提出前に担当者が読み込み、固有事情・最新の数値・経営層の意思を反映する、という運用を維持したことです。

社内ガバナンスの設計

生成AIをESG業務で活用する際、以下の社内ガバナンスを整備しておく必要があります。

  • 利用するAIサービスの選定(Enterprise契約/社内VPC環境/API利用)と機密情報の扱いルール
  • プロンプト・出力の社内記録(説明責任の担保)
  • 出力の検証プロセス(誰が、どこまで責任を持つか)
  • 自社のAIガバナンス委員会・AI倫理ポリシーとの接続

これらを整えずに使い始めると、機密情報の漏洩、不正確な開示、社内ルール違反などのリスクが顕在化します。

担当者の方には、生成AIの活用そのものを、自社のAIガバナンス体制の一部として位置づけ直すことを、おすすめしています。

「約4割」からさらに踏み込むための組み合わせ

「約4割削減」は、評価機関対応に限った数字です。ここからさらに踏み込み、業務全体で半減に近づけるためには、生成AI単独ではなく、

  • 既存業務の棚卸しと、廃止候補の特定(年に1回でも実施)
  • データの一元管理(マスター回答集、KPIダッシュボード等)
  • 生成AIの活用領域の絞り込み
  • 社内研修と運用ルールの整備
  • 他部門(経理・IR・人事・調達)とのデータ連携の自動化

の組み合わせが必要です。生成AIで作った余裕を、より高度な業務(戦略的なステークホルダー対話、経営層への提言、新領域の立ち上げ)に振り向けることで、初めて「業務時間も減り、業務の質も上がった」という両立が可能になります。

「生成AIを使う/使わない」という二択ではなく、「業務全体をどう設計し直すか」という視点で取り組むこと。これが、ESG担当者の業務時間を、本質的に減らしていく道筋です。


【ご相談窓口】 弊社(株式会社KI Strategy)では、生成AIを活用したESG業務効率化の伴走支援を実施しています(専門家プラットフォームSasla経由のご相談も可)。業務時間の削減と質の向上を両立したい方は、お気軽にご相談ください。

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KI Strategy 編集部所属。ESG・サステナビリティを軸に、開示と意思決定を貫くロジックを編む。

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