INSIGHTS· ESG & IR

ICPが組織を動かす条件とは|SIA

インターナルカーボンプライシング(ICP)導入企業はCDP調査で世界1,500社規模、日本でも100社超に達しています。シャドープライシングと実課金型、IEA NZE・NGFSシナリオから逆算する価格水準、設備投資判断を本当に動かす設計を、上場製造業の事例とともに見ていく。

ICPが組織を動かす条件とは|SIA
FIG. 01 / ICPが組織を動かす条件とは|SIAPHOTOGRAPHY / ARCHIVE

「自社のCO2排出量に、内部的に値段をつけて投資判断や事業運営に組み込む」――インターナルカーボンプライシング(ICP)の導入企業が、ここ数年で急増しています。

CDPの2023年カーボンプライシング報告では、導入済と2年以内導入予定を合わせて、世界で1,500社規模に達しています。日本企業でも、CDP・環境省ICP活用ガイド系のデータでは、導入済が100社超に達しています。

ご支援先からも、

  • ICP導入を経営から指示されたが、価格水準をいくらにすべきか
  • 「シャドープライシング」と「実課金型(インターナルフィー/カーボンフィー)」のどちらにすべきか
  • 導入したが、現場の意思決定が変わった実感がない

といったご相談を頂きます。

ICPの二類型:シャドーと実課金

ICPには、大きく二つの類型があります。

シャドープライシング型:実際にお金は動かないが、投資判断や事業計画の評価において、「もしCO2排出量1tに対して○円のコストがかかると仮定したら」という形で、評価指標に組み込む方法

実課金型(インターナルフィー/カーボンフィー):事業部や子会社のCO2排出量に対して、本社や別会計から実際に内部課金を行い、その資金を脱炭素投資に充てる方法

シャドープライシングは導入のハードルが低く、多くの企業が最初に採用します。一方、実課金型は組織を動かす力が強い反面、設計や運用が複雑になります。

価格水準をどう決めるか

ICPの価格水準(カーボン価格)は、企業によって大きくばらつきます。

CDPの近年の調査では、グローバルでの中央値はCO2 1tあたり20〜30米ドル前後ですが、業界・地域・目的によって、10米ドル以下から100米ドル超まで分布しています。一部の欧州系大手企業では、設備投資判断に組み込む水準として100〜150ユーロ/t規模まで引き上げる事例も出てきています。

価格設定の主な参考値は、

  • 社内目標達成のために必要な価格(自社の限界削減費用曲線=MACCから逆算した必要価格。SBTi整合経路と突合させると説得力が増す)
  • 将来の規制・市場で予想される炭素価格(IEA NZEシナリオ:先進国で2030年130米ドル/t前後、NGFS気候シナリオの各経路、IPCC AR6 1.5℃整合経路、EU炭素中立目標経路)
  • 自社の主要市場で予想される排出量取引価格(EU ETS、英ETS、韓国KETS、中国全国ETS、日本のGX-ETS等。EU ETSは2025〜2026年で60〜90ユーロ/tレンジで推移)
  • 社会的炭素費用(Social Cost of Carbon、米国EPA 2023年改訂で約190米ドル/tCO2)

ICPの価格を「真水でない仮想の値段」と捉えると、設計に納得感が出ません。「将来、この価格が現実になる可能性が高いから、今のうちに意思決定に織り込む」という説明で、現場の納得を取りに行く必要があります。

「導入したが動かない」を避ける設計

ご支援した売上数千億円規模の上場製造業では、シャドープライシングを2022年に導入したものの、最初の2年間は、現場の投資判断にほとんど影響しませんでした。

原因を分析すると、

  • 価格水準が低すぎ(CO2 1tあたり3,000円)、設備投資の判断を変えるほどの影響がなかった
  • 投資判断のテンプレートには組み込まれたが、各事業部の評価指標には連動しなかった
  • 経営会議の判断資料に、ICPの影響が明示されなかった

