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Scope3が「測れない」初年度開示|重要性×測定可能性で決める|SIA

「重要だと特定したのに、その論点ほど自社の外で数字が取れない」——Scope3の初年度開示でいちばん多い手詰まりがこれだ。空欄を二次データで埋めて済ませるのか、それとも測れないことを正直に書くのか。重要性と測定可能性の2軸で、初年度に正当化できる開示の線を引く。

Scope3 supply chain emissions data gap disclosure spreadsheet primary data sustainability
FIG. 01 / Scope3 supply chain emissions data gap disclosure spreadsheet primary data sustainabilityPHOTOGRAPHY / ARCHIVE

「いちばん重要だと特定したカテゴリが、いちばん埋まらない」。Scope3の初年度開示に取りかかった推進担当者から、私たちが相談の現場で最も多く聞くのが、この一言だ。マテリアリティ分析では上位に来る。ところがいざ算定に入ると、そのカテゴリのデータは自社の壁の外——調達先や、売った製品の使われ方の中にあって、手が届かない。

ここで起きているのは、単なる「データ収集の手間」ではない。重要性の高い論点ほど、自社の境界の外で測定不能になるという構造的なねじれだ。そして担当者は、無言の空欄か、根拠の薄い概算か、開示見送りか——どれを選んでも気持ちの悪い三択を前にする。

本稿は、その三択を「重要性×測定可能性」の2軸に置き換え、測れない論点を初年度にどう正当に開示するかの判断軸を組み立てる。算定手順そのものはScope3の15カテゴリScope1・2・3の基礎に譲り、ここでは「測れない時の開示の決め方」だけを扱う。

前提——初年度は「全部きれいに測る」ことが要件ではない

最初に外しておきたい思い込みがある。SSBJ基準が義務化されると、初年度から全カテゴリの精緻なScope3数値が要る、という思い込みだ。そうではない。

開示府令(企業内容等の開示に関する内閣府令等)は2026年2月20日に公布・施行され(金融庁)、SSBJ基準に沿った開示の義務化は、平均時価総額3兆円以上が2027年3月期、1兆円以上3兆円未満が2028年3月期、という2区分から段階的に始まる(金融庁)。そのSSBJ気候基準(2025年3月公表/サステナビリティ基準委員会)には、適用初年度に限りScope3温室効果ガス排出量の開示を免除する経過措置が置かれている(EY Japan)。ただしこれは「黙って出さなくてよい」という意味ではなく、経過措置を適用する場合はその旨を開示することが基準上想定されている点には注意したい。

つまり制度設計そのものが、初年度のScope3に猶予を与えている。だからこそ問いは「測れないから書けない」ではなく、**「初年度のこの猶予期間に、何を、どの精度で、どう書き残すか」**になる。猶予を「何も出さなくていい年」と読むか、「測定の土台を宣言する年」と読むかで、二年目以降の景色がまるで変わる。

重要性×測定可能性の2軸でカテゴリを仕分ける

私たちが初年度の整理で最初にやってもらうのは、Scope3の各カテゴリ(自社に関係する範囲)を、縦軸=財務マテリアリティ上の重要性、横軸=今期の測定可能性、で四象限に置く作業だ。マテリアリティそのものの絞り込みはマテリアリティの決め方で詳述しているが、ここでは「測れるかどうか」を重ねるのがミソである。

象限重要性測定可能性初年度の打ち手
A一次データ寄りで算定し、削減実績まで開示する主戦場
B本稿の主役。二次データ概算+測定ロードマップ宣言で正当に開示
C二次データ概算で淡々と埋める。ここに工数を吸われない
D重要性が低い旨を明記し、当面は対象外/簡易推計で割り切る

手詰まりの正体は、ほぼ常に象限Bにある。カテゴリ1(購入した製品・サービス)、カテゴリ11(販売した製品の使用)あたりが典型で、重要なのに数字が自社の外にあって取れない。逆に言えば、つらいのはBだけで、A・C・Dは粛々と処理できる。まずBを切り出すこと自体が、初年度を回す最大のコツだ。

象限Bを「測れないから空欄」にしない——3つの選択肢

重要だが測れないカテゴリで、初年度に取りうる開示の形は実質3つ。優先順位はこの順だ。

(1) 二次データ概算+一次データ移行計画の併記。 業界平均原単位を使った概算値を出したうえで、「この値は二次データに基づく推計であり、◯年度までに上位サプライヤーの一次データへ切り替える」と宣言する。最も推奨される形である。ここで効いてくるのが環境省の動きだ。同省は2025年3月に「一次データを活用したサプライチェーン排出量算定ガイド Ver1.0」を発行し、副題そのものを「“削減努力が反映されるScope3排出量算定”へ」とした(環境省)。二次データでは取引先の削減努力が数値に反映されないという欠点を公的に認め、一次データへの段階移行を推奨したということだ。この公式見解があるおかげで、「いまは二次データ概算、これから一次データへ」という移行計画の開示それ自体が、未熟さの告白ではなく前向きな段階開示として評価される土台ができた。

