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GX-ETS本格義務化への実務対応|SIA

2026年度から本格運用に入るGX-ETSは、年10万tCO2超の300〜400社を対象に、ベースライン・アンド・クレジット型の義務制度として運用される見込みです。第三者検証、J-Credit/JCMの活用上限、ICPとの連動など、実務担当者の論点を整理して取り上げる。

GX-ETS本格義務化への実務対応|SIA
FIG. 01 / GX-ETS本格義務化への実務対応|SIAPHOTOGRAPHY / ARCHIVE

2026年度から、GX-ETS(GX-排出量取引制度)が、それまでの試行的な仕組みから、ベースライン・アンド・クレジット型(無償割当を上回った排出量に対してクレジット調達等で対応する仕組み)の義務制度へと本格移行する見込みです。

対象として政府が想定しているのは、直近3年度平均でCO2の直接排出量が年10万トンを超える300〜400社規模の企業で、これらで国内のエネルギー起源CO2排出量の約6割をカバーするとされています(経済産業省)。電力、鉄鋼、自動車、航空、化学、セメント、紙パルプ等、排出量集中業種が直撃となります。

ご支援先からも、自社が義務対象に該当しそうだが排出量算定の体制が整っていない、第三者検証の運用設計をどこから手を付けるべきか、無償割当の枠組みと超過時のコスト・課徴金リスクを経営層にどう伝えるか——こうした相談が増えています。

ここでは、(1)GX-ETSの基本構造、(2)排出量を測れていない段階で詰む企業の特徴、(3)J-Credit/JCMの活用上限、(4)ICPと連動させて経営判断を変える設計、(5)データ・インテグリティを命綱に育てる運用、という流れで、コンプライアンス対応から脱炭素戦略への折り返しまでを見ていきます。

GX-ETSの基本構造

GX-ETSの基本的な仕組みは、ベースライン・アンド・クレジット型と呼ばれるもので、

  • 対象企業に、業種・規模に応じた排出量の上限(無償割当)が設定される
  • 実績がこの上限を下回れば、差分を排出枠として売却できる
  • 実績が上限を超えた場合は、不足分を市場から購入するか、課徴金を支払う

という流れで議論が進められています。

排出量の報告は、各年度の実績を翌年度の所定期日までに提出し、第三者検証機関による検証を受けることが必須となる方向です(具体日程は制度設計の最終段階で確定予定)。

超過時には、排出枠の保有義務の未履行分(不足分)に上限価格の1.1倍を乗じた額の負担金を納付する算定式が想定されています(経済産業省)。市場価格より高い水準に置くことで、排出枠を市場で購入するインセンティブを担保する仕組みです。

この制度設計の前提は「排出量が正確に測れている」ことですが、現実にはそこから詰まる企業が少なくありません。

「排出量を測れていない」段階で詰む企業

ご支援先で、最初に詰まる論点はほぼ共通しています。

まず、Scope1(自社直接排出)の精度がそもそも甘いケース。社内の燃料使用量、生産プロセス排出、フリート車両の燃費データなどが、月次・拠点別で揃っていない企業が、いまだに少なくありません。

次に、Scope2(電力・熱)のロケーションベースとマーケットベースの使い分けが整理されていないケース。GHGプロトコル準拠の算定では、ロケーションベース/マーケットベースの使い分けの社内ルール自体が決まっていない企業も多く見受けられます。

そして、第三者検証に耐えるドキュメンテーション(記録・証跡)が整備されていないケース。担当者の頭の中にしか存在しないデータ加工や、Excelシート単位で分散しているマスターデータでは、検証機関の質問に答えきれません。

「義務化が始まったから、慌てて算定体制を整え始める」では、初年度の検証で苦労します。

算定体制が整ったとしても、超過分をどう埋めるかが次の論点になります。

J-Credit/JCMの活用と上限

GX-ETSでは、超過排出を補うためのオフセット手段として、J-Credit(国内クレジット)と二国間クレジット制度(JCM)の活用が認められる方向ですが、それぞれに上限(議論中の水準として遵守義務量の一定比率以内)が設けられる方向で議論されています(具体水準は制度設計の最終段階で確定見込み、最新の経産省・環境省公表資料で要確認)。

つまり、自社の削減努力が前提で、外部クレジットでの埋め合わせは補助的な位置づけです。「クレジットを買えば何とかなる」という発想で計画を立てると、上限に行き当たります。

また、クレジット市場そのものの流動性や価格動向も、企業にとってのリスク要因になります。GX-ETS本格運用に伴い、J-Credit価格が上昇傾向にあるという観測も出ています。

クレジットでの埋め合わせに上限がある以上、本筋は自社の削減です。そのために必要なのが、社内の意思決定基準を変えることです。

ICPとの連動で経営判断を変える

GX-ETS対応を、単なるコンプライアンスとして処理してしまうと、組織の脱炭素行動につながりません。

ある上場製造業のご支援では、GX-ETS本格化を機に、社内のインターナルカーボンプライシング(ICP、社内炭素価格)の水準を見直しました。それまで低めに置いていたシャドープライスを、GX-ETSの想定水準を見据えて引き上げ、設備投資の判断基準と整合させたのです。

その結果、それまで採算が見えにくかった脱炭素設備投資が、社内の評価指標の上では選択しやすくなりました。

GX-ETSは外部からの「義務」ですが、経営判断を変える「内部の試金石」として位置づけ直すことで、組織の脱炭素行動が一段加速します。

そして、これらすべての前提が、開示・社内意思決定の双方を支える、データの精度と追跡可能性です。

データ・インテグリティが命綱

GX-ETSの本格運用が始まると、排出量データの精度・追跡可能性・整合性(データ・インテグリティ)が、企業評価の新たな焦点になります。

担当者の方には、

  • 排出量算定の社内ガバナンス(誰が、どこで、どう算定し、誰がサインオフするか)の文書化
  • 拠点別データの月次クロージングと、年度末の検証可能性の担保
  • 第三者検証機関との早期コミュニケーション(初年度は特に重要)
  • 経営層への「課徴金リスク」と「収益機会(余剰枠売却)」の両面での説明

を、強くおすすめしています。

排出量データを「報告のための数字」で終わらせるか、検証に耐え経営判断にも使える資産に育てるか。GX-ETSは、その分かれ目を企業に突きつける制度です。


【ご相談窓口】 弊社(株式会社KI Strategy)では、GX-ETS対応とカーボン戦略の伴走支援を実施しています(専門家プラットフォームSasla経由のご相談も可)。算定体制の整備や、ICP・脱炭素戦略との連動でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

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