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化学産業のグリーンケミストリーとTfS|PFAS規制への備え

化学産業のサステナビリティーは、Together for Sustainability(TfS)、グリーンケミストリー、バイオ素材、ケミカルリサイクル、グリーン水素・アンモニア、PFAS規制が並びます。化学・素材・商社のサステナ担当者向けに、業種固有論点を整理して伝える。

化学産業のグリーンケミストリーとTFS|PFAS
FIG. 01 / 化学産業のグリーンケミストリーとTFS|PFASPHOTOGRAPHY / ARCHIVE

化学産業は、製造業のサプライチェーンのほぼすべての出発点に位置する業種です。プラスチック、繊維、塗料、接着剤、農業用化学品、医薬中間体、電池材料、半導体材料、建材、自動車部品――どこを見ても化学品が前提になっています。

それゆえに、化学産業の脱炭素・サーキュラー・人権DD対応は、川下のすべての業種のScope3に直結する構造があります。化学産業が動かないと、社会全体の脱炭素・サーキュラーは構造的に進まない、と言ってもよい業種です。

ご支援先の化学メーカー、商社、川下顧客企業の担当者の方からも、化学プロセスの根本的な転換でScope1+2+3をどう減らすか、バイオ素材・ケミカルリサイクル・グリーン水素/アンモニアへの設備投資、PFAS規制(EU REACH、米国EPA)への対応、Together for Sustainability(TfS)への参画と運用、自動車・家電・消費財など川下顧客からの低炭素・低毒性化学品要請といったご相談が、業務の中核に上がってきています。

ここでは、化学産業のサステナビリティー戦略の独自論点を、5つの軸(脱炭素技術、業界自主取り組み、サーキュラー、化学物質規制、業種特化マテリアリティ)で並べます。

化学産業の脱炭素技術:4本柱

化学産業の脱炭素は、4本の技術柱で進んでいます。

柱①:グリーン水素・グリーンアンモニアの活用。 アンモニア生産は、世界の化学産業のCO2排出の中でも最大級です。Haber-Bosch法(化石燃料由来の水素+窒素+高温高圧)から、グリーンアンモニア(再エネ電力でのグリーン水素+窒素)への転換は、化学産業の脱炭素の大きな経路です。Yara、CF Industries、OCI、BASF等がグリーンアンモニアプロジェクトを進め、サウジアラビア・オーストラリア・UAEが輸出向けの大規模生産を、日本は水素戦略の主要需要セクターとして位置づけています。

柱②:バイオ素材(バイオプラスチック、バイオ化学品)。 化石燃料由来の化学品を、植物・微生物由来のバイオ素材に置き換える経路です。代表的なバイオ素材には、次のようなものがあります。

  • バイオポリエチレン、バイオポリプロピレン
  • PLA(ポリ乳酸)、PHA、PHBV
  • バイオベース・モノマー(ブタジエン、エチレングリコール、酢酸等)
  • バイオベース・添加剤、可塑剤

ただしバイオ素材には、原料調達の土地利用変化リスク(食料との競合、森林破壊)、コスト競争力、耐久性・耐熱性など性能の課題、そして必ずしも従来品より低排出とは限らないLCA上の評価といった論点があり、慎重な設計が必要です。

柱③:ケミカルリサイクル。 物理的なリサイクル(メカニカルリサイクル)が困難な廃プラスチック・廃化学品を、化学的に分解して原料に戻す技術で、主に次の手法があります。

  • 解重合(Depolymerization):PET、ナイロン等の解重合再生
  • 熱分解(Pyrolysis):複合プラスチック・混合プラスチックの油化
  • ガス化(Gasification):合成ガス(CO+H2)化、化学原料への戻し

主要プレイヤーとしては、BASF、SABIC、ダウ、LyondellBasell、Eastman、レゾナック、住友化学、東レ、三井化学等が、複数のケミカルリサイクル技術を開発・実装中です。

柱④:CCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)。 化学プロセスのCO2排出を捕捉し、化学原料(CO2由来メタノール、ポリオール、尿素等)として利用、または貯留する経路です。三菱重工エンジニアリングがCCSの商業化を、三菱ガス化学がCO2由来メタノールの実証を、住友化学・三井化学等がCCU(CO2の化学品利用)の研究を進めています。

