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ESG評価機関スコアに振り回されない実務|MSCI・CDP対応で疲弊する前に|SIA

MSCI、Sustainalytics、CDP、FTSE、S&P Global CSA(DJSI構成銘柄選定の基礎)など、ESG評価機関対応で疲弊する担当者が増えています。スコアアップが企業価値向上に必ずしも繋がらない構造的理由と、戦略×スコアの二軸整理の実務フレームを、上場企業の事例とともに扱う。

ESG評価機関スコアに振り回されない実務|MSC
FIG. 01 / ESG評価機関スコアに振り回されない実務|MSCPHOTOGRAPHY / ARCHIVE

毎年、春から秋にかけて、ESG担当者の業務時間の多くが、ある作業に吸われていきます。

ESG評価機関への対応です。

  • MSCI ESG Rating(AAA〜CCCの7段階評価)
  • Sustainalytics ESG Risk Rating(Morningstar傘下)
  • CDP(気候変動・水・森林の3テーマ)
  • FTSE Russell ESG Score(FTSE4Good Index構成銘柄選定)
  • S&P Global Corporate Sustainability Assessment(CSA/DJSI構成銘柄選定の基礎)
  • ISS ESG QualityScore(公開情報+データ検証ポータル形式)

主要なものだけでも、これだけの数があります。

それぞれが微妙に異なる質問項目・データ形式を持ち、似たようなデータの提出を、別フォーマットで何度も求められます。

弊社が伴走支援した時価総額1兆円規模の上場製造業では、サステナビリティ部3名の年間延べ900時間超が、評価機関対応に充てられていました。社内では「もはや本業」と苦笑される状況です。

それでも、なぜスコアを追ってしまうのか?

評価機関のスコアは、

  • ESG投資家のポートフォリオ組み入れ判断
  • 取引先からの取引継続判断
  • ESGインデックス組み入れ
  • 社内の経営層へのKPI報告

など、複数の意思決定に影響を与えます。

そういう意味では、スコアを上げる動機は、確かに存在します。

ただ、スコアを上げることそのものを目的化してしまうと、本末転倒なことが起き始めます。たとえば、配点の高い項目に合わせて自社にとってさほど重要でないアクションに時間を割いたり、評価機関の質問に「Yes」と答えるためだけのポリシー文書が社内に増えていく、といったことです。

これは「形だけのスコア対応」と呼ばれるもので、評価機関側もこの傾向は把握しており、近年はIFRS S2/SSBJ・人権DD等のフレーム整合と定量データの双方が問われる方向へ、質問体系が進化してきています。CDPは2024年に気候・水・森林・生物多様性・プラスチックを統合した質問体系へ移行(2024年回答から完全統合)し、CSAも人権DD関連の設問を増やしています。MSCI・Sustainalyticsもメソドロジーの定期的な見直しを進めており、ESG評価のメソドロジー差を踏まえた多重対応が、担当者の現場ではむしろ煩雑化しています。

スコアと戦略を二軸で整理する

担当者の方におすすめしているのが、自社の取り組みを次の二軸で整理することです。

縦軸:自社の戦略上の重要度(マテリアリティとしての位置づけ) 横軸:評価機関のスコアへの影響度

この二軸でESG施策をプロットすると、四象限ができます。最優先になるのは、戦略的にも重要かつスコアにも効く取り組みです。一方、スコアには効かないが自社戦略上は重要な取り組みは、スコア対応を後回しにしてでも進める価値があります。

逆に、戦略的にはさほど重要ではないがスコアには効く取り組みは、最低限の効率対応で済ませる範囲。戦略にもスコアにも効かない取り組みは、思い切ってやめる候補です。

担当者の方の業務時間が、後者2つに偏っていないか、一度棚卸しをしてみると、無駄な時間が見えてくるはずです。

スコアアップが、企業価値に必ずしも繋がらない理由

ESG評価機関のスコアと、長期的な株価や企業価値の関係は、一筋縄ではいきません。MSCIのリサーチ「Foundations of ESG Investing(2019)」でも、ESGスコアとリターンの関係は、業種・期間・伝達経路(キャッシュフロー、特異リスク、システマティックリスク)によって強弱が大きく異なる、と報告されています。

理由はシンプルで、スコアは過去のアクションを総合評価するもので、将来の戦略の質を測るものではないからです。

たとえば、ある企業がScope3排出量を5%削減したとします。これはスコアに加点されますが、その削減が将来の事業成長戦略と整合しているかどうかは、スコアからは読み取れません。

投資家の中には、スコアそのものよりも、スコアの背景にあるストーリーと戦略の整合性を見ている方も増えてきています。

そういう意味では、スコアの数字を追うよりも、「自社のESG戦略を、評価機関のフレームで翻訳できているか」という視点で対応した方が、結果的にスコアも上がりやすい、という現象が起きています。

評価機関対応の負荷を減らす実務的な工夫

最後に、担当者の方が明日から手をつけられる工夫をいくつか。

  • 回答データを「マスター回答集」として一元管理し、各評価機関ごとにコピペで使い回せる体制を作る
  • 前年回答からの差分のみを更新する運用にし、毎年ゼロから書き直しをしない
  • 経営層への報告は、絶対値ではなく自社の戦略上の重要項目の進捗で行う
  • 評価機関ごとの開示基準のクセを社内ドキュメント化しておき、担当者の異動でリセットされないようにする

評価機関対応は必要な業務ですが、それ自体が業務の中心になると、担当者も組織も疲弊します。

スコアは結果指標であり、目標指標ではありません。来年度のアンケート対応工数を3割削る、という具体KPIから逆算することを、まずおすすめします。


【ご相談窓口】 弊社(株式会社KI Strategy)では、ESG評価機関対応の効率化と、ESG戦略策定の伴走支援を実施しています(専門家プラットフォームSasla経由のご相談も可)。評価機関対応に時間を取られすぎていると感じている方は、お気軽にお問い合わせくださいませ。

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