食品ロス削減推進法(2019年)下、日本は2030年までに2000年度比半減目標。FAO Food Loss and Waste、Champions 12.3、フードバンク、PET水平リサイクル、需要予測AIなど、食品・外食・小売・物流の担当者向けに取り上げる。
食品ロス・食品廃棄物の問題は、長らく「もったいない」という日本独自の文化的な響きで語られてきましたが、ここ5〜10年で、サステナビリティー戦略の独立した論点として、世界的に位置づけが上がっています。
国連SDG 12.3は、2030年までに小売・消費者レベルでの世界全体の食品廃棄を半減することを目標とし、FAO(国連食糧農業機関)、WRI、Champions 12.3、Consumer Goods Forumなどが、業界横断の取り組みを推進しています。
日本でも、食品ロス削減推進法(2019年10月施行)で、2030年までに食品ロスを2000年度比半減という目標が設定され、食品メーカー、外食、食品小売、物流、自治体、NPOが連携した取り組みが進んでいます。
入口でつまずくのは、たいてい測ることの難しさです。食品ロスは製造・流通・小売・外食・消費者の各段階で発生しますが、自社が把握できるのはそのうちの一部でしかありません。
そこから、需要予測AIや賞味期限管理をどこまで精緻化するか、フードバンクや寄付プログラムにどう関わるか、余剰食品を飼料・肥料・ガスへどう回すか、そしてこれらをサーキュラーKPIや統合報告書の開示にどう接続するか、と話が広がっていきます。
以下では、食品ロスの全体像、主要枠組み、業界の取り組み、企業の戦略を取り上げます。
食品ロス(Food Loss)と食品廃棄(Food Waste)の世界規模での実態を、まず押さえます。FAOの推計では、世界全体の食料生産の約13.2%が収穫後から小売の間で失われています(Food Loss)。さらにUNEPのFood Waste Index Reportによれば、世界全体で年間約10億トンの食品が廃棄されています(UNEP)。SDG 12.3は、この小売・消費者レベルでの食品廃棄を2030年までに半減させることを目標としています。
日本の状況を見ると、推計食品ロス量は年間約472万トン(2022年度、農林水産省・環境省)で、うち食品事業者由来が約236万トン、家庭由来が約236万トンと、ほぼ半々です。2030年目標は、食品事業者由来が2000年度比半減(達成見込み)、家庭由来も同じく2030年までに半減とされています。
これは、温室効果ガス排出(食品の生産・輸送・廃棄処理に伴うCO2)、水・土地・エネルギーの浪費、経済的損失、そして食料安全保障やフードシェルターの必要性といった社会的影響まで、複数の論点が重なる構造を持っています。
Champions 12.3は、SDG 12.3達成を加速する官民連携イニシアチブで、政府代表、企業CEO、研究機関、NGOが参画しています。主要な参加企業には、小売のWalmart・Tesco・Carrefour、食品メーカーのNestlé・Unilever・Mars・PepsiCo、フードサービスのSodexo・Compass Groupなどが名を連ねます。
Champions 12.3が推進する「Target-Measure-Act」アプローチは、次の3ステップです。
FLW(Food Loss and Waste)Standardは、WRIが整備する食品ロス測定の業界標準です。担当者の方は、自社の食品ロスを、FLW Standardに整合した測定方法で把握し、削減ロードマップを組み立てる必要があります。
食品ロスは、Scope3カテゴリの複数に該当します。主要なScope3カテゴリとの対応は、次のとおりです。
これらの算定が、Scope3戦略(弊社過去記事「Scope3カテゴリ1の算定で止まる担当者へ」参照)と、サーキュラーKPI(弊社過去記事「サーキュラーKPI:MCI・CTI・ISO 59000とScope3を、ひとつの動線で管理する」参照)と統合的に管理されることが、現代の食品関連サステナビリティー戦略の本筋です。
食品ロス削減の取り組みは、業種で論点が異なります。
食品メーカーでは、AI・機械学習による需要予測の精緻化、科学的根拠にもとづく賞味期限の見直し、規格外品・端材の活用(副生成物利用)、賞味期限間近商品のフードバンク寄付、廃棄物の飼料化・肥料化が、主な打ち手です。
外食では、曜日別・季節別・天候別の需要予測、小盛り・大盛りメニューの選択肢、持ち帰り(ドギーバッグ)の推進、余剰食品の従業員食事への活用、フードバンク寄付が挙げられます。
食品小売では、古い順販売や特売による賞味期限管理、需要予測の精緻化、販売期限近商品の値引き販売、賞味期限超過品のフードバンク寄付、自社調理品の発注最適化が中心となります。
物流・卸では、コールドチェーンによる配送中の温度管理、在庫管理の精緻化、規格外品・損傷品の活用、賞味期限管理の効率化が論点です。
