陸海空物流のScope3カテゴリ4(上流輸送)、カテゴリ9(下流輸送)、ラストワンマイル、グリーン物流、SmartWay、CDP、GLEC Frameworkまで、荷主企業が物流由来排出をどう管理・削減するかを、サプライチェーン担当者向けに取り上げる。
ご支援先のサステナビリティー担当者の方とScope3の話をしていると、カテゴリ1(購入した製品・サービス)が議論の中心になり、カテゴリ4(上流の輸送・配送)、カテゴリ9(下流の輸送・配送)が、相対的に薄く扱われていることが、よくあります。
ところが、業種・規模によっては、この物流関連のカテゴリ4・9が、Scope3全体の数〜10数%を占めることがあります。特に、船舶・航空輸送の多いグローバル展開の製造業、宅配が大量でラストワンマイルの効率化が論点となる小売・Eコマース、自社事業が運送である物流業界、資材輸送を抱える建設・インフラ、生鮮品のコールドチェーンを持つ農業・食品といった業種では、物流由来排出が、本格的に脱炭素戦略の柱として扱われるべき重みを持ちます。
以下では、物流の脱炭素の全体像、Scope3カテゴリ4・9の算定実務、輸送モード別の論点、荷主側の戦略、業界自主取り組みを取り上げます。
物流の脱炭素を、輸送モード別に取り上げます。
**陸上輸送(トラック、鉄道)**の主要排出源は軽油消費、特に長距離トラックです。トラックでは電動化(EV、FCEV)・バイオディーゼル・合成燃料が、鉄道貨物では電化やディーゼル機関車の更新、モーダルシフトが選択肢になります。
海運(弊社過去記事「IMO Net-Zero Frameworkと海運業界の脱炭素」参照)の主要排出源は重油(HFO)や低硫黄燃料(VLSFO、MGO)で、LNG・メタノール・アンモニア・水素・バイオ燃料といった代替燃料への転換が進みます。IMO Net-Zero Framework、EU ETSの海運拡張、FuelEU Maritime、Green Shipping Corridorが主要な政策枠組みです。
航空(弊社過去記事「航空業界とSAF(持続可能な航空燃料)」参照)の主要排出源はジェット燃料で、SAF(HEFA、ATJ、PtL、bio-FT)が本命です。CORSIA、EU・英・米のSAF mandate、Book and Claim方式が論点になります。
**ラストワンマイル(宅配、Eコマース)**の主要排出源は軽トラック・バン・バイクの軽油・ガソリンで、電動車・電動アシスト自転車・ドローン・配送ロボットの台頭と、配送密度の効率化・再配達削減が鍵です。
荷主企業の担当者の方は、自社の物流フローを輸送モード別に分解し、それぞれの脱炭素経路を組み立てる必要があります。
Scope3カテゴリ4(上流の輸送・配送)、カテゴリ9(下流の輸送・配送)の算定方法は、GHGプロトコルScope3 Standardをベースに、業界横断のGLEC Framework(Smart Freight Centre)が参照基準として広く使われています。
GLEC Frameworkは、物流の輸送活動からのGHG排出を輸送モード別・距離・重量で算定する標準手法で、物流GHG排出の定量化を定めたISO 14083(2023年公表)と整合し、SmartWay(米国EPA)、Lean and Green(欧州)、Clean Cargo Working Group(海運)等とも連携しています。
Scope3カテゴリ4・9の算定は、精度に応じて次の3アプローチがあります。
担当者の方は、自社の物流フローを、まずは支出ベースで算定し、徐々に距離ベース・燃料ベースに精緻化していく流れが、現実解です。
物流の脱炭素の業界自主取り組みを、いくつか並べます。
SmartWay(米国EPA)は、荷主とキャリア(運送業者)の双方が参加し、トラック・鉄道輸送のCO2排出削減を進める米国貨物輸送業界の自主プログラムです。Clean Cargo Working Group(CCWG、現Smart Freight Centre Maritime)は、荷主(消費財ブランド)と海運会社が協働し、Trade Lane別のCO2排出原単位データを共有するコンテナ海運の取り組みです。Lean and Green(欧州)は、参加企業が期限を切ってCO2削減をコミットし、達成度に応じてスターを獲得していく欧州物流業界の自主プログラムで、GLEC Council(Smart Freight Centre)はGLEC Frameworkの整備・改訂を通じて業界全体の標準化を担います。
