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Scope3カテゴリ1算定で止まる担当者へ|SIA

製造業のScope3カテゴリ1(購入した製品・サービス)算定は、Scope1+2の10倍超になることも珍しくありません。GHGプロトコルの4つの算定手法(spend-based/average-data/hybrid/supplier-specific)と、上位集中型エンゲージメントへの移行ステップの論点を扱う。

SCOPE3カテゴリ1算定で止まる担当者へ|SI
FIG. 01 / SCOPE3カテゴリ1算定で止まる担当者へ|SIPHOTOGRAPHY / ARCHIVE

以前の記事で、金融機関のScope3カテゴリ15(投融資先排出量)について整理しました。

今回は、製造業をはじめとする非金融企業が、最も詰まりやすいカテゴリ1(購入した製品・サービス)の話を扱います。

Scope3カテゴリ1は、製造業の場合、Scope1・2を10倍以上上回る排出量規模を持つケースが多く、開示の重要度が高い一方で、データの取得と精度の両立が極めて難しい領域です。

ご支援先からも、

  • とりあえずspend-based(金額ベース)で算定したが、数字が大きすぎて経営層に見せられない
  • サプライヤーから一次データを取りたいが、依頼の窓口も体制もない
  • 算定はできても、減らしていく具体的な打ち手が描けない

といったご相談を頂きます。

GHGプロトコルが定める4つの算定手法

GHGプロトコルScope3 Standard / Technical Guidance for Calculating Scope 3 Emissions では、カテゴリ1の算定手法を次の4つに整理しています。

  • Spend-based method:購入金額×経済産業連関型の排出原単位
  • Average-data method:購入物量×品目平均原単位
  • Hybrid method:一次データ(サプライヤー固有)と平均データの組み合わせ
  • Supplier-specific method:サプライヤー固有の一次データ

精度はこの順に上がりますが、その分、データ収集の負荷も増していきます。最初のステップとしては、spend-basedから始めるのが現実解です。

ご支援した産業機械メーカー(売上1,000億円規模、調達先約3,000社)の例では、初年度はIDEA、環境省「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」付録の排出原単位データベース、Exiobase、米国EPAのEEIO(USEEIO)、CDP Technical Note等の業種別・品目別排出原単位を組み合わせ、購入金額からの推計で全カテゴリを算定しました。結果として、カテゴリ1だけでScope1+2の約12倍の排出量規模が出てきました。

「数字が大きくて出せない」と最初は経営層も言いましたが、業界他社も同じレベルで開示しているという実態を共有したところ、開示には踏み切れました。

つまり、まず開示すること、が次のステップに進むための前提になります。

Spend-basedの限界

ただ、spend-basedで終わると、いくつかの限界に行き当たります。

第一の壁は、「改善が数字に出ない」こと。サプライヤーがどれだけ削減しても、調達金額が同じなら自社の数字は1グラムも動きません。

第二は、精度です。業種別原単位は平均値なので、先進的なサプライヤーの努力は数字に反映されません。

そして第三が、CDPスコアやSSBJ/IFRS S2整合開示の質への影響です(自社がSSBJの初年度対象かは5年平均時価総額で判定されます)。Spend-basedのままでは、CDPでAリスト相当の評価には届きにくいのが現状です。

つまり、spend-basedは「スタート地点としては正しいが、ゴールではない」というのが、実務的な位置づけです。

サプライヤーエンゲージメント型に進化させるステップ

Spend-basedから、Hybrid/Supplier-specific型に進化させるためのステップを、以下に並べる。

▼ ステップ1:上位サプライヤーの絞り込み

まず、購入金額や排出量の上位20〜30社程度を特定します。これだけで、Scope3カテゴリ1の70〜80%をカバーできるケースが多いです(パレートの法則)。

すべてのサプライヤーに対応するのではなく、インパクトの大きい少数に絞ること。これが、エンゲージメント型の出発点です。

▼ ステップ2:対話チャネルの整備

絞り込んだサプライヤーに対して、

  • 既存の取引契約担当(調達部)
  • ESG担当者
  • サプライヤー側のサステナビリティ担当者

の三者を繋ぐ対話の場を設計します。年に1〜2回、対面・オンラインを組み合わせて、データ共有と、両社の脱炭素ロードマップの擦り合わせを行います。

▼ ステップ3:データ共有のフォーマット統一

サプライヤー側にとっても、毎社違うフォーマットでデータを求められるのは負荷になります。業界団体のガイドラインや、CDP Supply Chainなど、共通のフォーマットを活用すると、サプライヤー側の協力を得やすくなります。

▼ ステップ4:自社からの提供価値の明示

サプライヤーに依頼するだけではなく、自社から提供できる価値を明示することが、対話を継続的なものにします。たとえば、

  • サプライヤー側のCO2算定支援(ノウハウ提供、ツール紹介)
  • 脱炭素対応をしているサプライヤーを優先発注する基準の明示
  • 長期契約への切り替えによる、投資回収可能性の向上

といったものです。

なお、Supplier-specific data 採用時には、サプライヤー側の総排出量を購入製品にどう配分するか(経済配分/物量配分など)の論点が出てきます。Hybrid methodの設計時に同時に整理しておくのがおすすめです。

先ほどの産業機械メーカーの例でも、上位30社への対話エンゲージメントを2年継続したところ、これら30社からの一次データ取得率が9割を超え、カテゴリ1全体の一次データカバー率(Hybrid methodにおけるsupplier-specific割合)が、初年度比で大きく改善しました。

「形だけ」のScope3対応にしないために

最後に、Scope3カテゴリ1の算定を、形だけにしないための問いを。

  • 自社にとって、この数字は、何の意思決定に使われているか?
  • サプライヤー対応の負荷を減らしながら、データ精度を上げる工夫はあるか?
  • 5年後に、この数字がどう変わっていれば成功なのか?

算定だけが目的化すると、担当者の方も、サプライヤー側も、ただ疲弊するだけになります。

Spend-basedから始めて、Hybrid/Supplier-specific型に進化させていく。この移行プロセスを、自社の戦略の一部として描けると、Scope3カテゴリ1の取り組みが、一気に意味のあるものに変わってきます。


【ご相談窓口】 弊社(株式会社KI Strategy)では、Scope3カテゴリ1の算定設計から、サプライヤー対話の運用までを伴走支援しています(専門家プラットフォームSasla経由のご相談も可)。算定で止まっている方、エンゲージメント型に進化させたい方は、お話を聞かせていただければと思います。

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