各業種の協働で、サプライチェーン全体での食品ロス削減を進める設計が、業界全体の趨勢です。
食品ロス削減の主要な技術ドライバーが、需要予測AIです。需要予測AIは、小売・外食の販売データ分析(曜日、季節、天候、地域、イベント、価格)、食品メーカーの生産計画最適化、販売期限近商品の自動値引きやフードバンク寄付を含む賞味期限管理、在庫の動態管理に活用されます。
ソリューションとしては、Microsoft・AWS・Google Cloudの汎用AI/機械学習サービス、Salesforce・Oracle・SAPの食品業界向けソリューション、国内では日立・富士通・NEC・楽天・メルカリ等の業界向けソリューションがあります。
ある食品メーカーのご支援では、需要予測AIの導入により、過剰生産と賞味期限切れ廃棄の削減を進め、コスト・CO2の両面で成果が出始めています。
ただしAI導入は、販売・在庫・季節などのデータインフラ整備を前提とし、受発注フローや在庫管理といった現場の運用変更を伴い、初期投資と運用コストのバランスも問われる、組織変革を伴う取り組みです。
賞味期限近商品、規格外品、訳あり品の有効活用として、フードバンクへの寄付が、業界横断で広がっています。主要なフードバンクには、次のような組織があります。
企業が寄付プログラムを設計する際は、寄付できる食品の基準(賞味期限・品質・衛生)、配送ロジスティクス(自社運送・フードバンク経由・第三者)、寄付控除など税制の活用、社員のボランティア参画、統合報告書・サステナビリティーレポートでの開示といった論点を整理します。
寄付プログラムは食品ロス削減の有効な手段ですが、「フードバンク寄付=食品ロス削減」と短絡せず(まず発生量を減らすことが本筋です)、寄付できない食品の有効活用(飼料・肥料・ガス化)も並走で組み立て、プログラムの社会的意義を地域コミュニティとの関係づくりに活かす、という本質的な視点が重要です。
食品ロス削減の法的基盤を、いくつか順に追います。
日本では、食品ロス削減推進法(2019年10月施行)が基本方針・自治体の計画・食品ロス削減月間(10月)を定め、食品リサイクル法が食品関連事業者の食品廃棄物リサイクルを、容器包装リサイクル法が包装の回収・リサイクルを規律します。
フランスでは、食品ロス防止法(2016年)が大型小売店に売れ残り食品の慈善団体への寄付を義務づけ、賞味期限切れ食品の廃棄を禁じ、フードバンク連携を義務化しています。
イタリアでは、食品寄付の責任を免責してフードバンク連携を促す「Buon Samaritano」法(2003年)と、食品ロス削減推進法(2016年)が整備されています。
EUでは、廃棄物枠組指令が食品廃棄物削減目標を掲げ、PPWRが包装食品関連の規律を定めています。
各国・地域での規制動向は、企業の食品ロス戦略に影響します。グローバル展開企業は、地域別の規制への対応が必要です。
食品ロスを、Scope3カテゴリ1・5・12、サーキュラーKPI(MCI、CTI)と統合的に管理する設計が、現代の食品関連サステナビリティー戦略の本筋です。
統合管理のフレームとしては、自社の食品ロス量を製造・流通・小売・外食・消費者の各段階でFLW Standardに整合した方法で測定し、それを各段階のScope3カテゴリに帰属させ、サーキュラーKPI(MCI Outflow、CTI Outflow)に組み込み、年次目標と進捗管理を回し、統合報告書で独立した章立てとして開示する、という流れになります。
ある食品関連製造業のご支援では、食品ロス量をサプライチェーン段階別に測定し、需要予測AI・賞味期限管理・フードバンク寄付の三本柱で削減を進め、Scope3カテゴリ1・5・12の算定やサーキュラーKPI(CTI Outflow)と連動させ、統合報告書で独立した章立てとして開示しています。機関投資家・主要顧客(小売)からの評価も、前向きに変わってきています。
最後に、食品ロス対策で、避けたいパターンを一つ。
「食品ロスを減らそう」「もったいない」キャンペーンを社外発信して終わり、というアプローチは、機関投資家・規制当局・消費者からの評価には繋がりません。
担当者の方には、
このあたりを、サステナビリティー戦略の本筋に組み立てることをおすすめします。
形だけ「もったいない」を語るか、本物のサーキュラー食品システム戦略を作るか。担当者の方の意識付けで、食品関連サステナビリティー戦略の質と社外評価は、確実に変わります。
【ご相談窓口】 弊社(株式会社KI Strategy)では、食品ロス戦略、需要予測AI活用、Champions 12.3、フードバンク連携、サーキュラーKPI統合の伴走支援を実施しています(専門家プラットフォームSasla経由のご相談も可)。食品ロス論点でお悩みの方は、一度ご相談いただければ幸いです。
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