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TNFDで踊らされない自然関連リスク戦略|SIA

TNFDが本格化し、TCFDの二の舞で「形だけ開示」に陥る企業が出ています。ENCOREでの依存・影響マッピング、四つの世界観でのシナリオ設計、米国SEC気候開示ルールの事実上凍結とEU・日本の温度差を踏まえた優先順位の付け方を、化学品メーカーのご支援事例とともに解説します。

TNFDで踊らされない自然関連リスク戦略|SIA
FIG. 01 / TNFDで踊らされない自然関連リスク戦略|SIAPHOTOGRAPHY / TBD

TCFD対応が落ち着いた企業の中で、次に問われ始めているのが、TNFD(自然関連財務情報開示)への対応です。TNFDは2023年9月に最終提言v1.0を公表し、2024年初には320社規模のEarly Adoptersが公表されました。その後も拡大は続き、2025年11月時点では54の国・地域、62のセクターから700社超(時価総額9兆ドル超、AUM22兆ドル超)が登録、当初から日本企業がEarly Adopters国別では最多を占めています。

実際、ご支援先からも

  • TNFDのLEAPアプローチ(Locate/Evaluate/Assess/Prepare)をどう自社に当てはめるか
  • 生物多様性のマテリアリティをどう判断するか
  • 水・土地・廃棄物のデータをどう整理するか

といったご相談を頂くようになってきました。

ただ、TCFDの時にも見られた「形だけ対応」が、TNFDでも繰り返されつつあるのが、現場での実感です。

TCFDの教訓――何を「踊らされる」と呼ぶのか

TCFDの導入時、シナリオ分析が、日本では「2℃/4℃」の組み合わせで試算するという定型に収れんし、各社似たトーンの開示物として並ぶようになりました。

もちろん、共通言語ができたことの意味はあります。一方で、開示物だけを見ても、自社にとって本当に重要なリスクと機会が何なのかが見えづらい状況も、同時に生まれました。

担当者の方からも、「4℃シナリオでうちの売上にどれだけの影響が出ます、という数字を書いたが、それで経営判断が変わったわけではない」という声を伺うことがあります。

つまり、開示自体が目的化してしまい、戦略への折り返しが弱かった、ということです。

TNFDで同じことを繰り返さないために、自然関連リスクが自社にとってどれくらいの重みなのかを、まず踏み込んで議論することが、出発点になります。

業種ごとに、自然依存の「絵姿」は違う

弊社のご支援先である化学品メーカー(売上数百億円規模、東南アジアからの天然由来原料の調達比率が約3割)の事例ですと、生物多様性のマテリアリティ議論を始める前に、

  • 主要原材料のうち、植物由来や鉱物由来の比率はどれくらいか
  • 調達地域は、水ストレスや土地利用変化の影響を受けるエリアと重なるか
  • 自社工場が、保護区域や生態系の希少エリアの近くにないか

を、ENCORE(業種ごとの自然資本への依存・影響をマッピングするUNEP-FI/Global Canopy/UNEP-WCMC共同運営のツール、2024年に大幅刷新)の業種別マップを起点に、補完的にWWF Risk Filter Suite(水・生物多様性のロケーション別ストレスマッピング)、WRI Aqueduct(水ストレス・洪水・干ばつ)、IBAT(保護区・KBA・IUCNレッドリスト)も参照しながら、データで揃えてみました。

その結果、自社にとっての自然関連リスクは、思っていた以上に「特定のサプライヤー群(東南アジアの第一次原料)の調達リスク」に集約されている、ということが分かりました。逆に、自社工場側の生態系リスクは想定より軽微でした。

業種が変われば、絵姿はまったく異なります。食品・繊維・建設・小売・金融、それぞれで、自然依存の論点は変わります。

TNFDの開示要件を機械的に埋めるのではなく、自社のバリューチェーン上で、自然のどの要素にどれくらい依存しているのか(依存・影響・リスク・機会の4軸)を可視化することが、優先順位付けの出発点となります。LEAPの「Locate」フェーズでENCOREを使う、という流れが実務では一般的です。

ただ、現状マッピングが終わっただけでは戦略になりません。次に必要なのは、「5〜10年後にこの依存関係がどうなっているか」という未来の世界観を仮置きすることです。

「四つの世界観」で対応シナリオを描く

カーボンニュートラル対応の議論で、当メディアでも以前ご紹介した「四つの世界観」フレームは、TNFDにも応用可能です。

①規制・開示要請が現状程度で頭打ちになる世界観 ②自然関連対応の有無が、企業の取引・調達条件に差を生む世界観 ③自然関連対応が、企業活動の前提条件になる世界観

そして、論理的にはあり得る逆張りシナリオとして、

④規制が後退・形骸化し、結果的に自然関連対応をしない方が短期的にコスト面でプラスになる世界観

があります。実際、米国では、SECが2024年3月に採択した気候開示最終規則について、訴訟による凍結を経て、2025年3月にSEC自身が法廷防御を取り下げ、連邦レベルでの開示義務は事実上停止しています。EUでもOmnibus提案によりCSRD/CSDDDの適用範囲・時期見直しが進行中で、地域差は確実に広がっています。

ただ、欧州・日本では、CSRDやSSBJを起点に、二つ目/三つ目の世界観に近づいていく可能性が高い、と見る企業が多いのが現実です。

その上で、自社が想定する世界観と、その時間軸(5年後/10年後)を経営層と握ること。これが、TNFD対応の「戦略的なゴールイメージ」になります。

開示は副産物、戦略が主役

TNFDでも、TCFDの時と同じく、開示自体が早く立ち上がるため、担当者は開示作業に追われがちです。

ただ、開示物そのものは、本来、戦略策定の副産物に近いものです。

主役は、「自社のバリューチェーン上の自然関連リスクと機会を、どう経営判断に組み込むか」という戦略議論です。

開示準拠と戦略策定を、同じ動線に乗せず、並走するスケジュールとして設計しておくこと。これは、TCFDで多くの企業が悔やんだポイントを、TNFDで繰り返さないための、最も地味で効く工夫です。

次の一手として、来期予算策定前に「自社の世界観仮説」を1ページで経営会議に提示することを、おすすめします。


【ご相談窓口】 弊社(株式会社KI Strategy)では、TNFD対応とネイチャーポジティブ戦略の支援を実施しています(専門家プラットフォームSasla経由のご相談も可)。業種別の自然関連リスクの整理に悩まれている方は、お気軽にお問い合わせくださいませ。

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