Together for Sustainability(TfS):化学業界のサプライチェーン取り組み

化学業界のサプライチェーンESG対応の中核は、Together for Sustainability(TfS)です。

TfSは、2011年に設立された化学業界のサプライチェーン管理イニシアチブです。BASF、Bayer、Henkel、Solvay、AkzoNobel、Clariant、Covestro、Dow、DSM、DuPont、Evonik、L'Oréal、LANXESS、Lonza、Merck、SABIC、Solenis、Syngenta、Wacker等が参加し、監査(Audits)・評価(Assessments)・環境フットプリントの3つのコア・ピラーを軸に、2022年からはProduct Carbon Footprint(PCF)データ共有ガイドラインを推進しています。サプライヤー間で監査・評価結果を共有することで、重複監査の負担を軽減する仕組みです。

TfSは、医薬品業界のPSCI、電子業界のRBAと並ぶ、業種別サプライチェーンESG取り組みの主要枠組みです。

化学メーカーがTfSに参画することで、サプライヤー監査の重複削減、業界共通基準でのサプライヤー評価、PCF・LCA計算方法の標準化(PACT Frameworkとの整合)、そしてCSDDD等に対応する人権DDの業界協働が可能になります。

サーキュラーケミストリー:マスバランスとISCCサーキュラー認証

化学業界のサーキュラー対応で、独特の論点が「マスバランス」アプローチです。

マスバランスは、化石燃料由来・バイオ由来・リサイクル由来など複数の異なる原料が同じ生産プロセスに投入される場合に、出力製品へこれら原料の比率を「帰属」させる会計アプローチです。物理的には再生原料・バイオ原料を含まない最終製品にも、上流での再生・バイオ原料の投入を根拠に「再生材含有」「バイオ素材」と表示でき、巨大なクラッキング装置で複数原料を投入し複数製品を出力する化学業界の生産構造に適合した認証手法です。

認証としては、サーキュラー・バイオ素材のマスバランス認証であるISCC PLUS(International Sustainability and Carbon Certification)が代表的で、REDcert²やRSBもあります。

マスバランスはサーキュラー転換を進める実務的な道具ですが、物理的に何も変わっていない最終製品に「再生材」と表示することへのグリーンウォッシュ批判、EU PPWRでのリサイクル素材含有率カウントをめぐる認識ずれといった規制側の慎重姿勢、消費者の理解難度といった論点があります。化学メーカー・川下顧客企業の担当者の方は、マスバランスの活用と消費者向け表示の慎重さの両方を、戦略的に設計する必要があります。

PFAS規制:「永遠の化学物質」への対応

PFAS(Per- and Polyfluoroalkyl Substances、ペル・ポリフルオロアルキル化合物)は、4,700種類以上ある合成化学物質の総称で、撥水・撥油・耐熱・耐薬品性に優れる一方、環境中で分解せず、生体内に蓄積する性質から「永遠の化学物質」と呼ばれます。

PFASの主要用途は、次のように広範です。

  • 防水・撥水加工(衣料、靴、テキスタイル)
  • 食品包装(紙皿、紙容器の防水コーティング)
  • 調理器具(テフロン加工)
  • 半導体製造(レジスト、エッチング)
  • 医療機器
  • 消火剤(AFFF)
  • 自動車部品

規制動向としては、EUがREACHでのPFAS規制を提案し(2023年、5加盟国共同提案、ECHA)、特定の必須用途の扱いを含め、広範な制限が検討されています。米国EPAは飲料水中の規制(2024年に最大汚染物質レベルを設定)やCERCLA下でのPFOA・PFOS指定(2024年)を進め、各国・自治体の個別規制に加え、SEC・SSBJ等の開示要件でもPFASが論点として浮上しています。

化学メーカー・川下利用業界(半導体、医薬品、自動車、食品包装等)の担当者の方は、自社のPFAS使用状況の棚卸し、代替物質の研究開発・採用、規制動向の継続ウォッチ、サプライヤーからのPFAS削減・代替要請への対応を、3〜5年計画で組み立てる必要があります。

CBAM・GX-ETS下の化学産業

CBAMの対象6セクターには化学品全般は含まれませんが、肥料・水素は対象、有機化学品の追加が議論されています。GX-ETSの対象は、CO2排出量年10万t超で、ほぼすべての主要化学メーカーが該当します。

化学産業の脱炭素戦略は、これらカーボン価格規制下で、既存設備のエネルギー効率化(最大40%の改善余地)、再エネ電力調達(PPA、自家発電)、グリーン水素・グリーンアンモニアへの転換、バイオ素材・ケミカルリサイクル設備への投資、そしてCCUSの組み合わせで進めることになります。

