国連プラスチック条約(INC)の交渉、EU PPWR(2025年2月発効・2026年8月適用)、ESPR・デジタルプロダクトパスポート、日本のプラ資源循環促進法――サーキュラーエコノミーが日本企業の事業戦略に直接効いてくる局面に入りました。担当者向けに論点を整理して伝える。
「サーキュラーエコノミー(循環経済)」という言葉、ここ5〜6年で耳にする頻度が一気に増えたかと思います。レジ袋有料化、コンビニのカトラリー削減、ペットボトルの水平リサイクル、衣料品の回収サービス――身近な話題としては馴染みがある一方で、企業のサステナビリティー戦略の中での位置づけは、まだ気候や人権ほどクッキリしていない、というのが現場感ではないでしょうか。
ただ、ここに来て、状況が変わりつつあります。国連プラスチック条約(INC)の交渉、EUのPPWR(包装と包装廃棄物規則)、ESPR(持続可能な製品エコデザイン規則)、デジタルプロダクトパスポート(DPP)、日本のプラスチック資源循環促進法――こうした制度の網が、自社の製品設計・原材料調達・パッケージ・販売・回収まで、ぐるりと取り囲み始めました。
ここでは、ここ最近の主要な動きを、企業実務に効く粒度で並べます。
国連プラスチック条約(International Legally Binding Instrument on Plastic Pollution)は、2022年3月の国連環境総会(UNEA)決議をもとに、政府間交渉委員会(INC)が2022年から交渉を続けてきました。当初は2024年中の最終化が目標でしたが、2024年11月の釜山INC-5、2025年のジュネーブでの再交渉でも、最終合意には至っていません(2026年5月時点)。
主な争点は、
このあたりです。化石燃料・石油化学業界の大きい産油国と、廃棄物影響の大きい島嶼国・欧州・カナダ等の間で、立場の差が大きく、最終化のタイミングは不透明な状況が続いています。
ただ、最終条約が遅れたとしても、各国・各地域の規制が単独で先行している現実があります。EUのPPWR、米国カリフォルニア州のSB54、日本のプラ法、韓国・ASEAN各国の生産者拡大責任(EPR)強化など、多層に動いています。担当者の方は、「条約待ち」ではなく、地域別の規制を縦横で押さえる姿勢が要ります。
EUのPPWR(Packaging and Packaging Waste Regulation)は、2025年1月22日に官報掲載され、同年2月12日に発効、2026年8月12日から本格適用が開始される包装関連の規則です(欧州委員会)。これまでの指令(PPWD)と比べて、
など、製造・流通・小売・サービス業に幅広く影響する内容になっています。EU市場で消費財・食品・飲料・サービスを展開している日本企業は、輸出品・現地販売品の包装設計を、PPWR要件に整合させる準備が必須です。
ESPR(Ecodesign for Sustainable Products Regulation)は、2024年7月に発効した、製品単位での持続可能性要件を統合的に定める枠組み規則です。これまでの個別指令(エコデザイン指令、エネルギーラベル指令等)を吸収し、対象製品をテキスタイル、家具、鉄鋼、アルミ、化学品、家電、ICT機器など幅広い分野に拡張していく設計になっています。
ESPRの中核ツールが、デジタルプロダクトパスポート(DPP)です。製品のサプライチェーン全体に関する情報(原材料の出所、リサイクル含有率、修理・リユース可能性、解体・分別情報、化学物質情報等)を、QRコード等経由でアクセスできるデジタル情報基盤として整備されます。
優先製品グループのDPP要件は、2027〜2028年以降、段階的に施行される予定で、対象製品をEU市場で販売する企業は、サプライチェーンを遡った情報収集体制を整える必要があります。
これはCBAM、CSRD、CSDDDと並んで、サプライチェーン情報収集インフラの大規模整備を、日本の輸出企業に要求する動きと位置づけられます。「うちはサプライチェーン情報まで管理できていない」という企業は、ここから優先順位を上げて、データ管理体制を整えていくことになります。
日本国内では、2022年4月施行のプラスチック資源循環促進法(プラ法)が、サーキュラーエコノミー関連の主要な国内法として動いています。
プラ法の主要な構成は、
