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TCFD対応の実務|シナリオ分析とScope3を現場でどう回すか|SIA

「TCFD対応」という言葉はいまも実務で使われるが、中身はIFRS S2/SSBJ準拠の気候開示へ移った。シナリオ分析はどの範囲で回すか、Scope3はどこまで見るか、サステナビリティ部門だけでなく経営企画・事業部をどう巻き込むか——推進の現場で必ず出る問いに、編集部としての答えの方向性を示す。

TCFD対応 シナリオ分析 Scope3 IFRS S2 SSBJ
FIG. 01 / TCFD対応 シナリオ分析 Scope3 IFRS S2 SSBJPHOTOGRAPHY / ARCHIVE

最近も「TCFD対応をどう進めるか」という相談は絶えない。ただし前提を一つ更新しておきたい。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)は2023年10月に役割を終え、開示状況のモニタリングはIFRS財団へ引き継がれた。いま実務で言う「TCFD対応」とは、その枠組みを受け継いだIFRS S2/SSBJ基準準拠の気候開示を指す。制度的な移行の全体像はTCFDから卒業しIFRS S2/SSBJへに譲り、本稿は推進の現場でつまずく問いに絞って答えの方向性を示す。

なぜ問いの整理が要るのか。気候開示はリスクマネジメントとシナリオ分析を伴うため、サステナビリティ部門やCSR部門だけでは完結しない。経営企画・財務・事業部の巻き込みが必須になる。ここでの「よくある問い」に、編集部が現場で支援してきた経験から答える。

シナリオ分析は、どの範囲で実施するのか? 最終的には全社が理想だが、まずは事業や地域を絞って始める企業が多い。これは妥協ではなく、回しながら精度を上げる現実解だ。

では、どう絞るか? 「事業ポートフォリオでの比重」「戦略的重要度」「気候変動との関係性」「データ収集の難易度」——この4軸で優先順位をつける企業が多い。重要度が高くデータが取りやすい事業から着手し、横展開していくのが定石だ。

事業はどの粒度で考えるべきか? 業界による。たとえば製造業では、気候リスクはサプライチェーンの川上で大きく、川下では相対的に小さい、といった偏りが出る。だからサプライチェーンはなるべく幅広に取る。狭く切ると、肝心のリスクを見落とす。

時間軸はどう置くか? 短期・中期・長期に分けるのが基本。SDGsやネットゼロ目標と整合させ、2030年を中期、2050年を長期に置くのは一つの定番だ。

1.5℃と4℃、どのシナリオを使うか? 移行リスク(脱炭素政策・カーボンプライシング)を見るなら1.5℃近辺、物理リスク(自然災害・気温上昇)を見るなら4℃近辺、という複数シナリオの併用が標準だ。ここは「未来の世界観を描く」想像力も要る。左脳的な定量分析だけでなく、その世界で自社のビジネスがどう変わるかの解像度が、開示の説得力を左右する。

リスクはどの粒度で抽出すべきか? IFRS S2や業界レポートに列挙されたリスク類型を起点にしつつ、自社のサプライチェーン固有の論点を足す。そしてリスクと同じ熱量で「機会」を抽出することを忘れない。脱炭素は規制対応であると同時に、新市場・新製品の機会でもある。

事業インパクトはどこまで評価するか? ビジネスDDに近い発想で、「売上・コストのどこに、どの変数を通じて効くか」を特定する。すべてを精緻にモデル化しようとすると止まる。主要変数だけを明らかにし、その感応度を見る程度が現実的だ。

Scope3はどこまで見るか? 後継のIFRS S2ではScope3の開示が原則必須になった。排出量の大きいカテゴリ(多くの製造業では購入した製品・サービス、または使用段階)から優先的に算定する。完璧な網羅より、意思決定に効く範囲から固めるのが先だ。

対応策(移行計画)はどう描くか? リスク・機会を並べたら、「ではどうするか」を定義する。「ビジネスモデル変革」「ポートフォリオ変革」「能力・技術への投資」などが該当する。IFRS S2は移行計画の開示も求めるため、現状の対応状況を棚卸ししたうえで、今後の打ち手を時間軸つきで描くのが通常の流れだ。

情報開示は何を書くか? 結論だけでなく、どう検討してきたかのプロセスそのものが価値になる。検討の経緯をアーカイブ化しておくと、翌年以降の更新も、保証対応(第三者保証)も格段に楽になる。

ここまで読んでお気づきの通り、TCFD(いまのIFRS S2/SSBJ)対応は「開示文書を書く作業」ではなく、気候を経営の意思決定に組み込む作業だ。だからこそ部門横断になり、だからこそ難しい。SSBJ基準は2025年3月に確定し、2026年3月期から任意適用、2027年3月期以降にプライム市場の大企業から段階的に義務化される見込みである。準備の時間は、もう長くは残っていない。

シナリオ分析の設計、Scope3の算定体制、経営企画・事業部を巻き込む推進の進め方などで外部の知見が要る場面では、当サイト運営元の株式会社KI Strategy、およびサステナビリティ専門家に定額で相談できるSaslaもご活用いただける。

本記事は2021年公開の内容を2026年6月に全面更新した。TCFDの解散・IFRS財団への移管、IFRS S2、SSBJ基準の各最新情報は、IFRS財団およびSSBJ(サステナビリティ基準委員会)の公式リリースで都度確認することを推奨する。

#TCFD #IFRS_S2 #SSBJ #Scope3 #シナリオ分析 #サステナビリティー

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KI STRATEGY / 編集部

KI Strategy 編集部所属。ESG・サステナビリティを軸に、開示と意思決定を貫くロジックを編む。

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