ある化学品メーカーのご支援では、CBAM・GX-ETS・ICP(インターナルカーボンプライシング)を統合した投資判断フレームを構築しました。GX-ETS本格運用を機にICP水準を引き上げ、脱炭素設備投資の優先順位を再設計しています。

業種特化マテリアリティ:化学産業のESG論点

化学産業のマテリアリティは、汎用ESGに加えて、業種特有の論点が重みを持ちます。業種特有のマテリアリティには、次のような論点があります。

  • プロセス安全(Process Safety):化学プラントの爆発・漏洩・火災リスク、緊急対応
  • 化学物質管理:REACH、TSCA、化審法、PFAS、SVHC、内分泌攪乱物質
  • 水管理:プロセス水、廃水処理、地下水汚染
  • 大気汚染:VOC、NOx、SOx、有害大気汚染物質
  • 廃棄物管理:危険廃棄物、産業廃棄物、副生成物のリサイクル
  • サプライチェーン:紛争鉱物、重要鉱物(レアアース、リチウム、コバルト)の調達
  • 運送中の安全(Transportation Safety):危険物輸送、漏洩リスク
  • コミュニティとの関係:プラント周辺住民との対話、緊急対応訓練

これらは、CDPの化学セクター質問書、ESRSの化学セクター基準(策定中)、SBTi化学・医薬セクター向けガイダンス(2026年公表予定)でも論点化されています。

川下顧客との対話:自動車・家電・消費財・建設

化学産業のサステナビリティー戦略は、川下顧客(自動車、家電、消費財、建設、医薬品、農業)との対話設計が、戦略の核になります。

主要顧客の動きを見ると、自動車向けではEU電池規則(弊社過去記事「EU電池規則とBattery Passport対応」参照)や低炭素鋼(弊社過去記事「鉄鋼業界の水素還元製鉄とトランジション」参照)・バイオ素材が、家電向けではPPWR・ESPRに沿ったプラスチック・サーキュラーや再生材含有率が、消費財向けではパッケージのサーキュラー・バイオ素材・PFAS削減が、建設向けでは低炭素建材やサーキュラーコンクリートが、医薬品向けではAPI・賦形剤の脱炭素やAMR(弊社過去記事「医薬品・ヘルスケア業界のESG実装」参照)が、それぞれ論点になっています。

川下顧客からの低炭素・低毒性・サーキュラー化学品要請は、化学メーカーにとって、コスト負担と新規付加価値創造の両面の論点です。グリーン・プレミアムの市場形成、低炭素化学品の認証(ISCC PLUS、ResponsibleCare等)、製品ごとのPCF(Product Carbon Footprint)の透明な開示が、競争優位を作る要素になっています。

「上流業種だから動きが遅い」を超える

最後に、化学産業のサステナビリティー戦略で、避けたいパターンを一つ。

化学産業は、構造的に大規模設備投資が必要で、技術開発リードタイムが長く、複数原料・複数製品の生産プロセスが固定的です。それゆえに「動きが遅い」と業界全体で諦観されがちです。

ただ、川下顧客からの圧力、規制動向(CBAM、GX-ETS、PFAS、PPWR、CSDDD)、機関投資家の評価、技術進歩(バイオ、ケミカルリサイクル、グリーン水素)は、待ってくれません。

担当者の方には、

  • 3つの脱炭素経路(グリーン水素・バイオ素材・ケミカルリサイクル・CCUS)の組み合わせを、自社の事業特性に応じて設計
  • TfSへの参画と、サプライチェーン管理の業界協働
  • PFASなど特殊化学物質の中長期管理計画
  • 川下顧客との低炭素・サーキュラー対話の制度化
  • CBAM・GX-ETS・ICPの統合投資判断
  • 業種特化マテリアリティを、汎用ESGと並列で扱う

このあたりを、業種戦略の本筋に組み込むことをおすすめします。

形だけ業界平均で動くのか、業種特性を踏まえた本物の戦略を作るのか。担当者の方の意識付けで、化学産業という構造的に重い業種でのサステナビリティー戦略の質は、確実に変わります。


【ご相談窓口】 弊社(株式会社KI Strategy)では、化学産業のサステナビリティー戦略、TfS対応、グリーンケミストリー設計、PFAS対応、CBAM・GX-ETS統合の伴走支援を実施しています(専門家プラットフォームSasla経由のご相談も可)。化学業界の業種戦略でお悩みの方は、現状の診断からお手伝いできます。

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KI Strategy 編集部所属。ESG・サステナビリティを軸に、開示と意思決定を貫くロジックを編む。

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