(2) 定性記述のみ(数値を出さない)+測定ロードマップ。 概算すら根拠が薄いカテゴリは、無理に数字を作らない。重要だと特定した理由、現時点で測れない構造的な理由(データ保有者が自社境界外である等)、そして測定可能にするための具体ステップと時期を、文章で残す。初年度の経過措置でScope3数値を見送る場合も、この定性記述まで省くのは避けたい。

(3) 当面対象外の明示。 関連性が乏しいと判断したカテゴリは、その判断根拠を一行で示して対象外とする。これは「サボり」ではなく、メリハリをつけた誠実な開示だ。

避けたいのは第4の選択肢、すなわち**「重要なのに、理由も計画も書かずに空欄/沈黙」**。読み手(投資家・評価機関・取引先)は、空欄を「測れない」ではなく「管理できていない」と読む。同じ「数字がない」でも、ロードマップを伴う空白と、説明のない空白では、受け取られ方が正反対になる。

二次データ概算を「出していい」ラインと「危ない」ライン

ここで一つ、私たちが現場で釘を刺すことがある。二次データ概算は便利だが、削減を訴求する文脈で二次データの数値を使うのは危ない。業界平均原単位は活動量(調達金額や数量)が増えれば機械的に増え、減らせば減る。自社や取引先がどれだけ省エネや再エネ転換をしても、二次データの数値には1グラムも反映されない(環境省)。

だから線引きはこうなる。

  • 使ってよい:規模感の把握、全体に占める各カテゴリの寄与度の把握、象限C・Dのカテゴリの開示
  • 慎重に:象限Bの初年度開示(概算+移行計画の併記が前提)
  • 避ける:「二次データ上の数値が前年から減った」を削減成果として語ること

削減のストーリーを描きたいカテゴリほど、一次データへの移行が要る。そして一次データは自社だけでは絶対に揃わない。ここから先は、算定の話ではなく社内をどう動かすかの話になる。

社内翻訳——調達先へのデータ依頼を「お願い」から外す

一次データ収集の最大の壁は、技術ではなく交渉だ。調達先に排出データを出してもらう、その一点で多くの初年度プロジェクトが止まる。ありがちな失敗は、依頼が**サステナビリティ部からの「お願いメール」**として発射されていることだ。取引先からすれば、優先順位の低い善意の要請にしか見えない。差出人が「環境の部署」である時点で、相手の社内でも環境担当に回され、そこで滞留する。

効いたやり方は、フレームを丸ごと差し替えることだった。

  • 誰の課題にするか:「サステナ部のお願い」から「調達部門の調達リスク」へ。取引先の排出データが取れないことを、将来の調達条件・取引継続の論点として調達部のアジェンダに乗せ替える。発信元を調達部にするだけで、相手企業内での宛先が変わる。
  • 何に紐づけるか:依頼の根拠を善意ではなく制度に紐づける。「SSBJ義務化対象として開示が要る」「貴社も取引先から同じ開示要請を受ける側になる」——連鎖の構造を示すと、相手にとっても自分ごとになる。
  • どこで詰まるかを先回り:事業部のKPIや予算に紐づかない限り、現場は動かない。一次データ収集を事業部の評価指標や来期予算の前提に組み込む交渉は、事業部を巻き込むESGで扱った稟議の作法と同じ筋道で進める。

役員説明の場では、Scope3の空欄を「未達」として詫びる構図に持ち込まないことだ。「重要だが測定不能な領域を特定し、いつ測れるようにするかの計画を立てた」——これは管理の後退ではなく前進である。象限Bの存在を可視化し、その解消ロードマップを示すこと自体が、初年度に経営へ報告すべき成果になる。稟議では「来期、一次データ化に動くカテゴリを2つに絞る」くらいの具体まで落とすと通りやすい。

まとめ

Scope3初年度の手詰まりは、能力不足ではなく構造の問題だ。重要な論点ほど自社の外で測れなくなる。だから空欄を二次データで雑に埋めるのでも、測れないからと黙るのでもなく、重要性×測定可能性で仕分け、象限B(重要だが測れない)を「二次データ概算+一次データ移行計画」または「定性記述+測定ロードマップ」で正当に開示する。これが初年度の現実解である。制度はScope3初年度に経過措置という猶予を与えている。その猶予を、土台づくりの宣言の年として使えるかどうかで二年目が決まる。

象限Bの線引きや、調達先・事業部を巻き込むデータ収集の段取りは、社内の力関係も絡んで一社では決め切りにくい。そうした場面では、当サイト運営元の株式会社KI Strategyによる伴走や、サステナビリティ専門家に定額で相談できるSaslaを、初年度の判断の壁打ち相手として使う手もある。

本記事は2026年6月時点の公開情報(金融庁の開示府令改正、環境省グリーン・バリューチェーンプラットフォーム、サステナビリティ基準委員会、EY Japanの各解説)をもとに整理した。SSBJ基準の経過措置や開示府令の細目は改訂が入りうるため、適用時の最終確認は各機関の最新リリースで行うことを推奨する。

#Scope3 #ESG開示 #SSBJ #サプライチェーン排出量 #一次データ #サステナビリティー

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KI Strategy 編集部所属。ESG・サステナビリティを軸に、開示と意思決定を貫くロジックを編む。

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