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取締役会スキルマトリックスの作り方|サステナビリティーを3〜5項目に分解|SIA

コーポレートガバナンスコード補充原則4-11①の要請でほぼすべてのプライム企業がスキルマトリックスを開示。ただ「ESG」を1項目並べただけでは投資家に響きません。気候・自然・人権・人的資本・ガバナンス等への分解と「保有」「実務経験」の区別を、上場製造業の事例で扱う。

取締役会スキルマトリックスの作り方|サステナビリ
FIG. 01 / 取締役会スキルマトリックスの作り方|サステナビリPHOTOGRAPHY / ARCHIVE

東証プライム市場の上場企業を中心に、取締役会のスキルマトリックス(取締役個人別の専門性・経験を一覧化した表)の開示が、コーポレートガバナンス・コード補充原則4-11①の要請(取締役会の知識・経験・能力のバランス、多様性、適切な規模の両立)を受けて広がりました。

2026年時点で、ほぼすべてのプライム企業が、何らかの形でスキルマトリックスを開示しています。ただ、その内容を見ていくと、サステナビリティー・ESG関連のスキル項目が、形式的にしか機能していないケースが少なくありません。

ご支援先からも、スキルマトリックスに「ESG」と1項目並べているが何を指しているのか曖昧、社外取締役の中に「サステナビリティー有識者」とラベルされた方がいるが実務経験は不明、新任取締役のオンボーディングでサステナビリティー領域をどう学んでもらうか、機関投資家からの「取締役会のESG専門性」への問いに自信を持って答えられない、といったご相談を頂きます。

「ESG」1項目の限界

スキルマトリックスで、サステナビリティー領域を「ESG」「サステナビリティー」と1つの項目にまとめてしまうケースは、いまだに多く見られます。

これには、複数の問題があります。

第一に、「ESG」という言葉自体が広すぎ、何の専門性を指しているのか分かりません。気候変動・人権・ガバナンス・人的資本・自然関連――これらはいずれもESGに含まれますが、専門性の中身は大きく違います。

第二に、「保有」と「実務経験」の区別がつきません。研修を受けただけの「ESG知識保有者」と、たとえばESG専門部門で長年の実務経験を持つ「ESG実務専門家」では、取締役会での議論への貢献度が違います。

第三に、機関投資家の読み手にとって、信頼できるシグナルになりません。投資家は、表に並んだ「○」の数ではなく、その背景にある実体を見ています。「ESG」と1つ並んでいるだけでは、評価のしようがない、というのが実情です。

サステナビリティー領域のスキル項目を分解する

スキルマトリックスでサステナビリティーを意味のある項目にするには、領域の細分化が必要です。たとえば、次のような分け方が考えられます。

  • 気候変動・脱炭素:TCFD/IFRS S2/SSBJ基準、Scope1〜3、SBTi、インターナルカーボンプライシング、排出量取引
  • 自然関連:TNFD、SBTN、生物多様性、水・土地・海洋
  • 人権・労働:人権DD、サプライチェーン労働環境、UNGP、ILO
  • 人的資本:人的資本経営、ダイバーシティ、エンゲージメント、リスキリング
  • コーポレートガバナンス:CGコード、機関投資家対応、報酬・指名、開示・対話
  • サステナビリティー戦略:マテリアリティ、統合報告、戦略策定、ESG投資・ファイナンス
  • サステナビリティー・テクノロジー:脱炭素技術、ESGデータ管理、AIガバナンス

すべての項目を網羅する必要はなく、自社のマテリアリティに即して、3〜5項目程度に絞るのが現実的です。

そのうえで、各項目について「保有」と「実務経験」を区別して開示すると、機関投資家にも実態が伝わりやすくなります。

具体例:あるプライム企業のスキルマトリックス改革

ご支援した売上数千億円規模の上場製造業(東証プライム、グローバル展開)では、2024〜2025年にかけて、取締役会のスキルマトリックスを大きく見直しました。

それまでは「ESG・サステナビリティー」が1項目並んでいるだけでしたが、改訂後は、気候変動・脱炭素戦略、人権・サプライチェーンマネジメント、人的資本・ダイバーシティ、コーポレートガバナンス・株主対話の4項目に分解しました。

各項目について、各取締役の保有スキル・実務経験を、「保有」「実務経験あり」「他社事例で経験」の3段階で記載する形式にしています。

機関投資家との対話では、この分解が功を奏し、「サステナビリティー領域の取締役会の機能性」について、具体的な議論ができるようになりました。実態としても、各取締役の発言内容が、自身の専門性に応じて差別化されるようになり、議論の質も向上しています。

新任取締役のサステナビリティー・オンボーディング

スキルマトリックスを意味のあるものにするには、新任取締役へのサステナビリティー領域のオンボーディング設計も重要です。

実効性のあるオンボーディングには、自社のマテリアリティ・サステナビリティー戦略・目標・進捗の体系的な共有、IFRS S2/SSBJ・TNFD・SBTi・SBTN・CGコード・CSRD等の主要フレームワークの基礎知識、自社の主要なリスクと機会とそのシナリオ、投資家・規制当局・NGO等の主要ステークホルダーの関心事、サステナビリティー部・IR・人事・法務・リスク管理といった社内関連部門の取り組みと体制、といった要素が含まれます。

これらを、就任後の最初の3〜6ヶ月で集中的に伝える設計が、新任取締役のサステナビリティー領域での貢献を早期化します。

機関投資家からの「読まれ方」を意識する

スキルマトリックスは、自社の自己紹介ではなく、機関投資家・規制当局・取引先などへの公開情報です。

機関投資家がスキルマトリックスを読む時のポイントは、取締役会全体として自社のマテリアリティをカバーする専門性が揃っているか、特に気候・人的資本・ガバナンスの専門領域に実務経験のある取締役がいるか、同じ専門性ばかりや多様性に欠けるといったスキルの偏りがないか、スキルが議事録・対話の場での発言として実際の議論に反映されているか、サクセッション・プラン(後継者計画)の中で不足するスキルの補充が見込まれているか、ICGN Global Governance Principles等の国際的なガバナンス原則に照らして独立性・多様性・専門性のバランスが取れているか、です。

担当者の方には、自社のスキルマトリックスを、機関投資家の目線で再点検することをおすすめします。「形だけ並べた○の表」から、「取締役会の機能性を示すシグナル」への転換が、ガバナンス品質を高めます。

「形だけスキルマトリックス」を卒業する

担当者の方が、スキルマトリックスの実効性を高めるために、取り組まれると効くアクションを、いくつか挙げておきます。

  • 自社のマテリアリティに即して、サステナビリティー領域の項目を3〜5に分解する
  • 「保有」と「実務経験」を区別する開示形式に切り替える
  • 新任取締役のオンボーディング・プログラムに、サステナビリティー領域を組み込む
  • 取締役会・委員会の議事録・発言記録を、スキルマトリックスとひも付けて分析する
  • 指名委員会との連携で、不足するスキルの補充を、後継者計画の中で位置づける

「形だけスキルマトリックス」から、取締役会の機能性を映す道具へ。担当者の方の意識付けで、ガバナンスの質が確実に変わってきます。


【ご相談窓口】 弊社(株式会社KI Strategy)では、取締役会のスキルマトリックス改革と、サステナビリティー・ガバナンス統合の伴走支援を実施しています(専門家プラットフォームSasla経由のご相談も可)。スキルマトリックスの実効性に悩まれている方は、お話を聞かせていただければと思います。

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KI Strategy 編集部所属。ESG・サステナビリティを軸に、開示と意思決定を貫くロジックを編む。

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