の3つが見つかりました。

3年目に、価格水準を1万円超に引き上げ、各事業部の評価指標にもICPベースのCO2コストを反映させたところ、設備更新のタイミングで脱炭素技術(高効率ボイラー、再エネ電力契約への切り替え等)を選択するケースが、明らかに増えました。

ICPは「導入する」より「組織が動く水準と運用」を設計することの方が、何倍も難しいです。

開示と内部運用の両立

ICPの開示は、CDPの質問票、TCFD/IFRS S2/SSBJ整合の開示の中で、徐々に標準化が進んでいます。

ただ、開示用に整えたICPと、社内で実際に意思決定に使うICPが、別物になっているケースもあります。

担当者の方には、

  • 社内運用と開示で、ICPの価格水準・対象範囲・運用ルールに齟齬がないか確認する
  • 価格水準を、年に一度、外部環境(炭素価格、規制動向、技術コスト)の変化に応じて見直す
  • 実課金型に進化させるかどうかは、組織の覚悟と一緒に議論する

ことをおすすめしています。

ICPは、価格水準・対象範囲・評価指標連動・経営会議での見える化、この4点が揃って初めて投資判断を動かします。逆に、いずれかが欠ければ、社内で「真水でない仮想の数字」として形骸化します。


【ご相談窓口】 弊社(株式会社KI Strategy)では、ICP設計と脱炭素戦略の伴走支援を実施しています(専門家プラットフォームSasla経由のご相談も可)。ICPを導入したが効いていないと感じている方は、お話を聞かせていただければと思います。

CONTINUE / 次の一歩
FOR READERS OF THIS ESSAY

この記事の論点を、ご自身の組織に当てはめて進められない方へ。
2つの並走ルートをご用意しています。

ROUTE A / ON-DEMANDFROM ¥300,000 / MONTH

Saslaサスラ

定額制 / サステナビリティ専門家プラットフォーム

最初の一歩でつまずく論点に、現役の専門家が定額で並走します。チャットで日次、月次セッションで構造化し、社内に持ち帰れる整理メモまで一緒に作成します。

ESG開示
DISCLOSURE
Scope3 算定
GHG
人的資本
HUMAN CAPITAL
サプライチェーン
SUPPLY CHAIN
Saslaで定額相談する
ROUTE B / ONGOING3〜12 MONTH ENGAGEMENT

KI Strategy 伴走

個別契約 / ESG・サステナビリティ伴走支援

本稿で扱った論点を、組織の規律として実装するための個別支援。マテリアリティ更新、開示設計、社内浸透まで、編集主幹がプロジェクトを率いてご一緒します。

マテリアリティ
MATERIALITY
開示設計
DISCLOSURE
社内浸透
ENGAGEMENT
経営伴走
ADVISORY
30分の問診を申し込む
まずは読み続けたい方へ ── 次の記事を、隔週金曜にメールでお届けします。SUBSCRIBE THE NEWSLETTER →
編集部
ABOUT THE AUTHOR

編集部

KI STRATEGY / 編集部

KI Strategy 編集部所属。ESG・サステナビリティを軸に、開示と意思決定を貫くロジックを編む。

SECTION 05 / NEWSLETTER

週末に届く、
経営の編集。

隔週金曜の朝、編集部が選んだ1本と、サステナビリティ業界動向の3行サマリーをお届けします。広告なし、退会はワンクリック。

経営企画・ESG・IR 担当者へ隔週でお届けNO ADS · UNSUBSCRIBE 1-CLICK
CONSULTATION

個別の論点で進められない方へ

30分の問診で、御社の論点を編集部が言語化します。 Saslaの定額相談、または KI Strategy の伴走支援へお繋ぎします。

30分の問診を申し込む →
FOR ONGOING SUPPORT
KI Strategy 伴走
FOR ON-DEMAND Q&A
Sasla 定額相談