InfluenceMap、CA100+(運用資産総額60兆ドル超の投資家イニシアティブ)、CDPの公共政策エンゲージメント・モジュールなどで、企業のロビイング活動と業界団体メンバーシップが評価される時代に。Global Standard on Responsible Climate Lobbyingへの対応を担当者向けに見ていく。
近年、企業の気候関連のロビイング活動(Climate Lobbying、政策提言・規制対話・業界団体活動など)と、政治献金の透明性が、機関投資家からのエンゲージメント論点として急速に浮上しています。
英国のシンクタンクInfluenceMap、Climate Action 100+(CA100+)、CDPの気候変動質問書などで、企業のロビイング活動が体系的に評価されるようになり、日本企業も評価対象に入ってきています。
きっかけとして多いのが、外部評価の低下です。InfluenceMapで自社の格付けが下がった、その理由が分からない――ここから相談が始まります。
調べていくと、たいてい行き着くのは業界団体です。自社が公表している気候戦略と、加盟している業界団体のロビイング姿勢が食い違っている。ではメンバーシップの方針を社内でどう議論するのか。政治献金や政策提言の開示を、どこまで広げるべきなのか。自社単独では完結しない論点であることが、この領域を難しくしています。
責任あるロビイング(Responsible Climate Lobbying)の枠組みは、2022年3月に「Global Standard on Responsible Climate Lobbying」として整備されました(Responsible Climate Lobbying)。これは、AP7、BNP Paribas Asset Management、英国国教会年金理事会など機関投資家が主導し、Chronos Sustainabilityがファシリテートして公表されたガイドラインで、企業のロビイング活動が、
を評価する基準を示しています。
評価の主要ポイントは、
の各領域で、企業の活動を可視化することです。
評価圧力の中心にあるのが、InfluenceMapとClimate Action 100+(CA100+)です。
InfluenceMapは、企業ごとに、
を、独自の指標(A+〜Fのスコア)で評価しています。
評価が低い企業は、機関投資家からのエンゲージメント対象になりやすく、議決権行使でも厳しい姿勢を取られる可能性があります。
CA100+(Climate Action 100+)は、700を超える投資家が運用資産総額60兆ドル超を束ねる投資家イニシアティブとして、対象企業(フォーカス企業)に責任あるロビイングへの対応を継続的に求めています(Climate Action 100+)。日本の主要企業もフォーカス企業に含まれており、ロビイング論点は議題に上がっています。なお、2024年以降、State Street、JPMorgan AM、PIMCO、BlackRockの一部ファンドなどがCA100+のフェーズ2参加から離脱した動きもあり、機関投資家の足並みは一枚岩ではありません。それでも、欧州・日本・カナダ系の運用機関を中心に、責任あるロビイング対応を求める潮流自体は維持されています。
これらの評価圧力が、自社の事業活動とロビイングの整合性を問う論点として、特に「業界団体メンバーシップ」に光を当てます。
責任あるロビイングの議論で、特に日本企業にとって難しいのが、業界団体メンバーシップの扱いです。
日本企業は、経団連、業界別の業種団体、地域経済団体など、複数の業界団体に加盟しているのが一般的です。これらの業界団体は、メンバー企業の立場を集約し、政府・規制機関に対して政策提言を行います。
ところが、業界団体の政策提言が、自社のサステナビリティー戦略・気候目標と矛盾するケースが、少なくありません。
たとえば、
こうした矛盾は、機関投資家・NGOから「自社の表向きの戦略と、裏の影響力行使が一致していない」と批判される論点になります。
CDPの気候変動質問書(2024年から気候・水・森林・生物多様性・プラスチックを統合した質問書に再編)でも、ロビイング・政策エンゲージメントは独立したモジュール(公共政策エンゲージメント/Public policy engagement)として設けられています(CDPの質問書構成は年次で改訂されています)。
質問内容は、
など、相当に具体的です。CDPでAリスト水準を狙う企業は、この質問への対応が不可欠です。
ある上場製造業のご支援では、業界団体メンバーシップの全面的なレビューを実施しました。自社が加盟する全業界団体をリスト化し、各団体の主要な政策ポジション(特に気候・エネルギー関連)を公開情報から抽出。自社のサステナビリティー戦略・気候目標との整合性を4段階(整合/概ね整合/一部矛盾/明確に矛盾)で評価し、「一部矛盾」「明確に矛盾」の団体については社内で対応方針を協議、年次のサステナビリティー報告書でレビュー結果と対応方針を開示する——という流れです。
結果として、一部の業界団体については、団体内での意見表明強化、上位団体との対話、最終的には脱退判断、といった選択肢が、社内で議論されるようになりました。
この取り組み自体が、InfluenceMapの評価とCDP質問書回答の質を高め、機関投資家対話でも前向きに評価されています。
日本企業の政治献金は、政治資金規正法に基づく公開が義務付けられていますが、企業のサステナビリティー報告書での自主的な開示・説明は、まだ限定的です。
機関投資家からの期待事項としては、
などが挙げられています。
担当者の方には、政治献金についても、業界団体メンバーシップと同じく、自社のサステナビリティー戦略との整合性レビューの対象として位置づけ直されることを、おすすめします。
最後に、責任あるロビイングへの対応を形だけにしないための勘所を挙げておきます。ロビイング・政策エンゲージメント方針をサステナビリティー戦略と同じ動線で策定し、業界団体メンバーシップ・レビューを年次の運用に組み込むこと。矛盾が見つかったときの対応プロセス(団体内での意見表明、上位団体との対話、脱退判断)を事前に設計し、取締役会・ガバナンス委員会への定期報告として回すこと。そして年次のサステナビリティー報告書で、レビュー結果と対応を率直に開示すること。
形だけ「責任あるロビイング方針」を公表しても、業界団体の活動と整合していなければ、機関投資家・NGOには見抜かれます。実装を伴った継続的な運用が、評価を分けます。
【ご相談窓口】 弊社(株式会社KI Strategy)では、責任あるロビイング体制と業界団体メンバーシップ・レビューの伴走支援を実施しています(専門家プラットフォームSasla経由のご相談も可)。InfluenceMap対応や政策エンゲージメント方針の策定でお悩みの方は、お話を聞かせていただければと思います。
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