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サプライヤー脱炭素要請の四つの世界観|SIA

ESG投資家やIFRS S2/SSBJ対応を迫られた上場企業がサプライヤーに脱炭素を求めるケースが急増。要請する側の四つの世界観、米国SEC気候開示の事実上停止とCA州法・EU・日本の温度差、商社の事例と上位40社対話で取得率9割を実現した設計を、担当者向けに見ていく。

サプライヤー脱炭素要請の四つの世界観|SIA
FIG. 01 / サプライヤー脱炭素要請の四つの世界観|SIAPHOTOGRAPHY / ARCHIVE

以前、当メディアで「カーボンニュートラルやESG・SDGs対応を顧客や取引先から求められた場合の対応方法」という記事を書きました。

要請を受けた側、つまり多くの中堅・中小企業の立場から、四つの世界観を踏まえて打ち手を考える、という内容でした。

今回は、その裏面として、要請を「出す側」の話を取り上げます。

ESG投資家やIFRS S2/SSBJ基準(旧TCFD枠組みを継承)対応を迫られる上場企業が、自社のサプライヤーに脱炭素・ESG対応を依頼するケースが、ここ1〜2年で一気に増えてきました。CDP Supply Chainプログラムの参加企業数も、2024年で約280社、対象調達額は約6.4兆ドル規模、被要請サプライヤー数は2024年回答ベースで約47,000社規模と、世界最大の企業間サプライチェーン気候情報開示プログラムに育っています。

ご支援先からも、

  • サプライヤーへのアンケートを始めたが、回答率が30%以下で困っている
  • 回答が来ても、データの精度がバラバラで、Scope3算定に使えない
  • 対応してくれない取引先を、本当に切り替えるべきかどうか判断がつかない

というご相談を、よく頂くようになりました。

「要請する側」の四つの世界観

要請を出す側にも、四つの世界観があります。整理しやすいよう、3つの本流シナリオと1つの逆張りシナリオに分けます。

①差が出ない世界観:ESG投資家からの圧力が想定ほど強まらず、現状の取引でも特に問題が起きないシナリオ ②差が出てくる世界観:Scope3の数値が改善された企業が、ESG投資家から評価され、株価や調達コストに差が出るシナリオ ③前提条件になる世界観:要請を出していない企業は、ESG投資家のポートフォリオから外され、IFRS S2/SSBJ開示で評価されない、というシナリオ

そして逆張りとして、

④要請を出さない方が得な世界観:過剰な要請が取引先離れを招き、結局、調達ポートフォリオが弱くなるシナリオ

があります。論理的には十分にあり得ますし、特にサプライヤーの選択肢が限られている業界では、強すぎる要請が取引リスクに直結します。

実際、米国では、SECが2024年3月に採択した気候開示最終規則について、訴訟による凍結を経て、2025年3月にSEC自身が法廷防御を取り下げ、連邦レベルでの開示義務は事実上停止しています。一方、カリフォルニア州のSB253/SB261は施行スケジュールが継続中で、地域・法域によって温度差が顕著になっています。EUでもOmnibus提案でCSRD/CSDDDの適用範囲・時期見直しが進行中であり、四つ目の世界観が、地域・業種によっては現実に近づく可能性も否定できません。

「要請する側」の落とし穴

ご支援した非鉄金属系の専門商社(連結売上3,000億円規模、サプライヤー約800社)では、2024年に全サプライヤーへ一律の脱炭素アンケート(24問・Excel配布)を送付したところ、回答率は28%にとどまりました。

回答状況をセグメント別に分析すると、

  • 大手サプライヤーは大量の依頼に追われ、回答が遅れる
  • 中堅サプライヤーは「うちにそんな体制はない」と回答を断る
  • 中小サプライヤーは無回答のまま、関係性が悪化する

という構造が見えてきました。一律の要請は、サプライヤー側の温度感をかえって冷やす結果になっていたのです。

落とし穴は主に三つあります。

ひとつは、サプライヤー側の対応コストを軽視すること。要請を受けた中小企業からすると、新たなデータ収集と回答業務は、本業の負荷を圧迫します。

ふたつめは、「要請を出した」ことを成果と勘違いすること。要請の数が増えても、実際にサプライヤーの排出量が減らなければ、Scope3の数字は変わりません。

みっつめは、自社内のサプライヤーマネジメント体制が追いついていないこと。回答が集まっても、それを精査・フォローアップする社内体制がなければ、データが死蔵されてしまいます。

要請を「対話」に変える設計

要請する側になったときに、効果が出やすい設計を以下に並べる。

まず、サプライヤーをセグメント分けすること。サプライヤーの規模、自社にとっての戦略的重要度、排出量への寄与度の三軸で、対応の濃淡をつけます。

最重要セグメントには、アンケート送付ではなく、1対1の対話の場を設定します。データを取りに行くのではなく、サプライヤーの脱炭素の悩みを一緒に整理し、自社で支援できることを提示する。これが、結果的に協力を得やすい打ち手になります。

中堅セグメントには、簡易フォーマットでのアンケート+オンライン勉強会の組み合わせ。一律の重い要請ではなく、サプライヤー側の体力に合わせた階段を提示するイメージです。

その他のセグメントは、業界平均値などの推計値で当面のScope3を算定し、データ精度の優先順位を下げる、という割り切りも必要になります。

先ほどの非鉄金属系商社の例でも、上位40社の重要サプライヤーへの1対1対話に切り替えたところ、半年後にはこの40社からのデータ取得率が9割を超えました。Scope3カテゴリ1(購入した製品・サービス)の一次データカバー率も、結果的に8割超に改善しています。SBTi Net-Zero Standardでも、Scope3エンゲージメント目標として「2027年までに購入額の67%をSBTi整合のサプライヤーでカバー」といった水準が示されており、上位集中戦略は世界標準でも合理的です。

要請を出す前に、自社で問うべきこと

最後に、要請を出す前に、自社内で言語化しておくべき問いをいくつか。

  • なぜ、いま、サプライヤーに要請を出すのか?(ESG投資家からの圧力?SSBJ対応?経営判断?)
  • 要請の結果として、5年後に、自社のScope3排出量がどれくらい変わっていれば成功なのか?
  • サプライヤー側にどんな負荷をかけるか、その負荷をどう軽減できるか?
  • 対応してくれないサプライヤーをどうするか?切り替える基準と、そのタイミングは?

これらを言語化しないまま要請を出すと、「形だけ要請を出した」状態になり、サプライヤー関係も、自社のScope3管理も、両方が中途半端になります。

要請する側のESG担当の方が、要請を出す前に、一度立ち止まって考えるきっかけになれば幸いです。


【ご相談窓口】 弊社(株式会社KI Strategy)では、サプライヤーエンゲージメント設計と、Scope3対応の伴走支援を実施しています(専門家プラットフォームSasla経由のご相談も可)。サプライヤーへの要請をどう設計するか悩まれている方は、お気軽にお問い合わせくださいませ。

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