これらへの参画は、Scope3カテゴリ4・9の算定精度向上、業界協働、荷主・キャリア間の対話の枠組みとして機能します。
陸上輸送の脱炭素経路として、モーダルシフト(トラック輸送から鉄道・内航海運へのシフト)は、コスト・CO2の両面で効きます。
日本国内では、国土交通省の「総合物流施策大綱」やトラックドライバーの労働時間規制(「2024年問題」)への対応を背景に、JR貨物のコンテナ輸送の活用拡大、内航海運(フェリー、RORO船)の活用、大手物流(日通、佐川、ヤマト、近鉄エクスプレス、商船三井ロジスティクス、SBSロジコム等)のモーダルシフト戦略が進んでいます。
主要な制約は、モーダルシフト先(鉄道、海運)の運用ダイヤ・容量、荷主側の納期要求・在庫戦略との整合、そして初期コスト・契約変更の負担です。
担当者の方は、自社の物流フローのうち、モーダルシフトに適する区間(特に長距離・大量・定期輸送)を特定し、3〜5年計画で段階的に切り替える設計を、おすすめします。
陸上輸送の電動化・代替燃料化は、業界の本流の動きとして加速しています。主要な選択肢は、次のとおりです。
業界では、大手物流(DHL、UPS、FedEx、ヤマト、佐川、日通、Maerskロジスティクス)がEV車両を大量導入し、ECサイト(Amazon、楽天、Alibaba)がEV車両・電動三輪車・配送ロボットを活用、EUもLast Mile Delivery for Sustainabilityの政策を進めています。
担当者の方は、自社の物流パートナーの車両更新計画と、自社の脱炭素目標を整合させる対話を、設計する必要があります。
Eコマースの拡大に伴い、ラストワンマイル配送(小売店・消費者への最終配送)の排出が、業界全体で論点化しています。
主要な論点は、同一地域への配送量を示す宅配密度、在宅率の低さによる再配達、包装の最小化・リユース可能化、宅配ボックス・コンビニ受取・駅店舗受取の活用、そして配送拠点の電動化(DCのEV充電インフラ)です。
主要プレイヤーでは、AmazonがClimate Pledgeのもと100,000台のEV配送車両や配送ロボット・ドローンの実証を進め、楽天市場・Yahoo!ショッピング・メルカリ等が再配達削減やコンビニ受取・宅配ボックスを、ヤマト・佐川・日通がEV車両・再配達削減・自営配送網の最適化を進めています。
ラストワンマイルは、消費者行動(受取場所の選択、再配達削減)も関わるため、業界・サービス事業者・消費者の協働で進める必要があります。
医薬品(特にワクチン、バイオ医薬品)、食品(生鮮、冷凍)、化学品(一部)の輸送には、低温物流(コールドチェーン)が必要です。
コールドチェーンの脱炭素論点は、冷却コンプレッサーを動かす冷凍車・冷蔵車のエネルギー消費、冷媒(HFCs、HCFCs)からのフッ素ガス漏洩によるGHG影響、冷蔵倉庫のエネルギー消費・冷媒、そしてCO2・アンモニアといった自然冷媒への転換です。
これは弊社過去記事「医薬品・ヘルスケア業界のESG実装」「食品・農業システム転換とSBTi FLAG」とも、横串で繋がる論点です。
最後に、物流の脱炭素を、Scope3戦略全体の中で位置づけ直す観点を一つ。
Scope3カテゴリ1(購入した製品・サービス)に集中するあまり、カテゴリ4・9(輸送・配送)が脇に置かれている、というパターンを、ご支援先でよく見ます。
ただ、グローバル製造業では海運・航空のカテゴリ4・9が全Scope3のなかで無視できない比率を占め、Eコマースではラストワンマイルが事業特性として大きく、小売・流通では物流ネットワーク全体の最適化が戦略の本筋となり、医薬品・食品ではコールドチェーンの構造的な重みがあります。
このような構造を踏まえると、物流の脱炭素を独立した柱として戦略に組み込む必要があります。
担当者の方には、
このあたりを、戦略の中で組み立て直すことをおすすめします。
形だけ「Scope3も対応しています」と書くか、物流まで含めた本物のScope3戦略を作るか。担当者の方の意識付けで、Scope3戦略の射程は確実に変わります。
【ご相談窓口】 弊社(株式会社KI Strategy)では、物流のScope3戦略、GLEC Framework対応、輸送モード別脱炭素設計、物流パートナーとのエンゲージメントの伴走支援を実施しています(専門家プラットフォームSasla経由のご相談も可)。物流の脱炭素を自社戦略にどう組み込むかでお悩みの方は、お話を聞かせていただければと思います。
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