など、製造から廃棄まで縦に通した枠組みになっています。コンビニのカトラリー削減、ホテルアメニティの大型ボトル化、ファストフードの店内紙化など、消費者の目に触れる動きの背景には、この法律があります。
並行して、
といった既存のリサイクル法体系と、サーキュラーエコノミーを統合的に動かしていく議論が、環境省・経済産業省で進行中です。今後数年で、産業横断のサーキュラー戦略がさらに具体化していく見込みです。
サーキュラーエコノミーの戦略を組むときに、よく参照されるフレームが「9R」です。Refuse/Rethink/Reduce/Reuse/Repair/Refurbish/Remanufacture/Repurpose/Recycle(最後にRecover)と並びます。
9Rは、上にいくほど(Refuse、Rethink、Reduce)資源効率が高く、下にいくほど(Recycle、Recover)資源効率が低い、という階層構造になっています。
ところが、企業の実務では、リサイクル(最も下層)の取り組みばかりが議論されがちです。理由としては、リサイクルは既存のサプライチェーン構造を大きく変えずに動かせるのに対し、リユース・リペア・リマニュファクチャは、ビジネスモデル自体の見直しが必要だから、というのがあります。
ただ、これからの規制動向(PPWRのリユース率目標、ESPRの修理可能性要件)は、上位R(Refuse、Reduce、Reuse、Repair)への移行を促進する設計になっています。リサイクル中心の戦略を続けるか、上位Rへの転換を視野に入れるか、ここが業界・企業の戦略分岐点になっていきます。
ある消費財メーカー(B2C、欧州市場に展開)のご支援では、PPWR対応を機会に、パッケージのリユース可能設計(リフィル、回収・洗浄・再使用)への投資、主要製品のリサイクル含有率目標の設定、販売店と連携した回収・リペアサービス、主要原材料のサプライチェーン遡及情報の整備(DPP対応の前段階)を、3〜5年計画で動かし始めました。これは単なる規制対応ではなく、ビジネスモデルの再設計プロジェクトとして位置づけられています。
サーキュラーエコノミー戦略を、CO2排出量の議論と接続するときに、必須になるのがLCA(Life Cycle Assessment、ライフサイクルアセスメント)です。製品の原材料採掘・製造・流通・使用・廃棄の各段階の環境負荷(CO2、水、土地、毒性等)を、定量的に評価する手法です。
LCA結果は、
など、複数の論点に折り返せます。
ただ、LCA算定は、データ収集の負荷が高く、想定の置き方で結果が大きく変わるため、第三者検証可能な形で運用する設計が必要です。EPD(Environmental Product Declaration、環境製品宣言)の取得は、業界横断のLCA結果開示の枠組みとして、欧州市場では事実上の前提になりつつあります。
サーキュラーエコノミーのKPIとして、業界横断で参照される指標がいくつかあります。
これらは、Scope3カテゴリ1(購入した製品・サービス)、カテゴリ5(事業から発生する廃棄物)、カテゴリ12(販売した製品の廃棄)の議論と、構造的に重なります。CO2の数字だけ管理する戦略から、資源・廃棄物・水・エネルギーを一体で管理する戦略への進化、と捉えることができます。
サーキュラー指標とScope3を統合的に管理できるESGデータ管理プラットフォームは、まだベンダー間の機能差が大きく、選定時の比較軸として注意が必要です。
最後に、サーキュラーエコノミー戦略でよく見る、形だけパターンを挙げます。
これらは、開示・広報の体裁は整いますが、ビジネスモデルとしてのサーキュラー転換には繋がりません。
担当者の方には、
このあたりを、戦略の柱として組み込み直すことをおすすめしています。
サーキュラーエコノミーは、規制対応の文脈で扱うか、ビジネスモデルの再設計の機会として扱うか。担当者の方の意識付けで、その後の数年の事業の幅は確実に変わります。
【ご相談窓口】 弊社(株式会社KI Strategy)では、サーキュラーエコノミー戦略、PPWR・ESPR・DPP対応、LCA運用、サーキュラーKPIとScope3統合の伴走支援を実施しています(専門家プラットフォームSasla経由のご相談も可)。サーキュラー戦略をどこから着手すべきかでお悩みの方は、現状の診断からお手伝いできます。
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