「女性版骨太の方針2023」で2030年までにプライム企業女性役員比率30%目標。ISS・Glass Lewis等の議決権行使方針が段階的に厳格化する中、社外取締役で数を埋める発想からの卒業と、社内パイプライン三層構造(候補者人材プール/執行役員/取締役会)を担当者向けに扱う。
女性役員比率の引き上げが、上場企業のガバナンス上の最重要論点の一つになっています。
日本政府の「女性版骨太の方針2023」では、2025年を目途に女性役員を1名以上選任し、2030年までにプライム市場上場企業の女性役員比率を30%以上とする目標が示され、2023年10月に東証の上場制度へ反映されました(内閣府男女共同参画局)。これを受けて、機関投資家側の議決権行使方針も急速に厳格化しています。ISS、Glass Lewis、国内の運用機関各社が、女性役員ゼロや比率の低い企業の取締役選任議案に対し、反対推奨・反対投票を増やす方針を打ち出しています。
東証プライム上場企業の女性役員比率は、内閣府の集計で2022年の約11.4%、2023年の約13.4%から、2024年は約16.4%へと上昇しています(内閣府男女共同参画局)が、業種・規模別では依然として開きがあります。「女性役員ゼロ」の企業もなお残り、機関投資家のターゲットとして議決権行使で反対推奨が積み上がる構造です(最新値は内閣府男女共同参画局の年次調査で要確認)。
ご支援先からも、自社の女性役員比率を2030年までに30%へどう引き上げるか、社内の女性管理職パイプラインが薄いなか何から手を付けるか、社外取締役で数を埋めるだけでは機関投資家の評価を得られないのではないか、「Comply for the sake of Comply」にならない実装をどう設計するか——こうした相談を頂くようになっています。
女性役員比率の目標達成にあたって、最初に思いつくのが、「社外取締役を女性で増やす」という打ち手です。
これは、短期的には数値目標を達成する手段として機能します。実際、上場企業の女性役員のかなりの比率が、社外取締役・社外監査役で構成されている現実があります。
ただ、機関投資家からの評価は、ここからもう一段厳しくなりつつあります。
こうした構造は、「Comply for the sake of Comply」と機関投資家に映ります。
担当者の方が中期視点で組み立てるべきなのは、社外取締役の数合わせではなく、社内の女性パイプラインの構築と、執行側への女性登用です。
機関投資家側の議決権行使方針は、年々厳格化しています。
ISS(Institutional Shareholder Services)の日本向け議決権行使方針では、プライム市場上場企業について女性取締役ゼロの場合、経営トップである取締役選任議案に反対推奨する基準が、2023年以降段階的に強化されています。Glass Lewisも、プライム市場で女性取締役がゼロの場合、指名委員会委員長等の選任議案に反対推奨する方針を導入しています。
国内の主要な運用機関(GPIF系、信託銀行系、生保系、運用会社系)も、同様の方針を相次いで打ち出しています。
これらの方針は、
の各軸で、年々厳しい方向に動いています。担当者の方には、自社が対象とする主要な機関投資家の方針を毎年点検し、自社の状況とのギャップを早期に経営層・指名委員会に共有することを、おすすめしています。
外圧の輪郭が見えたところで、では自社の中で何を整えるか。鍵は社内パイプラインの構築です。
実効性のある女性役員比率向上策には、社内パイプラインの三層構造が必要です。
第一層:候補者人材プール
部長・本部長級の女性管理職を、計画的に増やす段階。新卒入社時点での男女比、管理職昇進時点での男女比、海外赴任・基幹部署経験の男女比など、各キャリア段階での「漏れ」を点検し、補強します。
第二層:執行役員レベル
候補者人材プールから、執行役員(業務執行取締役)に登用される段階。ここでの男女比が、女性役員比率の本丸です。
第三層:取締役会
執行側からの内部昇進と、社外取締役の選任を組み合わせて、取締役会全体の女性比率を構成する段階。
各層で、自社のパイプラインがどこで詰まっているかを可視化し、施策を打つことが必要です。三層のうち一層だけに介入しても、長期的な実装にはつながりません。
ある上場製造業のご支援では、女性役員比率の中長期計画を全面的に見直しました。
それまでは社外取締役の女性比率を高めることで取締役会全体の比率を保っていましたが、執行側の女性役員はゼロという状態でした。
見直し後は、部長級の女性比率に中期の引き上げ目標を置き、基幹部署(事業部長・生産部長・研究開発トップなど)への女性配置に数値目標を設定。執行役員への女性登用を毎年の登用ルールとして組み込み、社外取締役の選定では「他社で実務経験のある女性」を優先する——という形で、三層を同時に動かす計画にしました。
機関投資家との対話でも、「社外取締役で数を埋めている会社」と「社内パイプラインを構築している会社」の差は、はっきり評価に表れるという反応が返ってきます。
最後に、女性役員比率向上の取り組みを、形だけにしないための視点を、いくつか挙げておきます。
まず、女性管理職比率(19項目開示の中の1項目)と、女性役員比率を、同じ動線で議論すること。両者がバラバラに目標管理されている企業では、長期的なパイプライン構築が機能しません。
次に、女性活躍推進の施策(育休、両立支援、リーダー研修など)を、女性役員比率という結果指標と結び付けて評価すること。施策が打たれても、結果指標に反映されていなければ、施策の見直しが必要です。
そして、女性役員比率の議論を、「男女平等」「ジェンダー平等」だけでなく、「自社の意思決定の多様性」「リスク管理の質」「組織のサステナビリティー」という、より広い文脈で語ること。これにより、社内の説得力が増します。
担当者の方には、「30%という数字を達成する」ことを目的にするのではなく、「自社の経営の質を高める手段としての多様性」という視点で、長期計画を組み立て直すことを、おすすめしています。
【ご相談窓口】 弊社(株式会社KI Strategy)では、女性役員比率向上の実装支援と、人的資本経営・人事戦略の伴走支援を実施しています(専門家プラットフォームSasla経由のご相談も可)。社内パイプライン構築や指名委員会の議論設計でお悩みの方は、一度ご相談いただければ幸いです。
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